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7.人助け?

 ……うん、やっぱりもうレッサードラゴンくらいなら瞬殺できるな。

 いやぁ、懐かしいなぁ……初めてコイツを見たときは生きた心地がしなかったもんだけど……成長したな、俺。まあガチのドラゴンには勝てないと思うけど。

 ゆくゆくはヴェルディよりも強くなれたりして……ないか?


 「え、えっと……パンドラ……さん?」

 「あー、パンドラでいいよ。親しみを込めてパンドラちゃんでも可」

 魔法使いの女の子が俺に話しかけてくる。マチルダといったか。

 パンドラは、俺が即興で名乗った名前だ。だけどステータスをチラ見すると既に名前が『パンドラ』となっていた。後悔はないが、ちょっとあっけないなぁ。


 「えー……じゃあパンドラちゃん。あなた何者? レッサードラゴンを一人で、しかもあんなに簡単に……」

 いきなり核心を尋ねて来るな……どうしたもんか。

 「何者……と言われてもね。たまたま通りかかった人ですとしか言いようがない。

そんなことより、ほら。シェーラがいるよ。仲間なんでしょ、君たち」

 そこでようやくシェーラの存在に気づいたのか、マチルダとヘレナが酷く驚いたような表情を見せた。


 「シェ、シェーラ……生きてたのね」

 「まあ、はい……見捨てられてしまいましたが」

 うっ、と二人から声が漏れた。後ろめたい感情があったのだろう。もしかしたらシェーラがいなくなったことで道案内の大切さが身に染みたというのもあるかもな。

 ……不用意に話を振っちゃったけど、ちょっと空気が読めてなかったかもな。

  「まあまあ、三人とも仲直りしなよ。今は互いに生きてたことに感謝しようぜ。な?」

 俺がそう言うと、シェーラがこちらを睨みつけてきた。いやまあ確かに俺がこうなった原因っちゃ原因なんだけどさ……

 

 その後、俺達は情報交換がてらそのままボス部屋で休憩をとることになった。

 「……つまり、シェーラさんがあのミミックに襲われていたところをこの方が通りかかった、と?」

 「え、ええまあ……そうなりますね」

 ぎこちないが、シェーラはひとまずこの設定で通してくれるようだ。

 そういや、俺にはタメ口なのに仲間に対しては敬語だな。親しいほど畏まってしまうのかな?


 「それにしても……あのミミックは何だったの? 普通のミミックより大きかったし、頭もよさそうだったわよね? でも魔物がそんな知能を持ってるわけないし……」

 「それが謎ですね……しかし今は、これからに関して話さないと……リーダーのベリルは殺されてしまいましたし……このダンジョンを無事に脱出できるかどうか」

 「…………」

 「な、なんだよシェーラ。睨むなよ」

 シェーラの視線が痛い……すみません、僕が悪かったです。

 でも俺にも自衛をする権利はあると思うの。そもそも死ぬ覚悟がない人はここに来ないだろ?


 「えーっと……俺は今シェーラにダンジョンの外に連れて行ってもらう代わりに魔物を倒したりてるんだけどさ、俺もしばらくこのパーティに同行していいかな」

 「ええ、それは良いんだけど……私たちについてきたとしても共倒れするだけかもしれないわよ」

 「……それは何故?」

 「何故って……もう食料がほとんどないからよ。私はさっき逃げるときに持ち物を落としちゃったし、ずっと走ってたら消耗しちゃって、水も残り少ないわ。ハッキリ言って絶望的よ」 


 そうか、コイツら人間には食事が必要なのか。もうずっと食欲というものが無くなっていたからほとんど忘れていた。

 あ、だからといって何も食べないわけじゃない。狩った魔物は大体食ってきたしな。

 「ふーむ、そっか……あとどのくらいもちそうなの?」

 「もって後一日ね。地上まではあと三日はかかるだろうから、二日は飲まず食わずで動かないと」

 「うーん……魔物を食べちゃダメなの?」

 「ダメじゃないけど、危険ね。変なもの食べて動けなくなったらそれこそ死活問題」


 うーん……結構マズい状況か。俺一人ならともかく、ただの人間三人がここを抜けるというのは無謀な挑戦だ。二日も飲まず食わずで歩いて戦ってを繰り返していては栄養失調か脱水症状で死ぬ。そうでなくともそんな弱った状態で魔物と戦っても殺されるだけだな。

 さて……どうするか。こいつらを見捨てるのは論外だ。そこまで人間をやめるつもりはない。この状況になった一端が俺にあるというのもあるのだが。

 とはいえ、俺にはどうすることもできないのもまた事実。俺の体内にある貯蓄は全て魔物だ。今こいつらに出しても食わないだろう。


 「救援は期待できないのか?」

 「期待はできないわね……ダンジョンで冒険者が死ぬなんてよくあることだし、第一冒険者になった時点で生きようが死のうが自己責任よ。同情くらいならしてくれるかもしれないけどね」

 うーん、意外と冷酷。冒険者ってそんなもんなのか。合理的といえば聞こえはいいんだがな。

 ……あの手で行くか。気は進まないが。


 「……いくつか意思確認。まず、君たちは生きてここを出たいのかな」

 「もちろん。生きてこその物種って言うでしょ」

 「じゃあ、一つだけ確実に生き残れる方法があると言ったら……どうする?」

 「勿論やるわ。そんなものがあるならね」

 「あるぞ」

 

 俺がそう言うと、三人は驚いたような表情でこちらを見てきた。

 「……一応聞いておくわ」

 マチルダがそう言ったのに続き、ヘレナもこちらの話を聞く姿勢をとった。

 シェーラはこちらを疑わしいといったような表情で見つめてくる。まあ仕方ないか。

 「まず、君たちにはいくつか約束してほしい。ひとつ、これから起こることは口外禁止。ふたつ、これから起こることに対して俺を追及しない。みっつ、俺に怯えない。

 これを守れるなら、俺はその方法を実行しよう」

 

 マチルダとヘレナは一瞬困惑したものの、首を縦に振り肯定の意を示した。 

 シェーラだけは俺がエニグマとしての能力を行使することに気づいたのだろう。顔を引きつらせていた。

 シェーラの意思は確認してないけど、多数決ってことで、やりまーす。

 

 俺は、自身の腕を『口』に変化させた。その姿は黒い異形。それが大口を開けている。ゴッ〇イーターの武器と言えば分かるだろうか。ちょうどあんな感じだ。

 三人はギョッとしていたが、次の瞬間にはその表情は消えた。俺の体内に消えてしまったからだ。

 もちろん喰ったわけじゃない。スキル『箱庭』で、『体内に貯蓄』しただけだ。原理は分からないが、俺の体内の謎空間の内部では時間の進みが遅い、または止まっているようで、以前取り入れた魔物の死体は数か月経った今でも新鮮だ。


 ……静かになったな。また一人だ。

 今回のことは俺に非がある。8対2くらいで。

 だから責任を取ってこいつらを送り届ける。また数週間……もしかしたら数か月彷徨うことになるかもしれないが、出口にたどり着くまで死ぬことはないだろう。

 「……さて、行きますか」

 ……あ、ついでにレッサードラゴンの死体も入れとこ。素材が売れたりするかも。


 などとカッコをつけたが、数日彷徨ってたどり着いた第二層で別の冒険者グループと合流し、寄生することで凡そ一週間でダンジョンの出口にたどり着いたのであった___

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