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第1章 新米社長の憂鬱 その3

 そんなアルビナの言葉を聞いて、姿を見て、ノアはとんでもない思い違いをしていたことにようやく気が着いた。ノアを社長にと株主と役員の前で強く押したのはアルビナであり、もしここで社長を辞職してしまったら、父を裏切り、叔父の顔に泥を塗ってしまうことになる。


 しかしこの問題は、身内間だけで留まるものではない。社長の早期辞職の噂が広まればルートボエニアは信用を失い、会社運営を揺るがすことにもなり兼ねない。

 ノアの決断は会社の決断になり、それによって孕んだ問題は会社の問題になる。ノアは今になってようやく、会社の重役になったことの責任を知ったのだった。


「……おじさん、わたし自分が楽になりたいがばかりにすごく身勝手なことを言ってしまいました。ごめんなさい……本当にごめんなさい」


 ノアがアルビナに謝ると、アルビナは野菜定食を食べていた手を止め、深い溜息を一つ吐いてみせた。


「いや、よく考えてみたら身勝手なのはこちらだったのかもしれん。ノアちゃんには、ホテルコンシェルジュとして働き続ける道もあったんだ。それを配慮せず、俺達はアメリデの娘だからと社長に押し上げた。もっとノアちゃんの意思を尊重し、慎重に決めるべきだったのかもしれん……スマン、ノアちゃん」


 アルビナはそう言って頭を下げたが、「しかし」と瞬時に頭を上げ、至極真剣な表情でノアに迫った。


「今この会社で社長に最も適任なのは、ノアちゃん君なんだ。そこで再度君にお願いする。どうかルートボエニアの社長であってくれないか?」


 アルビナは深々と、自らの手前にあった野菜炒めのピーマンに鼻頭が着いてしまうほどに頭を下げてみせた。


「おじさん……こちらこそ、お支えの方どうぞよろしくお願いします!」


 するとノアも、アルビナと同じくらい頭を下げてみせる。ノアの鼻先には、野菜炒めの人参が着いていた。

 そんな五十後半の中年の男と、二十前半の若年の娘が頭を下げ合ってる光景を見た他の客はどよめいた。その中には、ルートボエニアの社員もいた。

 わだかまりが解け、この小さな食堂でようやくノアは社長になる腹を括ることができたのだった。

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