第二話 森の中
「これは......」
そこにあったのは、魔法使いが持ってそうな先端だけ少し丸みがある見た目だけで見ればただの木の杖だった。
それを見た瞬間シキは察した、ここに誰がこの肉体を運んだのかを......
「これは、有難く使わせてもらうぞ」
その杖はアイテムボックスの効果を持ちながら、魔法を使うための魔力を上手くコントロール出来るというものだった。
そしてなにより、その杖......魔道具と呼ばれるその杖は新たな杖の持ち主、シキの事を主人と認識していた。
主人と認識されていることによって、シキの気分次第で杖の形を指輪の形にしたりしてただのアイテムボックスとして使ったりと、使い分けることが出来るのだった。
アイテムボックスとは名前からなんとなく察しはつくが、その杖或いは指輪をはめた手で触れることで、物をしまうことが出来る魔道具だ。 アイテムボックスの中に入れたものは時間が止まるという優れものでもある。
指輪の見た目はシンプルな白色。派手なデザインももちろんない。
早速とばかりにシキは指輪の形に変形させて中指にはめる。
「よし、こんなもんか」
杖以外には金貨が30枚程度あったりしたが、それをアイテムボックスに仕舞い早速とばかりに小屋を出る。
「さっきは気づかなかったが、結界が貼ってあるな......まぁ、300年もこの小屋が崩壊しなかったのはこれのおかげだろうな」
300年の間に古びた様子もない小屋を不審に思っていたシキだったが、この結界を見て納得するのだった。
そして、しばらく森の中を歩いたところで複数の人種が近づいてくるのに気がつく。
(......盗賊の類か? 俺の様子を伺っている、というか金目の物を持っていないかを見ているな......この指輪は大丈夫だろうな、これの価値に盗賊なんかが気づけるとは思えない)
やがて盗賊達は相手が金目の物を持ってないと知り森の中へと去っていくのだった。
この場合奴隷として、売ろうとする盗賊じゃなかったのは相手にとってラッキーと言えるだろう。
もし盗賊が襲ってきていたならばシキの邪眼により、全滅していただろう。
「捕まえて街の場所を聞いた方がよかったか?......いや、邪眼じゃ手加減は無理だな」
何しろ視界に入ってしまったもの全てを殺してしまうのだから、対策魔法を覚えている可能性はあったがその線は薄いとシキは考えていた。
シキからしてみたら盗賊達はシキが目を閉じていることから、邪眼使いだと察した可能性もあったのだから、勿論実際には違うのだが。
そしてまた、気ままに森の中を進んで行くのだった。
「腹が減ったな......」
作られた肉体とはいえ、お腹がすいてきたシキだったが、水は魔法で出せるとしても食料は生憎持っていなかったので食べられそうな魔物や魔獣を探そうと思ったのだが、生憎シキは魔物や魔獣の解体の知識は持ち合わせていなかった。
ため息を吐きながらも道とは言えない森の中を進むのだった。
「......」
しばらく進んでから出てきたのは身長2メートルほどある豚の顔をしたオークだ。
「オークか......はぁ、オークの解体も俺には分からないな......アイテムボックスに入れておいて街についてから売るなりなんなりすればいいか」
そう呟き先程まで閉じていた目を開ける。
綺麗な赤い瞳と青い瞳がオークを視界に入れた瞬間にオークはその場に倒れる。
「よし......倒したはいいが、死体が綺麗すぎるな......」
死体が綺麗だと、売ったりする時にどうやって倒したと聞かれれば厄介なことになる、そう判断したシキは図書館なりなんなりで邪眼の事を調べるまではこのオークは封印だな......と思いながらアイテムボックスに仕舞い、目を閉じるのだった。
いくら五感が鋭くなっているとはいえ、油断というものはある。そのため、周りに気配が無いのが分かってはいてもシキは目を閉じるのだった。
勿論長年の癖というのもあるのだろうが......
「邪眼の事を調べるのは勿論として、魔物や魔獣の解体もおぼえた方がいいのかもな......いや、邪眼が広がっていないなら別に冒険者ギルドに解体の依頼とか出せばいいか、俺が冒険者になるにしろ先に学園に入るにしろ依頼はだせたはずだしな」
冒険者になってから学園に入るか、その前に学園に入るか迷っているシキ。
「冒険者か、学園......どっちを先にしようか......いや、俺に選択肢はないか......」
学園は実力重視だ。シキの体は普通の人間より何倍も強くは出来ているが、ずっと邪眼で戦ってきたせいで武器の扱い方を知らなかった。
流石に学園に入るための試験に邪眼を使う訳にはいかず、シキは先に冒険者になり、武器の扱いを感覚で覚えてから学園に入ることにしたのだった。
シキが誰かに教えて貰おうとせず感覚で覚えることが前提で考えているのは、教えてもらう人に目を閉じるなと言われてしまえば厄介なことになると判断しての事だった。