第六話 二、七五○万年周期
「〝あの日〟と言っても三日ほど前の話じゃ。ユウトには、この世界で起こった出来事を視てもらった方が早いかもしれんのう」
そう言うとンダ村長は、横たわる佑都の頭に両手を近づけ、発動した魔法によって脳内に映像を送り込む。
その映像は、巨大な都市がおぞましい怪物の群れに襲われ、壊滅させられる光景だった。
「おい、エザ! 死ぬな!」
ミミと思わしき女性が、近くに倒れている男に寄って叫ぶ。
「悪いミミ、俺はここまでだ……。後のことは……頼むよ」
「お前、女に責任押し付けて先に逝く気かよ!?」
ミミの叫びも虚しく、男はそのまま息を引き取る。
この時、ミミの周りには他にも三人もの人物が血を流して倒れていた。
「何でみんな、一番弱い私を残して死んでしまうの……」
ミミもまた、全身に傷を負い、かろうじて意識がある状態である。
『これが五星護士と呼ばれ、戦争に駆り出された者達の末路。彼らはこの惑星、〝アロトプス〟を守る為にその命を捧げた』
映像を見る佑都の脳内に、ンダ村長の言葉が響く。
『その中の一人が、ミミか』
『左様。一級魔術士のミミとて、その心を挫かれるほどの強敵たちの群れ。誰もが人類の生存を諦めた』
『人類の生存……この世界は、終わろうとしていたのか?』
佑都の問いに、ンダ村長は頷く。
『そうじゃ。この宇宙は二、七五○万年に一度、あらゆる惑星に生きる、あらゆる生命体を篩に掛ける。つまり弱き者を殺し、強き者を選別するのじゃ』
『ウソだ……本当にそんな事が?』
ンダ村長は再び頷き、佑都に映像の続きを視せる。
そこには死を覚悟したミミが、死にゆく者達の魔力をかき集め、禁断の魔法を発動しようとしている場面だった。
「どうせ私も死ぬんだ……。なら派手に一発、お見舞いしてやる。人間舐めんなよ」
――この惑星ごと死んでしまえ。如法撹輪天乱!!
ミミを中心に放たれた魔法陣は、一瞬で周囲を暗黒に染め上げる。
そしてその魔法は時空を歪ませ、あらゆる時代、あらゆる惑星の独立性を掻き乱し、一時的に、この宇宙の全てが融合する。
このあまりにも反自然的な現象により、彼女の周囲の戯獣たちは一斉にその姿を保てなくなり、その場で弾けて死んでいく。
そしてミミもまた、膨大な情報の波に襲われ、死にゆく自分自身と向き合っていた。
「最悪の最期ね、全く――」
しかしその時、ミミは一筋の光を見る事となる。
融合したあらゆる惑星の情報の波の中、唯一、希望を持てる映像を目にする。
「あれは何……?」
そこには豊かな自然が広がり、娯楽や食事を楽しむ人々、そして笑顔あふれる情景で満たされた世界があった。
「噂には聞いた事がある……。まさかあそこが、奇跡の惑星〝地球〟?」
ミミは残された力でその情景に手を伸ばす。
そして吸い込まれるかのように引っ張られ、ミミは気付けば、見たことのない街にいた。
「こ、ここは……」
この時、ミミは地球という異世界に迷い込んでいた。そしてその場で、魔力切れにより意識を失う。
それと同時に、佑都の脳内に映し出されていた映像も消えた。
「それから一日が経ち、ミミは目覚めたようじゃ。この時、魔力もある程度は回復しておったのじゃろう。じゃが、時空の歪みは新たな脅威をも送り込む事となる」
「それが、俺たちの前に現れた戯獣?」
「左様じゃ。今でこそ歪みは消え、アロトプスと地球との繋がりは絶っておるようじゃな。じゃが地球に迷い込んだミミの消息は未だ不明。更には地球から誤ってお主を連れて来てしもうた」
「誤って……か」
「申し訳ないのう」
ンダ村長は横たわる佑都に謝り、そのまま黙り込んでしまう。その村長の顔を見て、佑都は本音を告げる。
「まぁ確かに、地球は奇跡の星って言われてるけどよ、皆が思うほど平和な世界でもないよ。戦争をしている国だってあるし、平和な日本でも自殺する人が多い。裏切るようで悪いけど、それが現実なんだ」
「じゃろうな。本当の理想郷など、どこにもあるまいよ……」
ンダ村長が深く息を吐くと、沈黙していたモモが口を開く。
「ミミ様、無事かしら」
モモは立ったまま涙ぐんでいる。佑都は気まずい雰囲気を変える為に、彼なりに配慮する。
「どうしようもない事は、考えてても仕方ない。まずは今できる事を考えなきゃな。俺はひとまず、筋肉痛治さねぇと……」
佑都がそう言うと、いつの間にか村長の家からいなくなっていた宿屋のお姉さんが、注射器を片手に再び家に戻ってくる。
「これ、筋肉痛に効くと思うの。ジャガイモを発酵させて、すり潰して抽出したジャガイモエキス。打ってみない?」
「え」
「ちょっと試してみようかのう」
佑都は得体の知れないジャガイモの液体の実験台とされ、その場で甲高い悲鳴を上げる。