悪夢
俺は夢を見ていた。
遠い昔の夢だ。
あれはまだ俺が12才の夏。
今から六年前の悪夢だ。
12才の夏。
学校を終え、家に帰ると玄関のドアを開け、室内に入る。
そこで俺は目を疑った。
父である健吾が、天井からぶら下がっていたからだ。
朝、家を出た時は、いつもと何ら変わらない表情で「秀二、頑張ってこいよ」と笑っていた。
いつもと同じ父の姿が、ここに合ったのに、、。
そのぶら下がった父を眺め、気持ちの整理をしようとしたが、出来なくて秀二はただ呆然と過ごしていた。
「父さんーーどーして?」
「どーしてこんな?」
涙が溢れてくる。
こんな風に泣いたのも久しぶりだ。
僕は警察に電話した記憶もないが、パトカーの音が近づいてくる。
無意識に発していただろう俺の悲鳴を聞き付けて、近所の人が警察を呼んでくれたに違いない。
ピンポーン。
警察官が入ってくる。
「ーー君、名前は?」
「斎藤秀二です。12才」
「ーー俺が学校から帰ってきたら父さんが、、」
涙を流しながら、父の脱け殻に指を指す。
どんな表情をしていたのか?俺にはわからない。
警察官は真剣な眼差しで俺の肩を叩き言った。
「家の中のもの、何も触ってないね?」
「はい」
そう答えると、俺は婦人警察官に保護された。
警察官が室内に入り、ドラマで見るような印をつけている。
その間、俺は婦人警官に連れられ、パトカーの中で待たされていた。
その間に状況を聞かれる事になる。
「お父さんが自殺するような原因はあったかな?」
「ーー多分、、ないと思います」
「それじゃ殺されるような理由は?」
「わかりません。ないと思いますが、、」
警察官の顔が見ているうちに、黒い塊になっていく。
そこで俺は目を覚ました。
瞳からは涙が溢れている。もー6年も前の事なのに、、。
どーしても忘れられない。
ーーねぇ、お父さん。
ーーどーしてこんな事になっちゃったのかなぁ?
父と二人で生きていた俺は、いきなり一人になり、肩身の狭い思いをしながら、親戚の家に居候させてもらっている。
ーーどうして僕だけが、こんな目に会わなきゃいけないのだろう。
俺のお父さんはなぜ、その命を失わなければいけなかったんだろう。
ねぇ、お父さん、、どーして??
俺を残して、どーして死んじゃったの?
壮絶な現場と化した家を眺めている。その夢を俺は繰り返し見てきた。
警察官は「自殺」だと言っていた。しかし、別の場所に父の死の原因があったのかも知れないーー6年も経った今になって俺はそう思う。父が今も俺に何かを伝えているような気がして、、。
その日。
雨も降っていないのに曇っていて、遠くの方では雷の音が繰り返された。
変な天候だった。
あれから6年が経ち、今日で俺は18才になる。
6年前のあの日。
父の死という絶望しかなかったが、あの日は俺の誕生日だった。
本当なら父が笑顔で迎え入れ、その誕生日を祝ってくれるはずだったのにーー。
何度問いかけても、父はもう何も答えてはくれないーー。
そして俺はまた悲しい夢を見た。
父の最後の姿を、繰り返すようにーー。