にゅうめんマン vs 悪の教団幹部(4)
ぶつくさ言いながら、根子丹と弟子たちは2つ上の階の西の端の総務部総務室を訪ねた。扉を開けてぞろぞろと中へ入ると、数人の職員が古臭いパソコンに向かって仕事をしていた。根子丹は一番近くにいた男に声をかけた。
「話がある」
「どのようなご要件でしょうか」
「ある男を探しているんだ」
「それですと担当窓口が異なりますね。市民相談室(さっき行ったとこ)へお願いします」
「市民をなめるなーーー!!!」
ついに怒りが爆発した根子丹は職員に空手チョップをお見舞いした。なお、根子丹はこの自治体の市民ではない。
「ぐはあっ」
チョップをくらった職員は座っていたいすから崩れ落ちた。
「な、何をするんですか」
「うるさい。たらい回しにしやがって。」
すると、一番奥の机で仕事をしていた上司らしきおじさんが立ち上がって、根子丹の所へやって来た。
「暴力はよしてください」
「こちらの言うことを聞けば手荒なことはしない。でも、言うとおりにしなければとんでもないことになるぞ」
「とんでもないこととは?」
「毎日この街で100人規模の行列を組んで、朝から晩までノンストップで布教しまくってやる。考えるだけで楽しみだな。ふっふっふ」
「やめてください!そんなことをされたら、市役所への苦情が増えて、職員の仕事も増えて、中間管理職である私の生活がむちゃくちゃになってしまう!」
「市民の生活がむちゃくちゃになるのはいいのか。俺が言うのも何だが……」
「ともかく、まずは要件を聞かせてください」
「いいだろう」
初めて話を聞いてもらえるので根子丹はちょっと嬉しくなったが、威厳を保つために顔には出さなかった。
「ある男を探しているんだ」
「どういう方ですか」
「昨日この街に現れた、正義の味方ふうの若い男だ。黒い覆面をかぶって、スピードスケートのユニフォームみたいな服を着ていたらしい」
「正義の味方っていうと月光仮面みたいな感じですか」
「そうだ。今風にいうとバットマンとかX-MENとか、そういう感じかな」
「その方の名前は分かりますか」
「本人が名乗ったのは……あれ。何だったっけ」
にゅうめんマンの名前をど忘れした根子丹は、弟子たちにそれをたずねた。だが、その場にいた弟子たちはみんな間接的ににゅうめんマンの噂を聞いていただけで、やはりはっきり名前を覚えていなかった。
「確かめん類の名前だった気がします」
弟子の1人が言った。すると別の弟子が言った。
「俺もそう思う。ラーメンマンじゃなかったっけ」
「それはキン肉マンの正義超人だろ。少なくともラーメンマンではなかったぞ」
弟子たちはみんなで相談し始めた。
「パスタマンとか?」
「そんなおしゃれな名前じゃなかったような……」
「そばマン?」
「もうちょっと長い名前だった気がする」
「うどんマン?」
「まだ短いな」
「焼きそばマンは?」
「うどんとか焼きそばほどメジャーな食べ物じゃなかったはず」
「そうめんマンでは?」
「おっ!何かそれ、かなり近い感じがするぞ」
「うん。そうめんマンではなかったけど、確かにかなり近い気がするな」
「あ。俺分かったかも」
「ついに分かったか。」
「よかった。気になってしょうがなかったんだ」
「さあさあ。もったえぶらずに早く教えろよ」
* * *
その頃にゅうめんマンは、例の覆面スピードスケーターふうのコスチュームを着て、朝日に輝く近所の海岸でごみ拾いをしていた。市民の平和を守るのがにゅうめんマンの仕事だが、いつも事件が起こるわけではないので、何もないときはこんなふうにボランティア活動をしたりしている。
「にゅうめんマンさんは、いつもここでごみを拾っていますね」
実はにゅうめんマンはうら若き乙女と一緒だった。この乙女、三輪素子さん(23)は近所にある海辺の研究所に通う大学院生で、毎朝この浜に散歩にやって来る。覆面の怪しげな男にも公平に接する心優しい人物だ。
「はい。市民の役に立つことをするのが僕の仕事ですから」
にゅうめんマンは、かっこうをつけようと思ってそれっぽいことを言った。
「立派ですね」
「いやあ。そんな。僕はいつも時間ばっかり持て余して……」
ここで、三輪さんのスマートフォンがピョロピョロと音を立てた。
「ちょっとスマホをチェックしてもいいですか。何か通知が入ったみたいで」
「どうぞ」
三輪さんはオリーブ色のスカートのポケットからスマートフォンを取り出し、画面をのぞき込んだ。
「市役所から緊急連絡ですって。めずらしい」
「へえ。どんな連絡ですか」
「『ひやむぎマン』という男の人を緊急で探しているので情報提供をお願いします。という内容です」
「誰だか知りませんが変な名前の男ですね」