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令嬢戦記  作者: 白川 緑黄
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公爵邸にて団らんを

二話目です。

 魔王が闇魔法を放ち、それをリーゼロッテが強靭な肉体で跳ね除け、もはや人間離れした圧倒的な力で魔王をねじ伏せるが、防御魔法で弾かれる。


相手に傷一つ負わせることができない、一進一退の不毛な闘いは三日三晩続き、城は無残に崩れ去り、四天王は参戦していないにも関わらず、満身創痍の体で瓦礫に埋もれ、戦いの行く末をただただ傍観していた。


リーゼロッテは息切れ一つすることなく服の埃を払うと、宙へ浮かぶ魔王を見やる。

「そろそろ私の体力も尽きるようだ、まだまだ修行が足らんな」

「はぁ、はぁ…余は…まだまだ、魔力は尽きんぞ」

ぜぇぜぇと肩で息をしながら魔王は笑うが、目は座り美しく艶やかだった黒髪は埃にまみれ、薄汚れた鼠のようだ。ボロボロの姿に魔王の威厳は微塵もない。


魔王は右手をリーゼロッテへ向け、最後の魔力を振り絞り、漆黒の槍を召喚した。

右手をヒュッと頭上へ上げ、狙いすました漆黒の槍がリーゼロッテ目掛けて放たれる。

どすっと鈍い音が響き「っぬぅ」とリーゼロッテが唸り、膝を付いた。

「やりましたね!魔王様!」体はバラバラに瓦礫へ埋もれてしまい、頭蓋骨だけになった骨が、槍を受け動かなくなったリーゼロッテを見て、魔王の勝利を確信した。

「ふん、まぁ良い運動にはなったぞ」

ストンとリーゼロッテの前に降り立ち槍に手をかけると、ふっと微かな声が漏れ聞こえ、魔王は目を見開いた。

緋色の瞳は槍の先、リーゼロッテの左胸へ向けられている。確かに刺さっているが浅い。強靭なその大胸筋で、致命傷を防いでいるのだ。その事に気づいた時にはもう遅かった。

槍が地面にガランッと音を立て落ちた瞬間、リーゼロッテは魔王の後ろに回り、手刀を放っていた。

「っぐ」鈍器で後頭部を殴られたような激しい衝撃を受け、地面へ崩れ落ちた。

「悪いが、私に膝を付かせた貴様は、確かに勝った。」

ふわりと魔王の体を持ち上げ、まるで壊れ物を扱うように優しく横抱きにする。

薄れゆく意識の中「しばらく付き合ってもらう」と言う声が聞こえた。


 何が『体力が尽きた』だ、魔王は高速で移動を続けるリーゼロッテの腕の中で、抵抗をする気もなく考えていた。

山や谷をこうも簡単に飛び越えて行く人間など、勇者に選ばれた者でもあり得ない。

ましてリーゼロッテは魔法すら使っていない、全て自力だ。

この者の真意を見極めなければならんな…そんな事を考えている間に、二人はエインティア国の王都へたどり着いていた。

普通の人間なら、徒歩で半年はかかる距離ではないか…魔王はとうとう考えるのを止めた。


 王都北側に聳える宮殿を囲むように、貴族や上級騎士の邸宅が並ぶ、他の邸宅を圧倒する程の屋敷がカーティス公爵邸だ。

カーティス家は貿易により、力を付けた家だ。貿易が盛んでないこの国で、領地に湧き出る、特殊な魔力を資源として加工、流通させている。

割れることのない特製の瓶に魔力を閉じ込め、ランプの明かりから列車、船の動力に至るまで現在のエインティア国では、生活に無くてはならないエネルギーとなっている。

しかし『国外にその技術を流出してはならない』と、現国王の命によりあらゆる貿易に多大な税金が掛かる為、他国にはエインティア国のように広く流通していない。

だが身分の高い者は重宝し、高値でも取引されカーティス公爵家及びエインティア国に、多大な富をもたらしている。


リーゼロッテは重厚な玄関扉を開くと、ズンズン迷うことなく中へ進む。

使用人が令嬢の帰宅と、その腕に抱かれた魔王にぎょっとするが、魔王は美しい宝石のような緋色の瞳を死んだ魚の目にし、無心でいることに徹していた。


屋敷の二階、南側にある扉を、リーゼロッテが優しくノックする。

「お母様、リーゼロッテです。只今戻りました」

侍女が静かに扉を開け、室内へ二人を促した。

きっとこの屋敷の中で一番日当たりが良い部屋なのであろう、暖かく優しい日差しが差し込む部屋に女性がベッドに横たわっている。横には侍女と思われる女性が控えていた。

「あぁ私の可愛いリズ、良かった、戻ってきてくれたのね」

横たわったままの女性は顔だけを二人に向け、優しい微笑みを向ける。

「はい、お母様リーゼロッテ只今戻りました」

横抱きにしていた魔王を気遣いながら降ろすと、リーゼロッテは女性の元へ駆け寄り、脇に膝を付いて微笑みを向けた。

「お父様はもうすぐ戻られるわ、リズの帰国を知ってすぐ、こちらに連絡が来たのよ」

女性は慈しむ様に、リーゼロッテの頬を撫でる。リーゼロッテは目をつむり、気持ちよさそうにされるがままだ。


規格外な公爵令嬢の親なのだ。放たれた100の砲丸さえ、指先で跳ね除けるような人間かと思っていたが、普通の美しいどこにでもいる公爵夫人ではないか。

依然変わりなくボロ雑巾の様な魔王が、淀んだ瞳で親子の麗らかな団らんを見て、そんな事を考えていると、バァンと大きな音を立て扉が開かれた。

「リズ!私の天使!よくぞ無事に戻ってくれたね!」

満面の笑みを浮かべた男が両手を広げ部屋に現れると、ベッドの脇に膝を付いていたリーゼロッテを抱きしめた。

しかし巨体に腕が回りきらず、抱きしめるというより、大樹に腕を回して喜ぶ観光客のようだ。

「もうあなた、リズが驚いてしまうわ」

少し怒ったように女性が窘めると、男性が恥ずかしそうにリーゼロッテから離れコホンと咳払いをした。

「すまないねリズ、つい嬉しくて」男性が恥ずかしそうに微笑むと、リーゼロッテは立ち上がり、男性に向き直る。

「いえ、私もお父様にお会いできて嬉しいです」リーゼロッテも微笑み返し、三人は部屋に差し込む暖かな日差しと共に、優しい雰囲気に包まれた。


魔王はその様子を無心で見つめていたが、不意にベッドの女性と目が合い、現実へ引き戻された。

「リズ、彼を紹介してくれる?」

降り注ぐ日差しのような暖かな瞳で微笑まれ、魔王はぐっと苦々しい表情を作った。

「紹介が遅れ申し訳ございません魔王様、こちら私の父グレン・カーティス公爵と母メリーベルでございます。」

熾烈を極めた争いを繰り広げ、挙句自分を拉致した者に、突然礼を尽くされ魔王はただ「うむ」と答えてしまう。魔王の思考力は完全に落ちているようだ。

「お父様お母様、私を倒した魔王様でございます」

「この方が、この世最強と呼ばれる魔王…様?」目を見開きグレンが魔王を見つめ、少しの間をおいて礼を取る。

「失礼いたしました。私がこのカーティス家当主、グレン・カーティス公爵です」

そしてチラとメリーベルに目を向け「妻は病の為、このような姿で申し訳ございません」と言い、メリーベルを紹介した。


ふぅと息を付き、魔王はリーゼロッテに目を向けると、胸に秘めていた疑問を口にした。

「それで、余は何故ここに連れてこられたのだ?」



次回も読んでいただけたら嬉しいです。

明日3話、明後日4話でストック切れるので、それ以降は不定期になります。

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