にゅうめんマン、悪の教団に乗り込む(1)
その後1週間もたたないうちに、宗教法人六地蔵の副管長「ホーネット」こと三輪さんは、再びにゅうめんマンの入院している病院へやって来た(著者注:副管長の名前は当初「蜂捏斗」としていましたが、読みにくすぎるので「ホーネット」に改名しました)。洋服姿のホーネットは病院の職員に黙って目的の病室へ入り、頼りなく眠っているにゅうめんマンのベッドの脇に立って、生気の衰えた顔をぞき込んだ。この時点ですでに、ホーネットの心は大幅にダークサイドに侵されていて、にゅうめんマンを救いたいという気持ちはずっと弱くなっていた。
《おかしなものだ。私はこの男の命を助けるために憎くて仕方がない相手に弟子入りしたのに、今やにゅうめんマンを助けたいのかどうか、自分でもよく分からない》
それは、退職したら思い切り余生を楽しむつもりだったのに、実際に退職してみたらなぜか何もやる気が出なくて家でごろごろしているおっさんにも似た、不思議な気持ちだった。
だが、ホーネットはにゅうめんマンを助けることに決めて、その胸に自分の右手を置いた。同室の他の入院患者が見ているかもしれないが、まあいいだろう。それから、新たに身に付けた力を発揮して、にゅうめんマンの体にありったけの生命力を流し込んだ。すると、程なくしてにゅうめんマンが静かに目を開けた。ラゴラ教徒の能力があればにゅうめんマンを助けられる、という六地蔵管長の言葉はうそではなかったのだ。にゅうめんマンが意識を回復したことだけ見届けると、ホーネットは足早に部屋を去り、病院を出た。
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にゅうめんマンは誰かが部屋を出て行くのをぼんやりした意識の中で見送った。まだ寝ぼけていて、自分が眠りから覚めたのだということさえ、よく分かっていなかった。しばらく白い天井を眺めているうちに、自分が今目覚めたことをようやく認識し、どこかの病院に寝かされているらしいことも分かった。そして、自分が巷のギャルたちの間で人気爆発、好感度炸裂、「彼氏にしたい食品系ヒーローNO.1」のにゅうめんマンであることや、三輪さんを助けに行ったときに、敵と刺し違えて砂浜に倒れ意識を失ったことも思い出した。
三輪さんの安否が分からないことに思い至って、にゅうめんマンは急激に心配になった。さらに、自分が素顔をさらしていることに気づいて動揺した。シャカムニとの契約によれば、自分の正体をばらした場合、にゅうめんマンは人間界を去らねばならない。
自分の正体がばれることはともかくとして、三輪さんの安全を速やかに確かめたい。そのためには、退職後に家でごろごろしているおっさんみたくベッドでのんびりしている時間はない。にゅうめんマンは部屋で見つけたタオル2枚を顔に巻いて、いつもかぶっている覆面の代わりにし、すぐに病室を出ようとしたが、ちょうどそのとき、見回りに来た看護婦のおばちゃんが部屋へ入って来た。




