乙女の転機!(6)
「シャカムニが髪を生やす取り組みをやめてしまったのは、人類にとって残念なことではあったが、希望が完全に失われたわけではなかった。――ラゴラという人物について聞いたことがあるか」
「確か、お釈迦さまの十大弟子の1人でしたっけ」
「そのとおり。さすがに物知りだな。――ラゴラはシャカムニの弟子であるとともに実の息子でもあった。そして、ある悩みがあった」
「悩み?」
「遺伝だよ」
管長は自分の頭をちょんちょんと指でたたいた。三輪さんはバカバカしくなってきた。
「ラゴラは、シャカムニが発毛をあきらめたことを最悪の間違いと考え、自分がその事業を引き継いだ」
「引き継いだ後、うまくいったんですか」
「残念ながら、厳しい修行や熱心な研究を続けたにもかかわらず、ラゴラはその目的を遂げられなかった」
「やはり簡単なことではなかったんですね」
「そうだな。だが、ラゴラの遺志は弟子によって引き継がれ、その弟子の死後もさらに別の弟子に引き継がれた。後に『ラゴラ教』と呼ばれるこの一派は、数人程度の小規模ながらその後も細々と存続し、発毛のための修行や研究も続けられた。その結果、髪を生やすには至らなかったものの、発毛に必要なエネルギーを制御する方法を追い求めるうちに、ラゴラ教徒たちは偶然特殊な能力を手に入れた。それが人の心の暗部『ダークサイド』を操り、力に変える能力だ」
「唐突な展開ですね。そんなことができるんですか」
「それができるんだ。この能力を用いれば、強い負の感情を持つ人間ほど大きな力を引き出せる。ところで、ラゴラ教とその能力は現在まで受け継がれているのだが、最後に引き継いだのは誰だと思う?」
「あなたですか」
「そのとおり。ちなみに宗教法人六地蔵はラゴラ教のための活動資金や労働力を手に入れる手段であって、ラゴラ教とは直接関係ないし、六地蔵信者のほとんどはそのことを何も知らない」
「でも、あなたにはすでに髪があるじゃありませんか。髪を生やすのがラゴラ教の目的ではないんですか」
「君も知っているとおり、最近まで私の頭には髪がなかった。今生えているこの髪は、つい先日発毛に成功した結果だよ。ラゴラ教が二千数百年の時をかけて追求していた目的がようやく実現したんだ。にゅうめんマンの協力のおかげでな」
管長は愉快そうに小さく笑った。三輪さんは無言で管長をにらみつけたが、相手はかまわずに話を続けた。
「当初の目的はすでに達成したわけだが、私はラゴラ教の活動を継続することに決めて、発毛とは別の次なる目標を設定した。そのために1人、自分の右腕となる優秀な弟子がほしい。その人物は心に大きな負の感情を抱いていることが望ましい。例の能力によって強い力を発揮できるからな――君は私を強く憎んでいるのではないか。にゅうめんマンを助けたい一方で、こんな男の弟子になるくらいなら死んだほうがましだ、などと思っているのではないか」
「……」




