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6.『パンドラ』

 「それじゃあ、案内よろしくねー」

 俺はシェーラに向かって言った。それに対しシェーラは若干不機嫌そうに返す。

 「……本当に人間を襲わないって約束できるの?」

 「確約はしないよ。俺だって生き物である以上危機が迫れば抵抗する権利くらいあるだろ? 人間側に何の非もないときは絶対に襲わないって言ってもいいけど」

 「……そう」


 うーん、やっぱりまだまだ信用されてない……というか、もう彼女からの信頼なんて地に落ちてるのと同じか。ガッツリ脅してしまったし、仕方ないことなのかもしれないけど……

 「そうだ、色々と聞かせてよ、外の話。その方が君の緊張も解れるだろ?」

 「別に良いけど……そう面白い話はないわよ」

 「うんうん、大丈夫。この世界のことは全然知らないからね。どんな情報でも嬉しいさ」


 「シェーラって冒険者……だよね? 冒険者って何するの?」

 「冒険者は簡単に言えば傭兵兼何でも屋。報酬さえ貰えれば植物の採集だろうが魔物の討伐だろうが、基本的に何でも請け負う仕事よ。まあ、今回の私達みたいにこういうダンジョンに潜って一獲千金を狙ったりもするけど」

 「へー……組織としてちゃんと成り立ってるの?」

 「冒険者ギルドがあって、そこで冒険者の管理と仕事の斡旋をやってる。荒っぽい連中も多いけど意外と居心地はいいよ、ギルドの建物内はね」

 「へぇ……」

 なるほど冒険者か……正体を隠して冒険者になるってのも良い手だな……

 「言っておくけど冒険者登録はしない方が良いわよ。登録の際に魔法で鑑定されるから」

 「お、おう……」

 女の勘は鋭い。まあ、自分のステータスの偽造なんて朝飯前なんだけどね。


 その後しばらく雑談をしながらダンジョン内を進んでいく。心なしかシェーラの緊張も少し取れているようだし嬉しい。

 「それにしても……アンタ、本当にミミック……じゃなかった、あの『エニグマ』なの?」

 「あのって言われてもなぁ……俺も数か月前にいきなり進化したからよく分からない。そんなに珍しいものなのか? 俺って」

 「珍しいなんて騒ぎじゃないわよ……伝説よ? 千年に一体生まれるかどうかって話」

 「マジか……何で俺がなったんだろーな」

 「ミミックの進化が珍しいのは、ミミックが不必要な殺戮をしないから。ただ近づいてきた獲物を襲うだけの魔物じゃ進化の条件を滅多に満たせない」

 「あー……俺最下層の魔物手当たり次第に食っていったわ」

 「化け物め」


 「……ちょっと話してて思ったんだけど、アンタ本当に魔物? 異常に知能が高いっぽいし」

 「うーん……話せば長くなるっていうか、話しても信じてもらえないっていうか」

 「何よそれ」

 「俺が元人間って言ったら……信じる?」

 「信じない」

 「デスヨネー」

 ヴェルディ曰く、人間は基本的に転生者という存在を知覚していないんだとか。じゃあ何でお前は知ってんだ白竜さんよ。


 「そろそろ第3層のボス部屋ね……って言っても、もう往路でベリル達が倒しちゃったけど」

 「え? ボスって再出現するもんじゃないの?」

 「するわよ。でもこの短時間で再出現はないと思う」

 アカン。それはフラグやで。絶対ヴェルディさんが横やり入れて来るって。送り込んでくるって。

 「……そういえば、名前ってあるの?」

 「名前……名前か」

 あるにはあるが、サスケもキリシマもこの世界じゃ違和感の塊だろうしな……

 「実はないんだ。気が向いたなら君が俺に名付けてくれよ」

 「え、良いの? エニグマの名前を私が決めても?」

 「良いよ良いよ。友好の証ってことでさ、良い名前をいっちょ」

 「げ、友好って……」

 そ、そんなあからさまに忌避しないでくれよ……


 くっちゃべっていると、第3層のボス部屋の目の前に来た。

シェーラの案内から大体4時間……うん、かなり早い。迷いなく来れるって素晴らしいことだったんだね。

 ……と思いきや、戦闘音。やはりボスは再出現リポップしてたか。しかし誰が戦ってるんだ?

 

 ボス部屋の扉を開けると、そこには竜……いや、下級竜レッサードラゴンと三人の男女。

 下級竜レッサードラゴンか……17層以来だなぁ……

 「下級竜レッサードラゴン!? 何で3層にこんな魔物がいるの!?」

 あ、やっぱおかしいの? あんの白竜め、邪魔しやがって。

 

 シェーラは下級竜レッサードラゴンを見て驚いていたが、戦っている男女三人に気が付くと、何とも言えない微妙な表情をした。

 「リング……マチルダ……ヘレナ」

 「ん……冒険者仲間か」

 「ええ。でもさっき見捨てられたわ。半分はアンタのせいだけど」

 戦闘の様子を見てみると、三人が劣勢……というか、もう負け確定だな。リングと呼ばれた剣士は火傷が酷い。ブレスに相当やられたか。ヘレナの回復魔法のおかげで何とか立っていられるといった様子。しかも魔法使い職のマチルダも回復担当のヘレナも魔力が底をつきかけている。誰かひとり倒れた瞬間戦陣は崩壊し、そのまま全滅……というオチが目に浮かぶような状況だ。


 「……助けなくていいのか?」

 「助けたくても無理よ……どうせ私、シーフだし」

 努めて冷静でいようとしているようだが、声も身体も震えている。

 助けられない罪悪感からなのか、自分の弱さへのコンプレックスからか。

 「……仕方ないなぁ、助けてやる」

 「え……」

 俺はシェーラの頭をポンポンと叩いてやると、レッサードラゴンに向けて駆け出した___


__________________________


 一言で言えば、俺達三人は絶望的状況だ。

 メインアタッカーの俺は既に満身創痍、後衛の二人ももうすぐ魔力が尽きる。

 俺が倒れれば壁がなくなった後ろの二人が、ヘレナの魔力が尽きれば俺が、マチルダの魔力が尽きても俺が倒れ、後は総崩れになるだろう。

 何でこうなった……俺たちはほんの数時間前まで五人で行動していたのに。

 まさかベリルが死ぬなんて、思ってもみなかった。動揺した俺達は、いつもなら勝てる筈だったミミックとビビッて動けなくなったシェーラを置いてきてしまった。


 もうシェーラは骨ごと食われて死んでるかもな……アイツは優秀だった。いなくなってハッキリ自覚した。

 ある程度は来た道を覚えていたつもりだったが、アイツには敵わない。現にここまで来るのに往路の倍の時間はかかった。

 まったく、こんなことを考えるなんて……走馬灯なのかね、これが。

 あーダメだ、意識が薄れてきた……すまん、ヘレナ、マチルダ……

 「今までご苦労さん。あとは任しとけ」

 俺の肩に手が置かれた感触と謎の声がすると同時に、俺の意識は飛んだ。


_________________________


 私達三人の状況は最悪。死ぬことも覚悟した。だけど……

 私達の後方から凄まじいスピードで何かが飛び出して、リングに何かを言った後レッサードラゴンに飛び掛かった。

 ……そこから先は一瞬だった。

 勢いそのままにレッサードラゴンに体当たりしたそれは相手の巨体を空中に弾き飛ばし、無防備になったレッサードラゴンを殴打。ただの殴打じゃない。一撃一撃に跳んで勢いをつけてる。その跳躍も、足の接地面を床、壁、天井と次々と切り替えている。まるで重力を感じない動き。

 そして全身ボロボロになったレッサードラゴンの首を、どこからか出した剣で一刀両断。

 本物のドラゴンほどではないにしろ、レッサーの鱗も金属よりずっと固い。その首を、両断。それもほとんど抵抗を感じさせない剣筋。どれほどの筋力が必要なのか推し量ることもできない。


 さらに私を驚愕させたのは、それをやったのが私よりも幼く見える、多分……女の子だったことだ。

 その子は事も無げに笑顔でこっちに近づいてきて、やあと軽く挨拶をしてきた。

 「あ、あなた……何者?」

 その子は一瞬困った表情をし、少し考えてからこう言った。

 

 「俺はパンドラ。通りすがりの一般人さ!!」

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