第三話 300年後の人種を求めて
シキはまだ、森の中を歩いていた。
既に辺りは真っ暗ではあるが、シキが普通に歩けている理由は言うまでもないだろう。
ここまで歩いている内に、オーク3匹とゴブリン5匹に襲われはしたが、その近くには人の気配がしなかったので目を開いた瞬間その場に倒れた魔物をアイテムボックスに仕舞うのだった。
「腹減ったぁ......」
肉体的に食べなくても死にはしない、死にはしないがそれが苦痛か苦痛ではないかと聞かれれば苦痛だと迷わずに答えるだろう。
「はぁ、適当に歩いてきたは言いものの人っ子一人いないし、街どころか村すらない......いや、そもそもこんなに歩いてまだ森を抜けられないっておかしくないか......?」
実際シキの身体能力を考えると辺りが真っ暗になるまで歩いていたというのに、森すら抜けられないなんてどれだけ大きな森なのかと首を傾げるシキだったが、幸運にも魔物らしきものと人種が戦っているらしき音が聞こえてきた。
その音が聞こえた瞬間その音の方へと歩き始める。いくら五感が鋭いといっても真っ暗な中を走るのは遠慮したい......それが森の中なら尚更。
シキは目を閉じているが故に邪眼の警戒をされる可能性も考えたが、その時は殺すつもりでいた。対策魔法が広がっている可能性を考えないでもなかったがこのまま歩くのは精神的にこたえたのか思考力が落ちていた。お腹がすいているというのもあるのだろうが。
そしてシキの前ではゴブリンとテントの近くで戦っている3人程の人物がテントの中にいる1人の人物を守るように戦っていた。
そしてその3人は斧を武器にしている体格のいい男に、短剣を両手に持ち相手を牽制するように戦っている髪の短い女性に、ショートソードをもった男の3人は苦戦していた。
たかがゴブリンではあるが、その数が30匹ともなれば苦戦するだろう。
そしてシキは、3人、テントの奴も入れると4人を視界に映さないように目を開こうとするが、邪眼がバレる可能性があるのでそれはやめて初級魔法の風魔法を使うのだった。
そしていくつもの風の刃でゴブリンにかすり傷程度とはいえ傷をつけていく。
風の刃が飛んでくる方向を短剣を両手にもった女が視線を向けて呟く。
「詠唱をしていない!?」
その言葉により他の2人もシキの存在に気づき目を丸くしていたが、すぐにそんな暇ではないと思ったのかゴブリンを一掃していく。
そしてシキの中で1つの疑問が生まれていた。
(何をそんなに驚いているんだ......? 初級魔法なんだから当たり前だろ?)
そんなことを内心で呟いている内にゴブリンが5匹ほどになり撤退していった。
そうなれば当然いきなり現れたシキに視線が向けられる。
その視線は警戒している視線だった。ただ、それも当然のことと言えるだろう......こんな辺りが真っ暗な時間に1人で何故こんな所にいるのか? という疑問がわかないわけがなかった。
そしてその視線に気づいてはいるがシキが尋ねる。
「なぁ、この近くの街の場所を教えてくれないか?」
帰ってくるのは警戒の視線だった。
さっきまではゴブリンがいた事と辺りが真っ暗なこともありシキの見た目に気がつかなかったが火を灯した松明でシキの見た目が見えてしまった。
こんな森の中で持ち物ひとつ持っていない人物、それも15歳~16歳ぐらいにしか見えない見た目をしていたら尚更。
そしてシキは目を閉じていた。
こんな人物を警戒するなという方がむずかしかった。
「なぁ、聞こえてるか? 街の場所を教えて欲しいんだが」
すこし苛立ちが感じられる声色に恐れたのかガタイのいい男がシキに話しかける。
シキが無詠唱で魔法を発動させているのを見ているのだからいつ自分たちが攻撃されてもおかしくないと警戒しながらだが。
「お前は何者だ?」
「何者って、ただの......」
そこまで言いかけて言葉につまる。
邪眼使い、こんなことを言えるはずがなかった。
「あ〜、まぁ、通りすがりの旅人だ」
そんな訳ないだろ! その場にいた3人は皆がそう思っただろう。ただ、それを口にすることはない、目の前の人物は確実に自分たちより確実に格上なのだから、そう考えて。
「街の場所を教えてくれ」
「......あっちだ」
「そうか、助かる」
男が指をさす。
シキには見えてはいないが鋭い五感で男が何処を指さしているのか分かったのでそういい闇の中へと消えていく。
男が嘘をついている可能性はなかった。もし嘘をついていたのならシキが感じられないはずがなかったのだから。
「助かった......のか?」
「えぇ、そうみたいね......」
「はぁ......こんな時ばっかりはこの中でなんにも気づかずに寝てるおっさんが羨ましいぜ」
「馬鹿、起きたらどうするんだよ」
「あの騒ぎのなか起きなかったんだから大丈夫だろ」
助かった、そう言ってはいるが身体はまだ警戒を解いていなかった。
シキは何故この男達が自分のことをここまで警戒するのか分からなかったが殺し合いにならなくてラッキーと思いながら街の方へと進むのだった。