始まりそうで始まらない短編集
一応後二話投稿予定
予定は未定って言葉好きだよ
ーーーーーーー限りない蒼空。
ーーーーーーー視界一面の青。
自らの存在を把握出来るのは足元に広がる波紋しかない不思議な空間。
『選択せよ。己の道を。貴様にその覚悟があるのなら。』
『選ぶがいい。これからの運命を。お前には資格がある。』
『決めなくてはならない。自らの意思で。貴方は選ばれた。』
頭に響く無邪気な幼子のような、疲れきった老人のような声。機械のようでいて何処か熱意のある、人間味を削ぎ落とした音の連なり。猛々しい益荒男のようにして妖艶なる美姫であるよう感じさせる不思議な問いかけ。
『…………オレは』
後悔は赦されない。己が選択した未来なら。
迷ってはならない。自分で選んだ結末だから。
貫き通さなければ。どんな苦難が待ち受けようとも。
「何故だ!何故貴方がアレを庇う!アレが何をしてきたか貴方が知らない訳がないだろう!」
此処彼処に火の手が上がる戦場で四方をかつての味方に囲まれた絶体絶命の中で思い出す、己の原点。かつての誓い。
「(嗚呼、確かに俺はあの時決めたんだ。)」
「【斬り拓く。鎮め、静め、世界の焰。】」
「ッッ!止めろ!あの魔法は!!」
それが例え選ぶ以外に道がなかったことでも、自らが選べただけ幸せだったのだと今ならば思える。数々の出会いと別れ。数多の傷と沢山の幸せ。全て忘れたくない思い出だ。
相手方から突き出される槍に貫かれたことで襲い掛かる激痛を無視して覚悟を決める。
「……ッ!【装填・●●之青】」
「止めてくれ!それを使ったら戻れなくなる!世界から追放されちまうぞ!」
ごぽりと口から溢れる赤をどこか他人事のように見ながら最後の力を振り絞る自らに遠くから微かに聴こえる[ ]の声。
………後悔などない、とは言えない。あのときああすれば良かったなどと迷うことは数えきれない。こんなことをやっても喜ばないだろうし全力で止められるだろう。
それでも、ああ、そうか。私はやり遂げたのだ。大粒の涙を流し叫んでいるであろう顔も忘れてしまった彼女の姿を想像して一欠片の苦笑と共に水泡の如く弾けては消える記憶に喪失感を覚えながら奇跡を唱える。
『たった一人でもいい。誰もを救えるなんて思ってない。』
「【原初に掲げし誓いを捧げ、顕現せよ我が祈り。】」
「何でだよ……どうしてあんたは俺らを置いてっちまうんだよ…」
遠ざかる戦いの音。表皮がひりつく程の冷気が辺りにたちこめる。此方に駆けつけようと周りの制止を振り切りながら迫る彼女。
『悲痛に泣くヒトの涙を止める、そんな英雄に。』
「【人間讃歌・蒼空、孤高の貴女に。】」
だから泣くなよ。[ ]
―――――音が消えた戦場に氷の薔薇が咲き誇った。
これは人類最新のお伽噺。たった一人の為に戦場で命を燃やした男のお話。人類の未来よりも、目の前の涙を止めることを最善とした英雄の最後であり…………
耳が痛いほどの静寂の中で少女は嘆く。
「あり得ない。」
錆び付いた時計を握り締めた人類の天敵は嗄れた声で繰り返す。
「…………あり得ない。こんなこと認めて堪るか。あのヒトがいない世界なんて、あのヒトを認めない世界なんて。やり直す。やり直すんだ。」
壊れた笑みで呟くと時計のガラスが砕け散る音と共に世界が歪む。
「絶対に取り戻す。」
「【繰り返す。廻り廻れ時の歯車。】」
今まで何度も世界を侵してきた人類の天敵足る所以。空間が、世界が軋む悲鳴こそがその証左である。この行為のせいで全人類から追われてきたがそれがどうした。
「【開封・●●の赤】」
私なんかの為に死んで良いような人ではなかった。私なんかに関わらなければもっと大勢の人に慕われ、国中から称賛されるような英雄になっていたかもしれないのに。
「【終演を奏でる祈りを破り、世界を伐め我が怒り。】」
罅割れた世界を払いのけ手を伸ばす。
それが例え貴方が望まない事だとしても。
「【伽噺境界・深紅、彼の日のキミへ。】」
取り残されてしまった少女の嘆きの物語。
act-001 act-002
[ ●●の青 / ●●の赤
独り善がりの二重奏 / 繰り返しの詠嘆曲]
ここは戦場。
憎しみ、悲しみ、怒り。
この世のありとあらゆる悪意が渦巻く混沌の坩堝。
「何故だ!何故貴方がアレを庇う!アレが何をしてきたか貴方が知らない訳がないだろう!」
相対するは嘗ての戦友。
数多の闘いを共に乗り越えた憧れとも言える英雄。
そんな漢がこの戦での討伐対象という事実に驚きを禁じ得ないと共に何故だという感情に頭を支配される。
「何だ、この程度か。」
最初の印象は[なんだこの糞野郎は]だった。
王国の第三騎士団の一部隊長だった俺に対して言い放ったその一言でこいつ性格悪すぎだと思ったのが記憶に残っている。
確かに特乙級の群れに囲まれ全滅の危機だった俺らを助けてくれたあの男には感謝しかなかったが無表情で無感情、淡々とした口振りに人としては酷すぎると感じた。
「この程度の絶望、何度も乗り越えて来たさ。」
次の印象は[これこそが英雄か]というもの。
甲下位級の襲撃に会いまたもや全滅しそうになっていた不甲斐ない俺らと護るべき祖国を背に先陣を切った英雄の第一歩。
根なし草のあの男にはそこまでの責任など無いのに強大な敵に対して見事討ち取ったあの背中に憧れた。
「お前らがそんな顔でどうして国を護れる!」
その一言で救われた。
その一言に勇気を貰った。
その一言があったから護りきれた。
「【抉じ開けろ。護り貫くは人の意思。】」
所詮、部隊長レベルの俺に大した魔力はない。
だがこの世界の魔法は意思が全て。
心の持ち様でいくらでも強くなり弱くもなる魔法で戦場の土壇場で至ったのは奇跡とも言える。
「【連節・●●之緑】」
「「【繋ぎ】!」」
「「【結び】!」」
「「【纏め】!」」
「【想いを束ね希望を示すは、我等が意思。】」
きっと、この奇跡はあの人がいなければ成立しなかったものだ。
一人一人ではただの人間な俺らの力を合わせて崩壊から王国を救った守護のヒカリ。
あの人の言うこの程度の絶望は遥か高みだったけれど。
「【共鳴重奏・深碧、明日を紡ぐ絆。】」
だからこそ止めたかったのに。
act-003
[ ●●の緑
籠の中の助奏 ]
それは希望だった。
「大丈夫か?」
檻の外からかけられた言葉に目を向けると光を背にあの人が立っていたのを覚えている。
生まれてこの方檻から出たことのないワタシを外に連れ出してくれたあの人。
綺麗な黄色のワンピースを貰った。
美味しい物を食べさせてくれた。
暖かいベッドで頭を撫でてくれた。
そんなあの人が捜している彼女。名前なんて知らなかったけど、他の人がマオウだと言ってるヤツなのは何となくわかった。
でもそんなことはどうでもよかった。あの人の役に立てれば、恩を返せればどうでもよかったのだ。
「【奮い立て。探す、捜す、彼方の希望。】」
ワタシはあの人と歩いた道しか知らない。
あの人が教えてくれたことしか知らない。
あの人が死ねと言えば喜んで死のう。
「【探求・●●之黄】」
だけどあの人は何も言わず消えてしまった。ワタシが嫌いになったならそれでもいい。なにか、なにか一言でもくれたら充分だった。
それなのに……
「【あの日の希望を求めるココロ、願いを大地へワタシの絶望】」
もうどこにも居ない。そんなことは解ってる。
だけど、だけど!!解ってても諦められない!
だって、あの人は生きろと言っていた!あの人は諦めるのは駄目だと言っていた!
だから……だから!!
「【存在証明・支子、あの人は何処へ。】」
見つけ出す。あの人の証を。
act-004
[ ●●の黄
錆びついた夢想曲 ]