2.進撃のミミック
落下の衝撃は思っていたより軽かった。
スライムのボディが幸いしたのか、ポムンという擬音が聞こえてきそうな緩い落下。いやはや、これで体がバラバラになったとかだったらシャレにならない。
体感的には……約100メートルってとこかな? 人間が落ちたら一発アウトだろうし、まあ生き残れただけマシだろ。
さて、俺のオタ知識が通用するのであれば、ダンジョンってのは下層に行けば行くほど攻略難度が上がるものだ。魔物のレベルが上がるなり、罠が増えるなりして。
超次元的な現象が起こらない限り、俺は落ちたのだから下層に来ているのだろう。
もし、万が一……最下層なんてものに来てしまっていたら、俺のミミック生は即終了だろうな。
……なんて、楽観的な考えをしていた時期が俺にもありました。
俺の目の前に現れたのは、全長5メートルはあろうかという大蛇。紫色の鱗が怪しく光っている。そしてその大蛇は、しっかりとこっちを視認していた。
……っべー。これっべーわ。俺死んだわ。蛇に睨まれた蛙って正にこのことだわ。
……いや! まだだ! ミミックに転生したとはいえまだ死ぬわけにはいかん! 俺はまだこの世界を全然見れていないじゃないか!
一旦放棄した思考を無理やり引き戻す。俺、コイツを倒せたらこの世界旅するんだ。
そんなフラグじみたことを考えていると、蛇が攻撃を仕掛けてきた!
まず蛇が繰り出したのは毒。紫色のドロッとした液体が俺に向けて飛ばされる。
俺はそれを後ろに下がることで回避。スライムボディのいいところは、こういう動きがスムーズにできることだな。
毒液が触れた床を見てみると、シュウウゥゥ、という音と共に急速に溶けている。猛毒だな。触れれば即アウト。
さて、俺がここからどうすればコイツに勝てるのかだが……ちょっとした賭けになる。
その後数回毒液を飛ばしたのを全て俺が避けたのを見て、蛇は戦法を変えてきた。
素早い突進。からの丸呑み。
よし、来た! 蛇ならこんな戦法を取ってくると思ってた!
俺はそれに素早く反応し、スライムボディを蛇を飲み込む管のような形で展開。これで蛇の逃げ場はなくなった!
そのままスライムボディにミミックの牙を生やし、突っ込んできた蛇の首を噛み千切った。
蛇はしばらくの間ピクピクと痙攣していたが、間もなく動かなくなった。
勝った……のか?
っしゃああぁぁ!! 勝った!! 声が出せてたら絶対雄たけび上げてた!!
落ち着きを取り戻した俺は、再び自分のステータスを確認した。
お、やっぱりスキルが追加されてる!
「毒攻撃」「毒耐性」「麻痺攻撃」「麻痺耐性」の四つ。それと擬態先に先程の蛇……複毒大蛇が追加されている。
あいつ、麻痺攻撃もあったのか……倒せたのは結構運がよかったのかも。
コイツを仕留めたことによって戦略の幅が広がるな……こうなりゃ、片っ端から狩っていくか!?
というわけで、一狩り行こうぜ!!
しばらくダンジョンを徘徊して最初に出会ったのは、クソデカい虎。全長だけ考えるとさっきの蛇と同じくらいだが……迫力は段違いだな。
向こうはこっちに……気づいてないな? よし。
蛇の姿に擬態し、尻尾を虎の胴体に巻き付ける。この時点でようやく虎は俺の存在に気づく。野生の獣としてそれは大丈夫なんかね?
そしてそのまま虎の首筋に牙を突き立てる。そのまま麻痺毒を注入し、虎をジワジワと殺していく。
もちろん虎も抵抗するが、常に奪われる力と俺に締め付けられる苦痛で、確実に、確実に。
「剛健」「俊足」スキル、擬態先「韋駄天虎」入手。
次に出会ったのは、2メートルほどの蜘蛛の魔物。それが10匹ほど。
俺は先程の虎の姿のまま尻尾を蛇のものに置き換えたハイブリッドな戦闘スタイルに。
蜘蛛たちは俺に糸を巻き付けて捕えようとするも、俺の「俊足」スキルの前には遅すぎて歯が立たなかったようだ。
そのまま尻尾で叩き潰したり、踏みつぶしたり、噛み砕いたり。
毒を持っていたようだが、「毒耐性」でほぼほぼ効かなかった。
「操糸」「創糸」「毒無効」スキル、擬態先「大毒蜘蛛」入手。
毒耐性が重なったから毒無効になったのかな?
お次は巨大蜂の群れ。「創糸」「操糸」に、「剛健」「毒攻撃」「麻痺攻撃」を乗せて一網打尽。
次はデカいゴブリンみたいなのの群れ。100匹程いたが、ミミックボディのままでもスキルを駆使して何とか殲滅。途中魔術系が居り、火魔法を食らって痛い思いはしたが。
そして次は___
どのくらい経っただろうか。体感的にはもう3日くらい経ってる気がする。
っていうか、今更だけど全然眠気とかないね。ミミックは寝ないのかな。
そして自分のステータスだが……ヤバいね。
糸系スキルと別のスキルを組み合わせる戦略が凄く使いやすい。それと「俊足」スキルから派生した「韋駄天」スキルの影響で、ミミック状態でもかなり素早い動きが可能に。「隠密」で自身の気配を消すことも容易。
一言で言うと、ミミックとは思えないほど強くなってしまっていた。
さて……ダンジョンの魔物はかなり餌にしてきたが、いつまでもここを徘徊してなどいられない。俺は外の世界に出て、冒険をするんだ。
……あーでも、俺の外見が問題だよね……ま、考えててもしょうがない。
ひとまず、上に行きたい。どっちに行こうかな。
移動時のガシャガシャ言うのも「隠密」スキルで何か消えた。
そしてしばらく移動していると、開けた場所に出た。出てしまった。
そこにいたのは……
『……ほう、これはまた珍しい客だ。擬態魔とは』
そこに悠然と居座り、俺に念話で話しかけてきた存在。
今まで相手取ってきた魔物とは比較にならない巨体。それでいて感じ取れる高貴さ、美しさ。
全身を純白の鱗に包む、その存在は。
どこからどう見ても、竜だった。