1.転生先:ミミック
……皆さんはミミックというものをご存じだろうか。
【mimic】…… 1.真似る・真似て馬鹿にする
2.~に似る
3.擬態する
……いや、そうではなくて。確かにそれが元だけどそうじゃない。
「ミミック」という魔物の話だ。
ゲームなんかじゃ宝箱に擬態して襲い掛かってくる定番モンスター。
個人的な感覚だけど、あれ、意外と強いの多いよね。ある程度自分が強くなってきたら問題ないんだけど、まだ弱いうちに戦っちゃうとダメみたいな。
……話が脱線した。戻そう。
何で俺が今こんなことを訊いているのかというと……
俺、霧島 佐佑は平凡な会社員だった。
高卒で就職し、その当時からずっと勤めている会社の一員。
それなりの人間関係を築き、それなりの暮らしをするザ・一般人 (オタク趣味あり・25歳独身・童貞)。
そんな生活に文句があったわけではないが、退屈っちゃ退屈だった。
毎日ほぼほぼ同じことの繰り返し。
「あー、ラノベみたいに異世界転生しねーかな」とか考えたことはありました。ええありましたとも。
……目が覚めると目の前に広がっていたのは、石造りと思われる壁と床。光源がほとんどないのか暗い。
しばらくすると、自分の視点が異様に低いことに気づいた。加えて動かせる手足もない。代わりにあるのはこの美しい宝箱のボディ……
俺は、ミミックに転生してしまっていた!
待って。自分でも状況がつかめない。これはなんだ、異世界転生なのか!?
だとしたら何で……あっ思い出した。通勤途中で車に轢かれそうになってた子供助けて俺が轢かれたわ。
そんで俺は死んで、現在ミミック? ホワイ!?
……いや、考えても分かるわけないか。きっと神様が慎ましく生きてた俺に慈悲をかけてくれたんだ。うん。きっとそう。だからってミミックはどうよ?
とりあえず、ここはどこだろう。
目も耳も口もないが、変な感覚で周囲の様子は確認できる。魔法かな?
俺が今いるのは、通路のような場所だ。左右に伸びており、暗いのもあって奥まで見渡せない。
俺のラノベ知識から鑑みるに、ここはダンジョンと見た!
……えっヤバくない? 絶対モンスターいるでしょここ。
だが、ビビってても仕方がない……進もう。
目が覚めた地点から右に進んで約10分。
体の構造上、移動するには一歩一歩ジャンプするように進まねばならず、ガッシャンガッシャンと音が鳴る。ここめっちゃ音響くし、他の魔物とかに気づかれる可能性大。もうすでに怖いんですが。
更に10分後。俺はこのダンジョンの第一魔物を発見した。
透き通った水色のドロドロした物体……スライムだ。10匹くらいの群れになってる。
反射的に壁に張り付いて宝箱ロールプレイを敢行しようとしてしまったが、イケるのでは?
だってスライムだぜ? あのド定番の最弱モンスター。武器になりそうなものは持ってない。
対してこちらには、箱の内側に鋭い牙がある。これでガブッといけば……
意を決した俺は思いっきり跳び上がり、スライムの群れに突っ込んでいった。
大半のスライムには避けられたが、1匹は捉えた。噛み砕いてもほぼほぼ感触はなかったが、それでも倒せたという感覚はあった。
よし、途中で気づいて警戒してたけど毒も酸もない!
俺の襲撃に驚いたのか、他のスライムたちが慌てたように逃げていく。
待てぃ! お前ら俺の食事になれ!!
あー食った食った。別に腹も減ってないし膨れもせんかったけど。
ていうか食ったものはどこに消えるんだ? 俺の身体の中ブラックホールだったりして。
……む? 何か体に違和感が。
何というのか、体の作りが変化したような感覚。
レベルアップ……とかかな?
もしレベルなんてものが存在してるなら。「アレ」イケるんじゃないか?
ステータス、オープン!!
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名前: なし
種族: 擬態魔
保有スキル:「擬態」……捕食したことがあるものに擬態できる。
「能力吸収」……捕食したものの力をある程度行使できる。
「箱庭」……任意で体内に物を保存できる。捕食した物は消化されるが、保存した物は劣化せずいつでも取り出すことができる。
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よっしゃ、成功!
目の前に半透明のウィンドウが展開され、俺自身の能力が可視化した。
レベルは……無いみたいだが、今の感覚は「擬態」のレパートリーが増えたってことなのか?
試してみよう……「擬態」!
おっ……おお!
体がドロドロに溶けていくような感覚が俺を襲う。
字面だけだとグロそうだが、意外と快適。スライムになっているのが感覚で分かった。
謎の視界で自分を見てみると、先程捕食したスライムと同じ形状になっている。
その後少し遊んで分かったことは、この状態でも「捕食」が行えることと、体の組成までスライムになっていること、姿は意外と自由にカスタマイズできることくらいか。なんだかもっと自分に可能性を感じる。
……自分の能力に気づいて浮かれてしまったのだろう。俺は警戒を怠っていた。
スライムの体でその辺を彷徨っていると、カチッという音と共に俺を浮遊感が襲った。
……落とし穴である。
ダンジョンなんだ。そりゃ罠の一つや二つあるよね!
あああああぁぁぁぁ……と、文字通り声にならない悲鳴を上げながら、俺はこのダンジョンの「最下層」まで落とされてしまった__!