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シャカムニの使者☆にゅうめんマン  作者: 奥戸ぱす彦
7章 にゅうめんマン、悪の教団に乗り込む
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にゅうめんマン、悪の教団に乗り込む(5)

にゅうめんマンの求めに応じてシャカムニは語り始めた。

「二千数百年前、私は今でいうインドとネパールの国境あたりでさる王族の家に生まれ、何不自由ない暮らしを送っていた。だが大人になってしばらくたってから、ある体験をした。――君は『四門出遊』と呼ばれる出来事について聞いたことがあるか」

 シャカムニはにゅうめんマンに尋ねた。

「はい。最近シャカムニさまのことについて少し勉強したのですが、何かの本に書いてありました。四門出遊は、出家前のシャカムニさまが宮殿の東西南北の4つの門から外へ出て、それぞれ老人、病人、死者、修行者に出会ったエピソードですね。それをきっかけに人間が生きる苦しみを知り、修行に興味を持ったのでしたっけ」

「そのとおり。しかし、現代に伝わるその話からは重要な情報が抜けている。もとい、当時の私が故意に隠したので後世に伝わらなかった」

「そうなんですか」


「うむ。事実はこうだ。――宮殿の東の門を出たとき私は1人の老人に出会った。老人は男で、よぼよぼで、つるっぱげだった。次に南の門を出たとき1人の病人に出会った。その病人は男で、頭皮の状態も悪かったらしく、つるっぱげだった。さらに西の門を出たとき1人の死者の葬列に出会った。遺族に運ばれる男の亡骸に目をやると、頭がつるっぱげだった。――私は絶望的な気分になった。いずれは自分も同じ運命をたどるのだと考えないではいられなかったから。実を言うと、まだ20代であったにもかかわらず、私の頭はすでに薄くなり始めていたのだ……」


「待ってください。以前極楽浄土でお会いしたとき、シャカムニさまの頭はフサフサだったではありませんか」

「極楽浄土では若々しい姿で暮らすことができるのだ。たとえば、100歳で死んで極楽浄土へやって来た人間がいたとして、その後も100歳の状態のままで生活しなければならないとしたら、問題があると思わないか」

「それもそうですね」


「では『四門出遊』に話を戻そう。私は東、南、西の門を出て、つるっぱげの老人、病人、死者に出会ったわけだが、北の門を出たときに起こったことは少し違っていた。そこで出会ったのは、つるっぱげの修行者だった」

「やっぱり、つるっぱげじゃあありませんか。他の3人と何が違うんですか」

「まあ聞ききない」

 シャカムニは話を続けた。

「その修行者はつるっぱげではあったが前向きな人物で、失った頭髪を取り戻すために毎日修行に励んでいた。それを見た私は、自分も豊かな髪を取り戻す修行をしようと思い、やがて親や妻を後に残して出家した」

「え。そんな理由で?」

「当時の私にとっては、この上なく重要な事だったのだ」

「はあ。それで修行はうまくいったのですか」

「出家した私は厳しい修行に明け暮れ、長い時間をかけて、とうとう発毛に成功する直前の段階まで進んだ。実際、インドゾウの髪の毛をフサフサにする実験には成功した。頭だけマンモスみたいなゾウになったよ」

「すごいじゃありませんか」


「そうかもしれない。しかし現実は時に非情なものだ」

「どういうことですか」

「その力は人間に適用するには強すぎたのだ。この発毛法を自分の頭に用いようとするたびに、私の精神は甚だしい影響を受けた。言葉にするのは難しいが、『髪を生やしたい』という際限のない欲望にとらわれて心が不安定になり、精神の正常な働きを失ってしまうのだ。私は身の危険を感じて、とうとうその修行をあきらめた。恐らく体にも良くはなかっただろう」

「すっぱりあきらめがついたのですか」

「とても辛かった。しかし、どれだけ髪を生やすことを欲していたとはいえ、私には分かっていた」

「何をです」

「いくら強力な効果が得られるからといって、自分で制御もできない危険な力を利用するなど、とんでもないということだ。あれは人類が手を出すべき技術ではなかった」

「生物兵器か何かの話ですか」

「育毛の話だ」

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