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第5章 不信人事 その5

「でも何で突然CEOと会うなんてことになったんですか?」

「いや、ホントに偶然の巡り合わせでな。取引先の運送業者の方に、工場ができるまでのジャック・ザ・ペーパーの仮社屋の連絡先を教えてもらってな。それでオープナー君が問い合わせてみたら、たまたま明日、CEOがブリトン合衆国から建設中の工場の視察をしにボエニアにやって来るってことになっていたんだ。そしたらオープナー君が何とか面談することはできないかと、最初は相手に渋られたが何とか食い下がってね。それで本社に確認してもらったら、丁度CEOのスケジュールに30分ほど空きがたまたまあったから、そこに入れてもらったんだ」

「ホントに偶然ですね……」


 その出来過ぎたような奇跡の連続に、ノアは呆気に取られてしまった。


「オープナー君も、自分の持っている営業力を全てぶつけて誘致を促すと張り切っているよ。彼は世界的大企業を相手にした営業を希望していたからね。しかも担当者じゃなく、その会社のCEOに直接営業を仕掛けられるなんて滅多に無いことだからね。そう考えると、この会社もそんな大企業を相手にできるほど成長したんだなと俺もいろいろ思い出して目頭が熱くなっちゃったよ」


 ハッハッと豪快に笑い飛ばしてみせるアルビナ。彼はルートボエニアの創業当時のメンバーであり、ノアの父でルートボエニア創業者のアメリデと共に様々な苦難を乗り越えてきた結果が、このような巡り会わせを引き寄せたのだ。

 アルビナにとって、このジャック・ザ・ペーパーのCEOとの面談は、これまで重ねてきたものの総括とも言えるものだったのだ。


「帰ったらお父さんに伝えておきます。きっと喜ぶと思いますから」

「喜ぶどころか、驚きのあまり天国で卒倒するんじゃないか?」

「あはは! そうかもしれませんね」


 受話器から二人の笑い声がしばらく交互に聞こえ、収まった頃に最初に話を切り出したのはノアだった。


「おじさん、もっと大きくしましょうこの会社を」

「ああそうだな……俺が引退する前に王国汽船は抜きたいものだ」

「きっとできますよ」


 その後アルビナは、オープナーに明日の作戦会議をすると呼ばれ、ノアとの通話はそこで切り上げとなった。


「さて、わたしも明日はひと勝負、仕掛けるとしますか!」


 ノアは先程整理した資料の一番上のファイルを手に取る。それは、グロードに頼んで業務部の資料棚から持ってきてもらったペタロ物流の契約に関する書類ファイルだった。

 ファイルを開き、契約の内容を隅々まで読み込んでいくと、ノアは契約内容に気になる点を見つけた。


「あれ? 契約期間が半年で、更新日は毎年5月1日と11月1日……ってことは、今年はもう更新されてるってことよね? じゃあ現状、11月まで荷役の委託が決定してることになるけど、これって途中解約を行った場合どうなるのかな?」


 更にノアは調べてみる……がしかし。


「あれ、無い?」


 どんなに探しても途中解約に関する書類は見つからず、その時、ノアの中にある不信感が芽生えた。


「もしかして……書類が抜かれてる?」


 ファイルを細かく見ていくと、契約に関する内容の書類や覚書に落丁しているような部分や、前後で文章が繋がっていないページがあったりし、そして極め付けには契約書類の中に、「添付書類に関しては目次欄を参照」と記載されているのにも関わらず、その目次が存在しなかった。


 このことによりノアの不信感は、圧倒的な確信に変わった。やはりこのファイルからは、書類が抜かれていると。


「やったのはおそらく、ワーナー部長ね。特に解約に関してのものが全く無いから……これは使えるかも」


 隠蔽とは、隠す対象が当人の弱点であるから行う行為であり、隠蔽した内容が知られたということは即ち、弱点を知られてしまったも同然のことである。

 しかし持ち去られた書類が無ければ、確信は得ても証拠にはならない。だが、それに関してもノアにはある考えがあった。


「契約書なんだから、ペタロ物流の担当者が控えを持っているはず……その中身を確認できれば……いやでも……」


 ワーナーの尻尾を掴みかけたと思ったその時、ノアに一抹の不安がよぎる。それは当然のことと言えば当然のことだった。


「書類まで抜き出しておいて、そのことに気づかないなんてことあるかな?」


 ワーナーは業務部の部長だ、契約書の控えの存在を知らないはずがない。もしそこまで手を回されているとなると、掴みかけていたチャンスは幻想と帰すのだが、しかし今のノアにはこれ以外の突破口を見出すことができなかった。


「……こればかりは考えたところでどうしようもないわね。あとはもう、運を天に任せるしかないか」


 これ以上の詮索は諦め、ノアはファイルを閉じ、明日に備えるため帰宅する準備を始めた。

 時刻は19時過ぎ。いつも通りの残業超過。

 帰りに船のいない港を見るのが、ノアの日課となりつつあった。

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