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シャカムニの使者☆にゅうめんマン  作者: 奥戸ぱす彦
10章 乙女の帰還
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乙女の帰還(8)

にゅうめんマンの精神がかき乱され、体が自由に動かなくなったのは、管長が、負の感情を操る特殊能力を行使しているからだった。自分の感情だけでなく、他人の感情をも利用してその相手を翻弄することができるのだ。


人質を使えばにゅうめんマンを始末できると管長は考えていたが、その人質が思いがけず反逆したため、この方法で敵に対処することは難しくなった。そこで、自分に逆らったホーネットを殴りつけた後で、管長はとっさに思考を巡らせ、新しい手を考えた。それは、にゅうめんマンを挑発してわざと激怒させることにより、負の感情を操る自分の能力を使って敵をやっつけるいうものだった。人質を利用できないのであれば、これが一番の勝ち筋だろうと思われた。――そうとは知らないにゅうめんマンは、まんまとその術中にはまったのだ。


にゅうめんマンは防戦一方になって次々に殴られ、すでに相当消耗していた管長以上に、ダメージの蓄積が大きくなっていった。三輪さんを傷つける管長への激しい怒り、その怒りを増幅して心を撹乱する不可解な作用、理解できない状況に対する混乱、一方的に攻撃される苦痛と危機感。――そうしたさまざまな感覚に翻弄されつつ、にゅうめんマンはとうとう屋上の床に倒れた。


『せっかく三輪さんが体を張って助けてくれたのに、俺はもうダメだ』

 にゅうめんマンは思った。そして、先ほど首を絞められたときと同じように、再び死を覚悟した。すると、ある種の諦観ていかんに達し、そのおかげで強い怒りがいくらか和らいで、殺されかかってはいたが、心に少し余裕が生まれた。


そのとき、死に瀕するヒーローの胸に浮かんだのは、自分を人間界によみがえらせた恩人であり、常に尊敬しているシャカムニのことだった。シャカムニは、にゅうめんマンが市民の平和を守ることを期待していたが、こんなふうにあっけない最期を迎えたのではがっかりするだろうか。


にゅうめんマンが倒れた後も管長は攻撃を続け、反撃できないにゅうめんマンは、それにたえることしかできなかった。それは言うまでもなく苦しい状態だったが、そこで不意に、にゅうめんマンは、30話くらい前にシャカムニから聞いた言葉を思い出した。怒りは人の心をむしばむ最悪のものの1つだから、むやみに怒ってはいけない、という言葉だ。結局、自分はシャカムニの言うことを理解せず、今まさに炎のような怒りにとらわれていたのだった。


『俺はシャカムニを敬ってはいるが、その教えを何も分かっていなかったのだ』

 にゅうめんマンは気がついた。


管長が三輪さんを殴り飛ばしたことだって、確かに許しがたいことではあるが、それを激怒したところで何も解決はしない。思えば、自分はこれまで何かあるたびにいちいち腹を立てていたが、そんなふうに腹を立ててもろくなことはないのだと思う。もう少し早く分かっていればよかった。そうすれば、もしかすると、管長に決闘を挑んで殺されることにもならなかったかもしれない。

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