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9.ギルドマスターとパンドラ

__ギルドマスター視点___ 


 「でないと、何かな。ギルドマスターさん」

 私はその声の主を視界に入れた瞬間、目の前の人物こそ件の魔物だと直感した。

 その表情は一見友好的に見えるが、その正体を知った現在ではその表情に何か底冷えする恐怖を感じてしまう。


 「い、いつから……」

 「シェーラが俺との馴れ初めを語り始めた辺りかな。時間がかかってるみたいだから様子を見に来たんだけど……まったく、秘密の約束だったじゃないか」

 シェーラの様子を見ると、ひどく怯えている。仕方がないことなのかもしれないが……

 「……ま、いいんだけどね?」

 やはりパンドラとやらも怒り心頭で……何て?


 「……いい、とはどういうことだ?」

 「そのまんまの意味ですよ。別に俺の正体が露呈しようがしまいがあんまり関係ないんです。もちろんあなた方が黙っててくれて、しばらくこの辺りに滞在できるのが一番ではあるんですが、どのみちこの街は出る予定ですし。その時期が今すぐになるかどうかが変わるだけですよ」

 パンドラは事も無げにペラペラと話す。淡々と語るその姿は自然体で、とても嘘をついているようには見えなかった。


 「……旅に出て、その目的は?」

 「目的……目的ですか。そういえば具体的なことは決めていませんでしたね……どうしましょう?」

 おどけながらこちらに笑いかける。とても魔物には見えない。だがどこか人外めいた雰囲気を感じさせる、どこか不思議な奴だ。

 「……確認だが、君は『エニグマ』なんだな?」

 「ご名答。俺なんか一介の宝箱ですよ。ほら」

 そう言うとパンドラは自身の人間の姿を崩し、巨大なミミックのような姿……エニグマとしての姿をとった。しかしすぐに人間の姿に戻ってしまう。

 

 「……ま、最初から信じてもらおうとか思ってませんから、俺を追い出すなりなら好きにしてください。別に報復とかもしませんし。ああもちろん、この街においててくれてもいいんですよ? 俺としてはそれが一番いいです」

 「…………」

 嘘はついていないように思われる。案外、ただ人間と友好的に接したいというのも事実なのかもしれない。そう思えるほど、その声色に敵意を感じなかった。

 どうするのが正解なのだろうか?

 街の安全を考えるのなら、問答無用で追放するべきだ。

 しかし、これでも長く生き、人を見てきた自分だ。自分の感覚と目の前のエニグマを信じてみたいという欲求もある。


 「……人間を襲うことはないと、誓えるかね」

 「ギルドマスター!?」

 シェーラが驚愕の表情でこちらを見てくる。

 パンドラも一瞬驚いたような表情をしたが、すぐに見た目相応の笑顔を見せながら、

 「もちろん。『こっちからは』だけど」

 と、自己防衛の意思はあることを強調し答えた。

 対する私はフッと息をつき、

 「監視はするぞ」

 言外に街の滞在の許可を与えたのだった。


_________________________


 ……意外だったな。まさかこうなるとは。

 十中八九追い出され、残りのわずかな可能性でも長くはこの街には留まれないとふんでいたのだが、しばらく滞在ができそうだ。

 「ぎ、ギルドマスター!! 納得できませんよ!」

 シェーラは、まだ俺を信用できてないみたいだけど。

 まあシェーラの目の前でベリルを喰っちゃったから、仕方ないんだけど。


 「無理に追い出して刺激するより、手元に置いていた方が安全だと判断したまでだ」

 あ、これはギルマスにもあんまり信用されてないな?

 「それに、今話した限り嘘は言ってない。試しに信じてみるのも手かもしれんのだよ」

 全くってわけではなさそうだけどな。


 しばらくギャーギャー言ってたシェーラもようやく落ち着きを取り戻し俺たちはまた話し始めた。

 「この街では何をするつもりなのかね」

 「そうですね……色々と回っていきたいですね。まあお金ないんですけど」

 「冒険者になるという選択肢もあるぞ」

 「……いいんですかね?」

 「この業界は常に人員不足なんだよ。非人間とはいえ即戦力になれるような存在は俺達にとってもありがたい」

 「……じゃあ、お言葉に甘えるとしましょう」

 「……明日の朝、またこのギルドに来ると良い。その時にはちょいと特殊なギルドカードを発行しといてやるよ」


 「特殊な、とは?」

 「お前がBランク以上の冒険者扱いになる飛び級のギルドカードだ。長い間薬草採取や弱い魔物単体の相手をしないといけないFランクから始めたくはないだろう?」

 「はは、言えてます。じゃあ、お願いしましょうかね。まあ、可能な限りギルドに貢献させていただきますよ」

 「任せておけ。互いに約束は守ろう」


  ふぅ、面接終わり。ようやっと解放だ。

 これで、当面の生活の基盤は築かれた。通常の人間と同じように冒険者として過ごすとしよう。

 ギルドマスターの部屋を後にし、集会場のように開けた場所へ出ると、俺は掲示板の前に陣取った。

 掲示板には多くの依頼書が張り出されており、俺以外にも冒険者が掲示板をのぞき込んでいた。

 まだ受注できるわけではないが、明日からの仕事内容を確認するのだ。

 

 「ん……何だこれ」

 しばらく掲示板を見ていると、やけに行方不明者の捜索依頼が多いことに気が付いた。

 それも決まって不明者は10~15歳の少年少女だ。事件の香りがする!

 「さて、今日はもう帰るとしよう」

 翌日から始まる冒険者生活に思いを馳せながら、俺はギルドを後にした___

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