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第8章 大改革の兆し その5

「ジェンキンス課長、これからブルックソン部長の指揮の元、旅客営業部は営業実績回復の道を模索していきます。しかしそれには、営業課の課長であるあなたの力は必要不可欠です」

「…………」

「わたしもまだまだ入社して一ヶ月に満たない新人です。一方であなたは数年ここで働くベテラン。その経験とノウハウで、この会社を支える手伝いをしてはもらえないでしょうか? どうかお願いします」


 するとノアはジェンキンスに頭を下げた。そんな懸命なノアの姿を見て、ジェンキンスは自分のやったことの愚かさ、醜さを実感し、自らの過ちを思い知らされた。


「ジェンキンス君、私からもどうかお願いする」


 今までのやり取りを黙って見ていたアルビナも、ノアに倣ってしっかりと頭を下げた。

 「社長……副社長……わ……私こそ大変っ! タイヘンッ!! 申し訳ございませんでしたああああっ!!」


 そんな二人の旋毛を見て、ジェンキンスは足を崩してその場に座り込み、顏を床に伏して、土下座をしてみせた。

 彼を処分するのは簡単だったが、しかしノアはこのことを不問にした。

 その理由として、ジェンキンスを処分すれば営業課全体にノアへの不信が広まってしまい、また第二、第三のジェンキンスのような人間が出てくる可能性を考え、その芽を絶やしておく必要があったからだ。


 それともう一つ、ジェンキンスはこれで今後ノアに頭が上がらなくなったため、営業課を扱うための、自らの手足にするためだった。

 そんな不問の許しを得たジェンキンスは、何度も何度も頭を下げてから社長室を後にし、室内にはノアとアルビナだけが残っていた。


「流石だな、もうノアちゃんは立派な社長だよ」


 先程までのノアの姿を見て、アルビナはしみじみと告げた。


「いえ、おじさんが穏便に済ませようとしてくれたお蔭です。今の場面だって、わたしだけで居たらもしかしたら、ジェンキンス課長は反省してくれなかったかもしれませんし。まだまだ半人前です」

「ハッハッ……ノアちゃん、自分が半人前だと自覚できることこそが、一人前になったという証拠なんだよ」

「そうなんですか?」


 ノアは首を傾げてみせた。


「ああ、人は自分の限界しか見えていない内は、自分の見えている物の尺度だけで判断をする。だから簡単に自分のことを一人前だと思っている人間は、まだまだ自分の尺度の内にしか居ないんだ。しかしその限界の先が見える人間は違う。客観的な視点を持っているからこそ、自らが極め切れていない物が事細かく、そんじょそこらから見えてくる。だから自分は、いつまでも全てを極められていない半人前だと言えることができるんだ」

「そうですか……」

「とはいえ、まだまだノアちゃんのここでの経験は積み上がり始めたばかりだ。今はいろんなことをやってみて、成功や失敗をしていきなさい。それがノアちゃんの今後の実績に必ず繋がるからな」

「はい! ……あっ、そういえばブルックソンさんとリュウさんと約束をしてたんだった。おじさん、ちょっと行ってきます」

「ああ、頑張れよ!」

「はいっ!」


 そう言って、ノアが社長室を飛び出して行ったのを見て、アルビナはその後ろ姿を見て微笑んだ。


「……アメリデ、お前の娘は強く育ってるよ。ノアちゃんにここを全て任す日も、そんなに遠くは無さそうだ」

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