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5.OHANASHI

 俺がこの世界で初めて人間に出会ってから凡そ3時間後、目の前で倒れた人間……シェーラといったか? が目を覚ました。

 「う、うぅ……」

 シェーラは上体を起こし、自身の状況を確認しているようだ。そして俺に気づくと、小さな悲鳴と共に飛びのいた。

 「ひっ……さっきのミミック……!?」

すっかり怯えてしまってるな……女の子に拒否反応を示されるというのはあまりいい気はしない。

 しかし、俺も俺でお仲間を殺しちゃったしな……あと俺は喋れない。だから意思疎通もできないのだ。まったく、何でヴェルディから念話のスキルは手に入らなかったんだよ。


一向に自分から付かず離れずの距離を保っている俺に僅かに緊張が解けたのか、しばらくするとシェーラは俺に話しかけてきた。

 「……ねえ、アンタ何なの? 普通のミミック……じゃないよね」

 そう、その通り。元人間の転生ミミックです。何とかして意思疎通を図りたいが、どうしようか。

 ひとまず、ダメもとで声を出そうとしてみるか。

 「あー……あ……えっ」

 こ、声が出た!? なぜ!?

ハッ、そうか! 人間を喰ったからか!?

 それにしても、元の俺の声にも、さっきの男の声にも似つかない中性的な声だな。

 

 「えっ!? 喋れるの!?」

 「いや……俺もさっき気づいた。多分人間を喰ったから発声が可能になったんだろうな」

 改めて俺が人を喰った魔物だということを知覚したのか、シェーラが少し顔をひきつらせた。

 「……明確な意思が、あるの? 魔物なのに?」

 「魔物に意思があるのは、やっぱりおかしいのか?」

 「おかしいわよ!! 確かにテイムされた魔物が薄く意識を持つってことはあるみたいだけど、ミミックをテイムするもの好きなんていないし……何よりアンタこのダンジョンの魔物でしょ!?」

 「そうだけど」

 「ボス級のモンスターでもありえない。しかもアンタ、ミミックでしょ? お世辞にも強いモンスターとは言えない……」

 「いや、種族としては『エニグマ』というらしい」


 俺がエニグマの名前を出した瞬間、シェーラが固まってしまった。

 「え、エニグマって……伝説級の魔物じゃない!! 何でそんなのが第4層に居るのよ!!」

 「何でと言われましても……俺は最下層から登ってきただけだよ」

 「最下層を生き残る時点で普通じゃないじゃない!!」

 

 マズい。ヒートアップしてきた。何とか落ち着かせる手段はないものか……

 ハッ、そうだ! まずはこの姿を何とかしよう! さっき人間を喰ったから人間にも擬態できるはず。

 前世の俺にまんま似せることもできるけど……それじゃ遊び心がない。それに、せっかくこんな可愛らしい(?)声なんだ。外見も可愛らしくしてやろう。

 別に自分の好みを反映させるわけじゃない。本当よ? フフフ……


 思い立ったが吉日、俺は早速人間に擬態を始めた。

 いきなり姿を変え始めた俺がシェーラには不気味に映ったのか尻ごんでいたが、すぐに驚いたように固まる。

 そりゃまあ、宝箱が人間に化けるんだから驚くよね。

 

 しばらく整形をした後、俺の姿かたちは固定された。

 今の俺の姿は、白い髪を少し伸ばした、一見美少年とも美少女ともとれる人間の姿だ。

 身長は……160ちょいってとこか。

 因みに言っておくが、オトコノコもオンナノコもついていない。元々性別なんてないしね。

 ……あっ、今素っ裸じゃん! いけねいけね!

 俺は「創糸」と「操糸」を使って洋服を編み上げた。糸スキルマジ便利。

 出来上がったのは、白いパーカー、白いショートパンツ。染料もないからね、仕方ないね。フードをつけて若干の宝箱要素を出しました……って、それはキツイか?

 ところで、ショートパンツっていいよね。上の服だけ着てるかのような錯覚に陥るの。分かる? エロくない? ねえエロく……やめよう。これ以上は性癖がバレてしまう。


 なおも固まって動かないシェーラに俺は話しかけた。

 「えーっと……シェーラさん? いいですか?」

 「はっ!? ひゃいっ!」

 可愛らしい返事だ、悪くない……ではなく。

 「俺の望みとしては、このダンジョンを出たい。外の世界に行きたいんだ。でもこのまま闇雲に進んでもまた何か月もかかるかもしれない。だから、出口まで案内してほしいんだけど……引き受けてくれないかな」

 できる限り優しく、そう聞く。警戒してほしくはない。


 「だ、ダンジョンを出るって……それじゃあ、外が大変なことに!!」

 「大丈夫だよ……別に人を喰ったりしないって」

 「食べたじゃない!!」

 「あれは成り行きだよ……開かない腹いせで斬られたりしたら面倒だしね」

 まあ、斬られてもこの地獄道中で「生命力上昇」スキルを得て傷は自動的に治るし、俺不死だけど。


 「基本的に人間とは仲良くしたい。それが俺の方針だ」

 「し、信用できない。アンタは仲間を殺した」

 「だから仕方なかったんだって。それに君もあの男に良い感情は持ってなかったろ」

 「そ、それとこれとは話が別!! アンタは人間を一人殺した。それが事実よ!!」


 うーん、頑なだなぁ……しゃーない、この手は使いたくなかったけど……

 「……どうしてもっていうなら、俺にも考えがある」

 そう言うと俺は、自分の腕を剣に擬態させる。先程の冒険者の剣だ。もちろん、この腕を振るえば物は斬れる。

 「そ、その腕……」

 「うん。俺もあんまりこういうことはしたくないんだけど……脅すよ。君が何も言わずに送ってくれるなら何もしないさ」

 「化けの皮が剥がれたわね……人間とは仲良くしたいって言ってたくせに」

 「ちょっと言葉が足りなかったな。俺は『人間として』過ごしたいんだ。だけど俺がどれだけ人間らしく振舞っても、俺が実は魔物だったと知ればきっと俺を避ける。つまり俺の正体を知ってる君ははっきり言って邪魔なんだよ。ここで消すべき存在」

 

 シェーラが俺にも分かるほどの音量で唾を飲み込む。よしよし、ビビってる。

 「分かってくれた?」

 笑顔でシェーラに問いかける。この笑顔をシェーラは友好の印と捉えるか脅威と捉えるか。

 「……分かった。案内する」

 よし、堕ちた!!

 「いやぁー、本当ありがとう!! 死にはしないけど延々とこのダンジョンを彷徨ってて精神が病みかけてたんだよね! はっはっは……はぁ」

 笑えない話だった。


 しかし……いきなり人間を脅してしまった。

 人間との友好の道は遠いかもな……まあ、人間の姿も手に入れたし、気長に頑張ろう!!


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