にゅうめんマン vs 理科系の男(6)
「現代医学チョップだと!」
にゅうめんマンは驚いた。「現代医学チョップ」といえば現代医学に精通した者だけが放てる伝説の大技である。
「なぜお前がその技を?」
「六地蔵に入るまでは医者だったのでね」
「そうだったのか。それにしても、そんなすごい技があるなら、なぜ始めからそれを使わなかったんだ。奥の手を隠していたのか」
「現代医学チョップを当てて君を殺してしまったら、にゅうめんのありかが分からなくなるだろう?そもそも私は人殺しなどしたくない。しかし、手を抜いてかなう相手でもなさそうだし、君ほど体力のある男なら一発くらい当てたって多分死にはしないだろうと思って、この技を使ってみることにしたよ。おしいところで外してしまったがね」
確かに普通の人間が受けたら一撃で死ぬと思う。それくらい強力な技だ。――それにしても、あえてこの技を使わなかったということは、羽沙林はずっと手加減をして戦っていたということになる。実に侮れない相手だ。
さて、羽沙林は再びにゅうめんマンを追い詰めるように距離を詰め、パンチやキックで攻め立てた。にゅうめんマンは慎重に間合いをとって1つ1つ攻撃を交わした。隙を見せたらきっと現代医学チョップをお見舞いされてしまうだろう。用心せざるえをえない。とはいえ、間合いをとることばかり考えていては守勢に回って結局やられてしまうかもしれない。にゅうめんマンは相手との距離をなるべく大きくとって敵の攻撃をやり過ごしつつ、懸命に反撃の方法を考えた。ねちねちと小技を打ち込んでダメージの蓄積を狙うのはどうだろう――いや。チョップを受けるリスクを必要以上に高めることになりそうなので、これはやめた方がよさそうだ。ならば、もう一回ドロップキックを試してみようか。でも、同じ技が再び通用するだろうか。少なくとも、さっきと同じように向こうから突っ込んで来てはもらえない気がする。それでは、一発頭に飛び蹴りでもぶち込んでみようか?だが、これも隙が大きくて危ない気がする。
そんなことを考えていたせいで、注意が散漫になったのかもしれない。アーケード街を後じさる形で攻撃をかわし続けていたにゅうめんマンは、不覚にも自分の後ろにファーストフード店の派手な看板が立っていることに気づかなかった。もちろん羽沙林の側からはそれが見えている。最大限の用心をしていた甲斐もむなしく、にゅうめんマンは後ろ向きに看板にぶつかった。そして心臓が飛び出るほど驚いた。真剣勝負の最中に自分から看板にぶつかるなんて恥ずかしい話だ。だが笑い事ではない。このとき、危険きわまりない隙が生まれた。
《しまった!》
と思ったときにはもう遅く、羽沙林の殺人チョップがうなりをあげて飛んできた。




