乙女の転機!(5)
それはともかく、三輪さんは管長に尋ねた。
「にゅうめんマンさんを助ける方法を教えてください」
「いきなり話の核心に入るんだな。だが、それを聞くそのための条件は分かっているだろう。私の弟子になることだ」
「なぜ私を弟子にしたいんですか」
「理由はいくつかある。1つ目は、この間の出来事で、君がとても優秀な人物だと気付いたことだ。私が君と一緒にいたのは短い時間にすぎないが、私の見立ては誤っていないと思う。2つ目は君のルックスだ。まだ計画段階だが、これから宗教法人六地蔵では公衆に対するイメージ戦略に力を入れたいと思っている。君のように美しい人間はその仕事に打ってつけだ」
「その条件を満たす方はいくらでもいるでしょう。あなたを恨んでいるはずの私をあえて選ぶ理由はないと思いますが」
「次の理由を聞けば君も納得するだろう。今挙げた2つの理由はおまけみたいなもので、本当に大事な理由は別にある」
「聞かせていただけますか」
「少々長い話になるぞ」
「はい」
心持ち改まった顔をして管長は語り始めた。
「君は日本人だから仏教に触れる機会は多いと思うが、そもそも仏教とは誰が何のために始めたものか知っているか」
「お釈迦さまが、人々を苦しみから解放するために始めたんですか」
「世間ではそういうことになっている。だが、それは半分うそだ」
「うそ?」
「仏教の創始者はシャカムニ、つまり釈迦で間違いない。だが最初の目的は人々を苦しみから解放することではなく、自分の頭に髪の毛を生やすことだった」
「……そんなバカな」
「バカなものか。真面目な話だ」
《ブッダが発毛に取り組む話のどこらへんが真面目やねん》
と三輪さんは思ったが、にゅうめんマンの命がかかっているので神妙な態度を保った。
「それと私が弟子になることと関係があるんですか」
「もちろん。――さっき君が言ったように、現在、仏教は人々を苦しみから救うためのものということになっている。なぜそうなったかと言うと、シャカムニが髪を生やす努力を途中で放棄して、人々を苦しみから救うことに方針を転換したからだ。その結果、髪を生やすという仏教の最初の目的はほとんどの人間に忘れられてしまった」
「なぜシャカムニは方針を転換したんですか」
「それは人類史上最大の謎だ」
「へぇ……」




