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この日、僕は生まれて初めて、救急車に乗った。その横で苦しそうに呻く母がいた。
「ーー母さん、僕が変な話聞かせちゃったからこんな事になったんだとしたら、、ごめん」
秀二の恵への優しさは、涙に変わった。
しかし、それも今日までーー。
新たな決意を胸にした秀二は、静かに病院を後にした。
真夜中の廊下。
僕の歩く足音が追いかけてくる。
ふと、僕は足を止めた。
真っ暗闇だった廊下の先に、ぼんやりと灯りを灯しているナースステーション。
「こんばんは。原口恵の息子ですがーー」
「ーーはい、どーされました?」
看護婦さんだろうか?看護師さん?僕には分からないが、背の低い看護婦さんに、僕は頭を下げて言った。
「お世話になります。母も眠っているようですので、とりあえず今日は帰ります。また明日、来ると母にお伝えください」
「はい。わかりました」