ルーナの思い
ルーナはゆっくりと、今までの事を思い出していた。
村でののんびりとした時間、その日常がある日突然終わった事、そして従魔達との出会い、徐々に、けれど実際は約2年という短い時間で変わった自分。
幸子としての自分の記憶は確かにあるけど、本当に遠い昔の記憶のように、薄れている。
むしろこの2年あまりに色々とありすぎた。個性的な仲間達に囲まれての旅や、大切な家族達。友人。みんなルーナの宝物だ。
出来るならこのまま手放したくない。1年位なら気づかれないかもしれない。でも成長期なのに全く大きくならなかったら、やっぱりおかしい。
「未練、かな」
(ルーナ、僕達はこれからもずうっと一緒だよ?)
(あたちには家族が分からないのー。世界樹の精霊はみんな同じなのー)
(私も、分裂したら別の個体)
(私達眷族とはまた別な気持ちなのよね)
〈私は妻を持った事がありましたが、さすがに長年は続きませんでしたね。歳をとらない、子供ができない等の理由もありましたが、人にはなり切れていなかったのでしょうね〉
(あら羨ましいわ。ワタシなんて恋人がやっとなのに)
いたんだ…恋人。
そしてオニキスは家族まで。
いいな。
『固有能力 時間操作を習得しました』
げ、マジですか。しかも魔法じゃなくて、神の力。
とりあえず全部服を脱いで、15歳位を想定してみた。
おおお!これが、私…。
姿見の前ではしゃいでしまった。けど、初めて使う力だからか、恐ろしく力を消耗するなぁ。保って一時間かな?
利用できそうではあるけど、自己満足の範囲かな?
小さな自分に戻るけど、この姿が一番自然に思える。神様が姿変わっちゃだめだよね。イメージ大事。
来年から本格的に栽培される陸稲も気になるし、あーちゃんの1才の誕生日位まではいたいかな?まだ行きたいダンジョンもあるし、ファンタジー種族のエルフにも会っていない。あー、でもエルフには精霊が見えるんだっけ?電飾人間姿はさすがに恥ずかしいな。
きりがないな。分かっているのに。
数日後、折しも冬休みに入り、家族全員が揃った。ボルドーの屋敷に全員でお邪魔して、シルキーに焼いて貰ったチョコレートケーキを食べる。
中に挟まれた生チョコが絶妙な甘さと舌触りをもたらしてくれる。
「みんなに集まってもらったのは、大切な話をしたかったからです」
チョコレートケーキの最後の一欠片を蜂蜜入りの紅茶で流し込んで、ルーナはそう切り出した。
「私は、今の中途半端な生活をやめて神域に行って正式に生命神になろうと思います」
驚きはあったが、大切な話しを持ちかけられた時にある程度は察していたのか、動揺は少なかった。
「今までのように、たまに行ってお勤めをするだけではだめなのか?」
「できなくはないけど、今の状態では充分に神の力は使えない。信仰心が足りないから。
それに、気がついているかどうかは分からないけど、私は去年から成長していない。
ある程度大人になってから神様になったならともかく、成長期の今だと、さすがにおかしいから」
「それは…神様になったから?」
「うん。」
「そうなると、もう会えなくなるの?」
「しばらくは忙しくなるかも?加護を求められたら自分で与えるか、祝福にするか判断しなきゃならないし、願いもそう。
新米神だから最初はしっかりやっておかないと信仰も集まらないし。
あ、あと私の勝手な判断だけど、家族のみんなには私の加護を付けておいた。病気にならないし、怪我も勝手に治るよ」
「そ、それは…すごいな」
「眷族達はどうなるの?」
「連れて行くよ?これからは神様の使いって立場になるのかな?私の眷族達だから基本は私と一緒だけど」
「いつ、なの?」
「決めてはいないけど、年内かな?」
「…年内…」
「ドールはどうなるの?」
「直接の応答は難しいかも?多分留守電…えっと、メッセージを後から聞く感じかな?ここと神域は時間の流れが違うっぽいから」
「しばらくはって事は、しばらくしたら会えるって事?」
「そんなに頻繁には無理だけど、遊びに来るよ。絶対に。
私、すごく幸せだったよ?たくさんの家族も大好きだし、ギルドの人とか近所の人も優しくしてくれた。友達もできたし」
約束通り、バートとリリーには知らせた。数日後にお別れ会というか、壮行会のようなものを開いてくれるらしい。
次で本編は完結になります。あとはその後的なものも入れてみたいです。
一応次はこんな話しを書いてみたいかな的なものはあります。まだ色々と未定ですが




