にゅうめんマンの過去(2)
それにしても、ただ料理が好きなだけで、これほどのにゅうめんが作れるものだろうか。こんなにおいしいにゅうめんを作れるのは、にゅうめんマンの知る限りシャカムニと自分だけだ。これまでにゅうめんマンは、にゅうめんに関して自分の右に出るものはいないと思っていたし、実際自分に勝る人物には出会ったことがなかった。だが、これほど優れたにゅうめんを作る人物がこんな身近にいたのだ。にゅうめんマンは、自分の実力にうぬぼれていたのかもしれない。――三輪さんはチャーミングな人だが万一敵に回せば厄介なことになるだろう。このとき初めて、にゅうめんマンは自分の地位がおびやかされる不安を感じた。
「実はにゅうめんマンさんと知り合ってから私もにゅうめんが食べたくなって、ずっとにゅうめんに凝ってるんです」
にゅうめんマンの考えを読み取ったわけではないだろうが、三輪さんが説明した。
「なるほど。それで……」
そこで、にゅうめんマンはふとあることに気が付いた。三輪さんの「ニューメニティ」の大きさだ。
にゅうめんにはある種の特別なエネルギーが満ちている。科学の世界ではこれをニューメニティ(neumenity)と呼ぶ。ニューメニティは特ににゅうめんに多く含まれるが、人体にも存在し、一部の人間は特別に大きなニューメニティを示す。にゅうめんマンはそれを感じ取ることができるのだ。これまで色気にばっかり気をとられていたが、あらためて意識を向けると三輪さんのニューメニティは極めて大きかった。
「ねえ、にゅうめんマン」
にゅうめんマンの思索は、不意に話しかける平群さんの声により中断した。
「何?」
「ご飯を食べるときくらい覆面を脱いだら?」
にゅうめんマンは常に覆面をかぶっている。人と一緒に食事をするときも例外ではない。この覆面は厳密に言うと口より上を覆うマスク状もので、かぶったままでも物を食べられる。
「いいや。このままで大丈夫」
「そんなこと言わずに取りなよ。覆面をかぶったまま食べたんじゃ落ち着かないでしょ」
「いや。いい」
「強情なんだから。それなら私が代わりに取ってあげる!」
平群さんは素早く覆面を引っつかんで脱がせようとした。にゅうめんマンは仰天して両手で覆面を押さえた。
「やめろ!こら。何をするんだ。バカ。セクハラ!おムコにいけなくなるー!」
にゅうめんマンがあまり激しく抵抗するので平群さんはあきらめた。
「ちっ。よほど嫌なのね。そこまでして隠すなんて一体どんな顔をしているの?」
「誤解を招くようなことを言わないでくれ。普通の顔だ」