にゅうめんマン参上!(1)
「布教だ!布教だ!」
「わっしょい!わっしょい!」
「布教だ!布教だ!」
「わっしょい!わっしょい!」
静かな街に不気味なかけ声がひびく。かけ声の主は、100人はいるであろう坊主の集団だ。坊主たちはだいだい色の袈裟に身を包み、盆踊りに似た名状しがたいダンスを踊りながら、街の目抜き通りを行進していた。そり上げた頭が夏の太陽に輝いている。
「やつらが来たぞ。隠れろ」
布教の声を聞きつけた人々は建物の中や路地の奥に身を隠した。見つかればろくなことにならない。だが、事情を理解できない小さな子供などが、運悪く目をつけられてしまうことがある。
「見て。父ちゃん。何か踊ってるよ」
通りに面した家の扉から、5歳くらいの少年が坊主たちを指差した。
「こら、やめなさい!」
家の奥から父が注意したが時すでに遅し。踊りまくっていた坊主たちは急に動きを止め、子供に走り寄って取り囲んだ。
「ほほう。元気そうな子供だ」
反町隆史似の坊主が言った。
「寺へ連れ帰って俺たちの教えをとっくり言い聞かせてやろう」
岡村隆史似の坊主が言った。
「さあおいで。坊や」
やなせたかし似の坊主はそう言って子供の腕をつかんだ。
「嫌だ!行きたくない」
「何だと。聞き分けのない坊主だ!」
やなせたかし似の僧侶は無理やり子供を引っ張って行こうとした。「坊主はお前だろ」と言いたくなるのをぐっとこらえて、父は僧侶に嘆願した。
「どうかその子をつれて行くことだけは、かんべんしてください」
「無理だね。もうつれて行くことに決めた」
「そこをまげてお願いします」
「無理だと言ってるだろ。新しい弟子をリクルートできないと師匠に怒られるんだ」
「それならば、どうぞ代わりに私の妻をつれて行ってください」
「は?」
家の奥から、試合直前の女子プロレスラーのような、あるいはサバンナの飢えた野獣のような殺気立った声が聞こえた。坊主はそちらを見やった。
「あれが妻か?」
「はい」
「俺の好みじゃないからだめだ」
次の瞬間、妻が猛烈な勢いで坊主に向かって突進した。よけるいとまもあらばこそ、坊主は妻のショルダーチャージをまともにくらい、家の前の道路に倒れて気を失った。女心が分からない男の末路である。
「兄弟子に何をするんだ!」
すぐさま、そばにいた数十人の坊主たちが寄ってたかって妻を取り押さえた。さしもの妻も多勢に無勢で、これにはかなわなかった。
「何て女だ。兄弟子の好みではないが、この女もつれて行く。こいつには仏の教えが必要だ」
「そんな……愛する妻までつれて行くだなんて」
男は絶望してうなだれた。無念の涙がほおを流れ落ち、神戸のユニクロで買ったポロシャツのえりをぬらした。
そのとき、不意に頭上から何者かが呼ばわった。
「やめろ!お前たちの悪事もそこまでだ」