第十話 道中
あれからシキは小一時間程警備兵達に取り調べを受けた。
「はぁ......何かを食べるって気分じゃないな......」
シキはまた面倒事に巻き込まれる前に宿をとる事にした。
警備兵に宿の場所を聞いておいたのでその辺に関しては抜かりなしだ。
「一部屋頼む」
「はい、一日銀貨一枚ですよ」
「ああ」
シキは銀貨一枚を渡し、部屋に入り吸い込まれるように布団に潜り眠りにつく。
「ん......朝か......俺何時間寝たんだよ......」
シキが眠りについた時は肌寒さ的にまだ昼ぐらいだったことが予測出来た。
そんな中人の気配を確認し少しだけ窓を見ないように部屋を見ると朝だということが把握出来た。
「ロール達に置いてかれる前に行くか」
実際にはシキは恩人であり護衛なのでそんな事はありえないのだが、早くついておくに越したことはなかった。
シキはアイテムボックスから串焼きを取り出し素早く食べると後門へ向かう。
昨日警備兵に聞いておいたのだ。
「シキさん!」
不意にそんな声が後門の方から聞こえてくる。
「早いな」
「いえ、私達も今来たところですよ」
実際には分からないがロールがそう言うならとシキは馬車に入る。
それに続きロールも中に入る。
「では行きましょうか」
そしてロールは御者にそう声を掛け馬車が出発する。
そのまま特に何も無いまま夜を迎える。
「今日は何事もありませんでしたね」
「そうですね。しかし明日は一気にアルダに向かいますから盗賊の心配はいりませんが魔物には気をつけましょう」
「そうですね、気をつけると言ってもシキさんに頼ることになってしまいますが」
商人達がそんな会話をしている中シキは干し肉を食べていた。
シキと違いこの商人たちはアイテムボックスなんて貴重なものなんて持っていないので保存が効くものを持ってきているのだ。
シキは街を出る前アイテムボックスの存在を教えようかとも思ったが、今更言っても食事に関しては変わらないだろうと思いそのまま馬車を出発させたのだ。
もし仮にシキがその事について話していれば多少の時間ぐらい構わないとロール達は何かを買ってきていただろうが仕方ない。
ロール達の唯一の救いはシキがアイテムボックスを持っているとまだ知らないからだろう。
「シキさん、私達はそろそろ眠りますね」
「ああ、分かった見張りは任せろ」
「よろしくお願いします」
シキの五感があれば眠っていても何かがあれば起きれるだろうがその時もし万が一ロール達が先に起きていてロール達がシキの視界に入らないとも言いきれなかったのでシキは大人しく眠りにつかずに見張りをすることにした。
単純にロール達が本当に大丈夫なのか? という心配をして明日に支障を来たして欲しくなかったというのもあるが。
(......見られてるな盗賊か? だったらこっちとしても嬉しいんだがな......昨日は結局破滅の杖の実験が出来なかったしな)
そう考えながら意識をシキを見ているものに向ける。
そうすると声が聞こえてくる。
「護衛はあのガキ1人ですぜ」
「なんでかは分からねぇが俺たちにとっては好都合だろ、行くぞ」
そう盗賊たちが言い終わった瞬間シキは指輪を破滅の杖にし盗賊たちの方へ向かって走り出す。
これがもう少し統率のとれている盗賊ならシキの周りを囲んでいたのかもしれないが幸いな事にそんな事はなかった。
そして盗賊達はいきなりのシキの行動に動揺し動きが遅れる。
そんな中シキは破滅の杖を振り回し盗賊たちを肉の塊に変えていく。
「う、うわぁぁぁぁ」
一人がそう声を上げ逃げ始めると他のもの達も一斉に逃げ始める。
シキにとってラッキーだったのは逃げる方向が全員同じということだろう。
やがて20人程殺したところで頭の中に声が鳴り響く。
【特定の生命を20人殺しました。あなたは残虐ですね。威圧を収得します】
何故杖がこちらに話しかけている気がしたがそんなことよりと早速収得したものを使ってみる。
「威圧」
その瞬間逃げていた盗賊たちの足が止まりその場に崩れる。
そしてシキは盗賊たちに近づいていく。
「ま、待ってください......助けてーー」
それを言い終える前にシキは他の盗賊同様肉の塊に変える。
そうして全ての盗賊を片ずけるが新たに言葉が聞こえることはなかった。
このままにしておけば死体を狙って何かが来ないとも限らないので取り敢えずアイテムボックスに仕舞う。
血の匂いで何かが寄ってくる可能性もあったがそれは仕方ないだろうと思いそのままにする。
シキは元の場所に戻り誰も起きていないのを確認するとまた周りの気配を探り出す。
そしてロール達が起きるまで何事もなく朝食を食べアルダに向かい始めるのだった。