アルティメットファイナルマジカルマスターと、ユグル共和国
ダークソードで魔物を狩っていたら、ブラックホールの魔法を覚えた。
何でも吸い込んで消滅させちゃう恐ろしい魔法で、この魔法から逃れられる魔物なんているんだろうかと思った。
どうやら暗黒魔法最後の魔法のようだ。
後は木魔法と補助魔法かな?
補助魔法は術者の望みを叶える魔法のようだけど、習得条件がいまいち分からない。この前も、戦いの途中で武器を変えたくて、チェンジの魔法を覚えた。
防具でもいけそうだけど、二種類しか武器は持っていないから、あまり意味はないかもしれない。
ちょっとだけお着替えの魔法?と思ってしまった。収納庫に服が無いとだめだけど、大概の荷物は収納庫に入っている。前にシルキーに作って貰ったミスリルカイコの糸を使った服は、やっぱり少し大きかった。
木魔法は、魔物を拘束したり、蔓を鞭のようにしならせて攻撃出来るけど、いまいち使い勝手が悪い。でも、どうせなら魔法を極めたいので、頑張る。
元々魔法使いって後方支援だから、こういうのもありだよね。
あ、木魔法覚えた。成長させる事が出来るのか。魔法ってすごいな。試しに苗木にかけてみたら、するすると大きくなった。木の洞に住んでいる大きなもふもふの魔法みたいだ。
『全魔法を覚えたので、マジカルマスターがアルティメットファイナルマジカルマスターになりました』
ちょいまち!何その恥ずかしい名前!マジカルマスターだって大概なのに、カタカナ並べればいいってもんじゃないでしょうに。母様には絶対話せないな。すごく喜びそう。
魔法の名前って誰が考えているんだろう?ログウェル様かな?でもスキル名は違うよね?
ガルド様ならノリで付ける気がする。でも、補助魔法は極めたって感じがしないんだよな。
便利魔法はまた別なのかな?
魔法極めて嬉しいはずなのに、釈然としないなぁ。
(狩りはもう終わり?)
「ん、討伐規定数に達したからもういいや」
何か気が抜けた。
「ルーナ、ちょっとあーちゃん見てて」
あーちゃんは、アクアの事だ。やっと首が座ったので、ルーナにも抱っこしやすい。
下に置かれてぐずついていたアクアも、抱っこされてご機嫌になった。
アクア、お姉ちゃんの分までお母さんと一緒にいてね。
そういえば、目と鼻の先の外国、ユグル共和国には行った事が無かった。共和国には王様がいなくて、代わりに5年に一度、代表5家の中で話し合いがされて大統領が決まる。最近は三期連続でヨードラス家の代表が大統領を務めている。堅実な人柄で、父様も仕事がやりやすいと言っていた。
ダンジョンもあるし、行ってみようと思う。
国境を越え、出てきたオーガの頭を狙ってホーリーを打ち込む。魔石だけ取って後は燃やす。
皮も素材にはなるけど、ランク高い魔物の割に、あまりいい値段ではないから、解体まではしない。魔石さえ取れれば充分だ。
この辺は北の山に近いから、ボルドーとを結ぶ国境に近くても、高ランクの魔物に襲われやすい。だから、ユグル共和国の街、ゲールまでの護衛依頼が多いのだ。
ゲールの街は、活気に満ちていた。ボルドーの街と規模的には同じ位だろうか?
「失礼、ルミナリア ボルドー様とお見受けします」
話しかけてきたのはこの街の警備兵と覚しき人達。
「我等の盟主、クロード様がお会いになりたいと申しております。ご一緒して頂けませんか?」
「何の用?」
「クロード様はアクシス王国との外交も一手に担っています。もちろんボルドーの領主様とも親しい仲です。国境を超えたのを確認されて、挨拶なされたいのかと」
面倒だけど、無視して父様に迷惑かけるのも嫌だな。
「分かりました。けど、ここには冒険者として来ているので、そのつもりで」
領主クロードの屋敷は、地方領主らしく、外見はごつい。いざというときには魔物から市民を守る砦となるのだろう。父様の屋敷も一緒だ。確か代表5家の一つだったはずだ。
ただ堅牢な外見と違って、中身は豪華な屋敷だ。
部屋の一室で待っていると、地方領主らしくなく、随分と太った男が現れた。あんなんで何かあった時に戦えるのだろうか?
「ふむ、なるほど。で?後ろの彼が従魔となった黒竜であると。丁度今日、夕食の席で官僚との会合が開かれるので、そこであなたの功績を称えましょう」
「は?意味分からないんですけど」
「黒竜の危機を取り去って頂いた、聖女様を皆にも紹介したいのです。我が家とボルドー殿の絆が深まれば、これから先の交易についても望ましい方向に事が進むでしょうし」
「はあ」
「ではしばし、こちらでお寛ぎ下さい」
領主が出て行くと、ルーナは溜息をついた。
「父様、聞こえますか?」
ルーナは父様の所に置いてきたドールに話しかける。
「ルーナ?どうした」
ルーナは、今までの事を話した。
「まあ、十中八九何かあるだろうな。交易や外交の事は心配しないでも、ヨードラス家には逆らえないだろうし、よほどの事が無ければクロードが政権を取る事もないだろうから、こちらの事は心配しないでもいい。ルーナに何かある方が嫌だからな」
「うん。私は大丈夫」
やがて夕方になり、ルーナは会場に案内される。オニキス以外は、影に入れている。
果実酒で乾杯して、ビッフェ形式なので、料理をとりに行く。
お酒といっても果実酒は弱いし、この世界では未成年とかの縛りはないので大丈夫。
んー、でも何か変な味?
「皆様、今日はお集まり頂きありがとうございます。
まずは重大な発表をさせて頂きます。こちらにおられるのは、現代に現れた聖女様。
北の山に現れた黒竜を従え、自国ではたくさんの者を救ったそうです。
その聖女様がこの度我が息子と結婚する事となりました。
第二夫人とはなりますが、立場的には聖女様の方が本妻となります。これにより、我が家の立場は大統領をも覆すものとなりましょう。
我が家のますますの発展は約束されたも同然となります」
「ちょっと待ってよ!そんな話聞いてない!」
「!何故…飲まなかったのか?いや、確かに」
「確かに麻痺薬入っていたみたいだけど、私には効かない」
「こ、ここは一つ納得を…必ずボルドーにとって有利な交易を致しますので」
大体、隣に立ってる息子だって30近くじゃない?ロリコン反対!
「納得なんてするはず…!」
いきなりその息子に抱き上げられて、キスされた。怒ったオニキスが、男を殴り飛ばす。
「!従魔が人を傷つけたらどうなるか分かっているな!」
「なら私を罪人にすればいい。でも、私が権力に屈する事はない」
「と、捕らえろ!」
(オニキス、動いちゃだめだよ)
(済みません、主)
(大丈夫。オニキスがやらなきゃ私が暴れていたよ。みんなも大丈夫だから、しばらく影にいてね)




