第二話 ゴミを投げないで下さい!
「待って待って! 俺と君とで戯獣を倒すの!?」
突然、戯獣と呼ばれる怪物に襲われ、混乱していた佑都だったが、ミミは構わず提案する。
「えぇ、ここで殺されるくらいなら、先に殺っちゃいましょう」
「どうやって!?」
佑都がもたもたしている間に、周囲には四体もの戯獣が迫っていた。
「武器を貸してあげる、これを使って!」
ミミはズボンのポケットから、くしゃくしゃに丸めた紙くずを取り出し、佑都に投げつける。
「ちょ、ゴミを投げないで下さい!」
「ゴミじゃないわよ! 拾ったら開いて」
佑都は飛んできた紙をつかみ、急いで広げる。すると紙には魔法陣のような模様が描かれており、それは突然、眩い光を発する。
「ぎゃっ!」
魔法陣からは一振りの剣が浮き上がり、刀身が全て現れたと同時に、紙は粉々に散っていく。
佑都は宙に浮きながらゆっくり降りてくる剣の柄を掴む――ちなみにこれはダジャレではない――。
「その剣は、伝説の剣豪トロスが使っていた剣よ。万が一の為に、簡易的に封印していたものなんだけど、使えそう?」
「わ、分かった、やってみるよ」
佑都が両手で剣を構えたと同時に、四体の戯獣は一斉に佑都へ襲いかかる。
――上から下? 右から左? 剣ってどうやって振るえばいいんだ!?
剣など扱った事のない佑都だったが、今度は剣から言葉が伝わってくる。
「案ズルナ。肩ノ力ヲ抜イテ、剣ニ任セテオケバ良イ」
「はぇ!?」
佑都が剣から伝わる言葉を聞き終えた頃には、既に四体の戯獣は激しく斬りつけられ、痛みに悶えていた。
――俺、何かしたか!?
再び困惑する佑都の顔を見て、ミミが答える。
「あ、多分ユウ君、剣に意識を乗っ取られてたわね。でも悪い剣じゃないから気にしないでね」
「大丈夫なんですかねぇ!?」
これで身の危険を回避したと思った佑都だったが、視界の奥からは、また別の戯獣たちがぞろぞろと迫って来る。
「思った以上に数が多いわね。仕方がない、一旦外に出るわよ。一回だけなら転移魔法が使えるわ」
「ま、待ってくれ! ここには俺の友達の遥希が――」
言葉を言い終えるよりも先に、佑都はミミの転移魔法によってショッピングセンターの入り口へと戻されていた。
「遥希、遥希はいないのか!? あの女……‼︎」
入り口まで戻されたのは佑都一人だけだった。
佑都の周りは、逃げ惑う人々で溢れている。佑都は遥希の名前を繰り返し叫ぶが、一向に返事は返ってこない。
「遥希……ごめんな、見捨てるつもりはなかったんだ」
「ハルキってこいつかしら?」
突然、佑都の前にミミが現れ、背中には傷だらけの遥希を背負っていた。そしてその場にゆっくり降ろす。
「あ、あぁ……こいつが遥希だ。疑って悪かった、助かるよ……」
「いえいえ、お安い御用――」
言葉と同時に、ミミは大量の血を吐き出す。一度しか使えない転移魔法を二度使った事で、彼女の魔力は限界を超えて尽き果てた。
――無理した代償に、内臓ひとつ持ってかれたわね……。
「おい、大丈夫か!?」
「えぇ、心配ないわ。大きい声は響くから、静かに喋って欲しいけどね……」
佑都は満身創痍のミミを心配しながら、再び辺りを見回す。大宮駅周辺には大量の戯獣が暴れ回っており、中には鳥の姿をした化け物もいる。
「とことん巻き込んでしまったわね。今更逃げてなんて言っても、逃げ場なんてないでしょうし……私ももう、力にはなれない」
「ま、まぁそう結論を急ぐなっての。俺にはまだ、この伝説の剣トスロがあるんだからな」
「剣豪トロスの剣ね……。あと剣に名前はないわ」
「お、俺には剣豪トロスの剣があるからな! ハハハ」
佑都の体は震えているが、彼の腹はもう決まっている。
「遥希とミミを傷付ける奴は、この佑都が相手になるぜ!」
すると周囲で暴れていた戯獣の群れは、一斉に佑都を目掛けて襲いかかる。
「げっ、何でや!」
「煽るからよ」
佑都は再び剣を構え、戦闘態勢を取る。すると再び、剣から言葉が伝わってくる。
「好キ勝手言イオッテ。仕方ガナイ、ソノ身体、再ビ借リルゾ地球ノ小僧」
トロスの剣を握りしめた佑都は、剣の意思によって、迫りくる戯獣を次々と斬り倒す。周囲は戯獣から吹き出た血で赤く染まるが、斬られた肉体は灰のように散っていく。
剣を振るい戦う姿は、決して素人の動きではない。しかし佑都の体力も、決して無限ではない。
「ハァハァ、これじゃキリがないな……」
少なくとも二十体近くの戯獣を斬り払ったが、まだその場には、それ以上の戯獣が確認できる。ほんの僅かな時間だったが、佑都の体は全身が筋肉痛を訴え、もはやまともに動く事ができない。
これ以上は身が持たないと思い、剣を手放そうとしたその時だった。
突然、駅の中から巨大な黒い手が現れる。そしてその手は、周囲の戯獣を無視して佑都のみを狙って襲いかかる。
「おい、今度は何だ!?」
佑都は抵抗する間もなく巨大な手に掴まれ、そのまま揉みくちゃにされながら手の中に引きずり込まれる。
「お、おいやめろ!」
「ユウ君……」
黒い手に引きずり込まれる佑都を、ミミは薄れる意識で見つめていた。
「ごめんね――」