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第2章 船内散策 その3

「キャプテンなら多分船長室に居ると思いますよ。チョッサーはどうかなぁ〜……この時間寝てるかも」

「チョッサー?」


 ノアが首を傾げると、チーフオフィサーの省略でチョッサー、一等航海士のことだよとマコトは丁寧に説明を付け加え、それを聞いたノアは再びそのことをメモに記した。


「そうか、ありがとうまこっちゃん。それじゃあ行こうかノアちゃん」

「あ、はい!」


 ヒラヒラと手を振るマコトと、礼儀正しく頭を下げるミコトを後にし、ノアとアルビナは案内所を出て、再び車両甲板に続く階段のある踊り場に戻ってきた。


「ここからブリッジに上がれるからね」


 そう言ってアルビナは、従業員以外立ち入り禁止と書かれた立て札が貼られている扉を開く。その先には、金属の簡素な階段が上下に続いており、二人はブリッジのある上の方へ上がっていった。


 最上階に辿り着くと左右に扉があり、アルビナが左の扉を開くと、まず目に飛び込んできたのは180度外の光景を眺めることができるフロントガラスと、船を操作するための操舵輪だった。此処こそが船の中枢となるブリッジだった。


「うわぁ、ここがブリッジですか! 見たことない物がいっぱい並んでる!」


 ブリッジに入り、ノアは物珍しさ故か、ぐるっとその内部を見て回る。絶対弄ってはならないだろうと思われる精密機械、ノアには理解できない、暗号のようなものをを唱え続ける着きっ放しの無線機、船の車両甲板を上から見た断面図が記されたボードには、車の形をしたマグネットが幾つも張り付けられており、その隣には業者の名前が表記されたリストがクリップに挟まれている。


 そしてノアが何よりも目を見張ったのは、大きな机に広げられた海図だった。ペタロポリスとオレンシティを繋ぐ航路の水深、底質、沿岸の地形から灯台などの地上目標など、様々なものの詳細が事細かく、正確に記されていた。


「気に入ってもらえたかな?」


 アルビナが尋ねると、ノアは大きく首を縦に振った。


「はい! あっでも、船員さんはいないんですね?」


 ブリッジに入って間もなくは興奮の余り気づかなかったが、よく周辺を見回してみると、ブリッジにはアルビナとノア以外の人は誰一人いなかった。


「この船は夜間航海をしてるから、船員の出勤時間は通常、その航海をしている時間なんだ。だから昼間は何かない限り、基本みんな船員室で休んでいるんだよ」

「なるほど、そうでしたか」

「でも休んでいるとはいえ、異常事態が発生したらすぐ出れるようにみんなしている。故に船員は、船に乗っている限り完全な休みなんて取れない。だからこそできるだけ彼らの負担を最小限にするために、私達陸上スタッフはサポートしてやらねばならないんだよ?」

「はい、分かりました!」

「よし! それじゃあ船長に挨拶に行こうか」


 マコト達とのやり取りですっかり緩んでしまった気持ちを引き締め、二人はブリッジを後にし、先程ブリッジに向かった扉とは逆の扉を開くと、その先は真っ直ぐに続く通路となっていた。


 通路横には扉がいくつも並んでおり、各個人の船員室の他には、クルー専用の浴場、ランドリールーム、食堂などが設けられており、ノア達がこれから訪れる船長室は、ブリッジに最も近い場所に位置していた。

 アルビナが金属の扉をノックすると、向こう側から「はいどうぞ」と返事があったので、二人は入室した。


「ああ、アルビナさんでしたか。何か急用でも?」


 船長室には、丸眼鏡を掛け、私服であろう真っ白なティーシャツとカーキ色の短パンを履いた、40代後半くらいの男が机に向かって、書類の整理をしていた。


「いえ急用というわけではないですが、今日から新しい社長が来ましたので顔見せをと」

「ノア・ディストピアです。よろしくお願いします」


 ノアは頭を下げて挨拶をすると、船長は「あーっ!」と何かを思い出したような反応をしてみせた。


「アメリデさんの娘さんの! あっ、今日からだったんですね。はじめまして、シーサイド号キャプテンのハルク・アイスバーグです」


 アイスバーグは整理していた書類を机に置くと、椅子から立ち上がり頭を下げた。


「しかし若いですね~……確かジェミニ姉妹と同年代でしたよね?」

「はい、同級生です」


「そうでしたか。本船には彼女らのように比較的若い、ルートボエニアに採用されたプロパー社員が多く乗船しています。私もそうだからです。社長が若くなったとなると若手にも勢いが着きますし、なにより私達プロパーに希望が見えてくる。是非王国汽船組に頼らない、私達の会社を作って参りましょう!」

「は……はいっ!」


 アイスバーグは目を輝かせながら意気揚々と両手を前に出してきたので、ノアはその勢いに乗せられ、思わず彼の手を取った。


「それじゃあノアちゃん……」


 ノアが困惑していることを察したアルビナは、いかにもこの後の予定があるかのような雰囲気を作って、船長室の扉を開く。


「あ、は……はい、それじゃあアイスバーグ船長これで……」


 アルビナの配慮を察したノアはアイスバーグの手を放し、一度頭を下げた後、そそくさと船長室を退室した。

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