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俺の右腕は忌々しい  作者: 雨宮優希
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忌々しい右腕

深夜の都市部の住宅街、人の居ない雨の深夜。1人の未成年が傘もささずに電車の線路下のトンネルに向かって歩いていた。

その子は黒いパーカーで右袖がやたらに長い物を着ている。

そして独り言を呟いていた。

「たく、また今夜も寝かせてくれねぇのかよ。」

と、舌打ちしながら歩む。

トンネル付近に着くと足を止める。トンネルの中に、【ナニか】が居る。

「たく、生ゴミくせぇ。毎日毎日出て来やがって!うぜぇんだよ!お前らぁぁ!」

そう叫んでその子は跳んで、右腕をまくって、爪と長い棘らしきモノを振り上げる。

その叫び声は、雨にかき消される。


その子が【ナニか】を倒した後、指を鳴らし、1人のローブを着て錫杖と装飾品をチャラチャラ鳴らしながら近付いてくる。

「いやぁ〜、お見事です。あれ程の闇を【表】で倒せるのは貴方位でしょう。」

と、にこやかに笑う男。今まで何処に居たのか不明な坊さんである。

「そんな事どうでもいい赤巻。それより俺の腕を治す方法は見つかったのかよ?」

そうして、その子は右腕を見せる。黒い、とても黒い爪。爪は、切り裂く為にある様な長さだ。そして尖った棘の様なモノが腕全体に生えている。

「すみません、黒宮澪くろみやれい君。まだその件には何も至ってないのですよ。それと、『女の子』がそんな汚らしい言葉はダメですよ?」

と言い終わり、めっ!と仕草する。

「ふざけんな!俺は男だって知ってんだろ!この忌々しい右腕の呪いでこんな身体になっちまったの忘れたかよ!」

『少女が』目が血走る程に、男に怒号を浴びせる。

「そう声を荒げなさんな。近所迷惑ですよ。」

となだめるが、

「うるせぇ!こっちは毎日イライラしながら闇と戦ってんだ!その間てめぇは何してんだよ!」

と苛立ちを爆発させて胸ぐらを掴む。

「急がば回れ、苛立っても何も解決しませんよ。」

と真顔で言われる。

「…チッ!」

掴んでいる手を離してそっぽを向く。そして、

「闇は倒したんだ。帰らせて貰う。」

そう言って自宅の方へ歩む。

雨の中濡れながら考える。

『どうすればこの忌々しい腕を治せる?』

そう自問自答していたら、あっという間に自宅に着いた。

ドアを開けて中に入る。廊下を歩いてリビングに入ると姉が居た。

「おかえり。随分濡れてるじゃない。風邪引くわよ。シャワー浴びてらっしゃい。」

とお酒をグラスで揺らしながら弟に声を掛ける。

「起きてたのかよ。」

そう言って浴室に向かう時に姉に言われる。

「またあの男に会ってたの?もうやめなさい。あんな男に会うのは。」

と深刻な顔でとトーンで言われる。

「…俺の勝手だろうが。」

そう姉に投げ掛け浴室の扉を閉める。すると、シャワーの音が暫くしたら聞こえ始めた。

「お姉ちゃんは心配なのよ。」

と呟いて残りのお酒を飲み干してテーブルにグラスを置き、2階の寝室に向かった。

「私が医学で、治したげる。」

そう言いながらPCを立ち上げる。

『細くなった腕、落ちた握力、縮んだ背丈、そして…邪魔なそこそこある胸。なんなんだよ、ちきしょう。』

希望の高校には受かったのだが、身体が女子に変わったのでまだ1度も通学しない澪。

もし通学して女から男に戻った時の言い訳が思い付かないのだ。

「ってなんで俺が言い訳考えなきゃなんねぇんだよ!」

シャワーを浴びながら、壁を殴る。

痛かった。でも、そんなの闇と戦った時の傷に比べればへでもない。

浴室から上がって体を拭く。服を来て脱衣所から出ると、窓から日が差していた。

「はぁ…。また睡眠時間無しか。」

1階の自分の部屋に入り、教科書をとノートを開く。

余計な家具がない、本棚とテーブルとベットやカーテン等。

必要最低限のものだけしか無かった。

スマホで動画を検索。授業の内容を解説したモノを再生して勉強をする。それが日課だ。

小一時間くらい勉強する。

そしてもう1つ、ボロボロの書物をダンボールから取り出す。

別のノートを取り出す。内容は呪いについての昔の書物だった。

赤巻が、

「自分だけじゃ調べ尽くせないので、一緒に探してください。」

とにこやかにダンボール1つ持ってきた。

「調べるとか呪いはお前の分野じゃねーのかよ。」

とボソッと呟く。

だが、難しい漢文を分かる部分だけ読み進めていたら「右手の呪い」などなかなか当てはまるものがない。

ましてや性転換する副作用のモノなど呪いという分野ではレアなのでは無いかと、探しているうちに思ってきたのだ。

漢文の書物とにらめっこして3時間程たった時。

「ぬぁぁぁぁぁ!」

と言いながらじたばたする。

赤巻に漢文が分かる本借りるか。

財布と家の鍵を持ち出して、傘を掴んで家を出る。

住宅街の中に一際古いアパートに足を止める。

『確か201号室だったな。』

2階の1番角部屋へ行き、インターホンを鳴らす。

が、カチカチいうだけだった。

「おーい、赤巻居るかー?」

とドアをドンドンと叩く。

と、叩いたドアがギィと音をたてて開いた。

「空いてるじゃねぇか、不用心だな。おーい、赤巻居ないのかー?」

ドアを開けて中を覗き込んだ。日当たりが悪く暗い。

「居ねぇのかー?入るぞー?」

と中に靴を抜いで上がる。

『本当に居ねぇみたいだな。朝飯でもどっかで食ってるのか?』

と暗い1DKの中を進むとテーブルと寝床そして幾つかのダンボール重なって置いてあるダイニングに出た。

テーブルと寝床には興味なくダンボールに足がむく。

その中にはボロボロの書物が沢山あった。

『ん?』

1番上の付箋がしてある書物があったので手に取る。

付箋の所をめくると。

「なっ!」

そこには各箇所に呪いをかける、という一文が目に付いた。

『赤巻はまだ分かんねぇって言ってたのに。アイツは嘘付いてたって事か?』

と考えていると、カンカンとアパートの2階に行く鉄の階段の音がして我に返った。

『やべぇ、赤巻が帰ってきたか!?』

書物をダンボールに戻して玄関に靴を取りに素早く行く。窓からゆっくり外に跳んで降りた。

『バレてないよ、な。』

でも、赤巻は既に書物で呪いについて調べていた。だが、それを隠していた。

『教えるとまずい事でもあるのか?』

ガチャとドアが空く音がして、コソッと顔だけ出して赤巻を物陰からみる。

『慌ててねぇな。という事はバレてねぇ。アイツを尾行するか。』

赤巻の後を尾行すると、深夜来たトンネルに着いた。

『どうしてここに?』

すると、知らない男性が来た。

「さぁ、今日も彼らが居ます。いつもの様に倒してください。」

「……はい。」

無気力な返事をする男性。

そこで、ありえない光景を見た。

『な、なんで赤巻の影から【魔物】が出てきてんだよ!』

深夜澪が倒した魔物。それが赤巻の影から出てきて魔物を男性に戦わせていた。男性は、黒い右脚を出して蹴り倒していた。

倒し終えたら、男性は何処かに歩いて行った。そして、次は女性が歩いてきた。そしてまた、赤巻の影から魔物が出てきて

「さぁ、いつもの様に倒してください。」

「……はい。」

この女性も無気力な返事をする。

『何だこの光景は!魔物も呪いも、赤巻のせいだったのかよ!』

女性は黒い左脚を使って魔物を倒す。

倒し終わって、女性はさっきの男性の様に何処かに言ってしまった。

澪は腸にえ繰り返っていた。

「赤巻ぃぃ。何もかもお前のせいだったのか!」

怒号と共に赤巻の前に立ちはだかる。

「おや、バレてしまいましたか。」

さも当たり前の様にヤレヤレと言わんばかりに、澪に返事する。

「そうです。魔物も呪いも私が施した事ですよ。計算外は澪君キミだ。」

と指を澪に刺す。

「俺がなんだって?」

とキレた顔全開で聞き返す。

「まさか、呪いを自分のモノにするとは。呪われたらさっきの2人の様に無気力になるはずなんですがねぇ。多分性転換はその証でしょうねぇ。」

と顎を触りながら御丁寧に解説してくれる。

「じゃあ計算外な俺の呪いをさっさと解けよ!」

と赤巻に要求する。

「それが無理なんですよねぇ。ソレは1度施したら解けない種類のモノでして。」

にやりと笑った。

「ふざけんな!解けない呪いをなんでかけた!なんで魔物と戦わせた!」

と謎を問いかける。

「それはですね。私が陰の世界で、1番強くなる為ですよ!」

指を鳴らす。するとさっき何処かに行った男性女性が赤巻の後ろに現れた。

「うぅぅあぁぁぁ!!」

と男性と女性は唸り出した。

「左手の持ち主は居ないが、仕方ありません。全てを知った貴方を捻り潰して私は陰の頂点に!」

と赤巻は胴体を見せる。

「お前どうかしてるぜ…。自分に呪いをかけるなんて!」

赤巻の胴体は黒かった。

唸った男性女性は身体が捻れて、弾けた。

赤巻の後ろは血の海になり、生の残骸はグチャっと音がして落ちた。

そして、黒の右脚と左脚は赤巻の脚に巻き付いて黒い胴体と繋がった。

「くくく、あははは!湧き上がる!力が湧き上がるぞ!魔物を倒させ続けたかいがある!」

と両手を広げ、笑う。

「強くして取り込んだって所か。」

身構える澪。

「良くお分かりで。澪君、君を殺して右腕は貰いますよ。」

持っていた錫杖を床にしゃんと鳴らす。すると次元が歪み、辺りが生臭い匂いと紫の霧が立ち込める。

トンネルは無くなり床はボロボロのコンクリートになり、虫が多数這っていた。

「くせぇ、なんて臭いだ。」

咳き込む澪。

「澪君、もう戦闘は始まってますよ!」

蹴りを澪に入れる。

澪が吹っ飛ぶ。右腕でギリギリ防いでいた。

左腕で頭を守りながら、体制を立て直す。パーカーの右側は裂けた。

「痛ってぇな!調子に乗るなよ!」

黒の右腕の爪で引き裂こうとした、が

「遅い遅い。」

脚の筋力をフル活用して避ける。

『はぇぇ。コレじゃ爪を当てらんねぇ。』

どうするか、思考する。

「何思い吹けてるんですか?」

ステップを踏みながら、右脚を軸に高速の左脚で蹴る。

コレには追い付けれる澪。右腕で受け止める。

「!?」

澪は何かに気付いた。けど悟られてはダメだ。と澪はさっきと同じ様に爪で引き裂こうとした。

「だから無理ですよ。」

と右脚を蹴って避ける。

そして蹴られる。それをガードする。

吹き飛ばされてそして、笑う。

「あはは、あははは!」

起き上がりながら澪は笑う。

「何を笑ってるんですか!?」

始めて戸惑う赤巻。

「さぁ?何でだろうなぁ?」

と言いはぐらかす。

そして、同じやり取りを何度もした2人。

「そろそろか?」

と澪はボロボロになりながら、言う。

「何がで…?」

ガクッと右脚が膝を着く。

右脚にヒビが入っていた。

「お前、蹴る時の軸の脚も。避けるときの脚も右脚が先だろう?つまりもうお前の右脚は限界なんだよ!」

そして、澪は走る。

「骨まで裂けろぉぉぉ!」

澪が赤巻の顔から下に右腕を振り下ろした。

赤巻は右脚が立てずに、動けない。

「教えてくれたよなぁ。魔物は生物を媒体に現れるってなぁ。この呪いも同じ様なモノだろ?」

赤巻の生な肉体の頭から下を引き裂いた。ベチョベチョっと赤巻は縦に分裂した。

すると、次元が元に戻る。生臭い匂いは3人分の血の海だけとなった。

澪は救急にスマホで電話し、トンネルを去った。

そして家に帰る。

「酷いケガね。待ってなさい、救急箱取ってくるわ。」

と姉寧々(ねね)が物置部屋に行った。

「いいよそんなの。」

と今までの威勢がない澪。

「ダメよ。少ないバイ菌でも、大きな病気になるのよ。」

と救急箱を取ってきた寧々は箱を開けて消毒液をガサゴソと探す。

「わかったよ。頼む。」

と大人しく手当を受ける。

「…あの男はどうなったの?」

手当しながら、疑問を聞く。

「…死んだよ。黒い野望を抱いて。」

と痛っ。と言いながら返事をする。

「そう。でもその右腕は治らなかったのね。」

と黙々と細かい部分まで消毒を念入りにする。

「あぁ、治る糸口は無くなっちまった。」

消毒を終えて、澪はベットに潜り込んだ。

寧々に今日は寝るようにと言われたのだ。

医者の姉に言われたら、寝るしかない。

『それに傷だけじゃなく、今日は疲れた。』

黒い右腕を出した状態で、眠りに着く。

疲れが出たのか、直ぐに寝息を付く澪。

この後、どうなるのか。

右腕は治って男に戻れるのか。

それとも呪いと共に人生を送るのか。

それは、澪と寧々だけに分かる未来の話。

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