海岸ダンジョン
海辺のダンジョンは、水性の魔物の宝庫だ。ザリガニみたいな奴を倒すと、甘エビがドロップされた。ボスを倒して手に入れた宝箱には、白エビがたっぷりと入っていた。鍋の具材にすると美味しいらしい。
リリーの武器は大剣で、狭いダンジョンでも器用に振るっていた。
12階層に出現したブルートータスを倒すと、甲羅が落ちた。
「その甲羅はね、ある薬になるんだ」
「ある薬って?」
「惚れ薬。眉唾物だけどね。私の二つ上の兄さんも愛飲中」
「惚れ薬って相手に飲んでもらう物じゃないの?」
「分からないけど、魅力が上がるらしいよ?」
ふーん。本当だったらバートに飲ませてやろうかと思ったけど。
「何?ルーナは飲まなくても可愛いよ?」
「何か顔に出てた?違うよ。私の友達に、女運がとことん悪い奴がいてさ、もう、10歳も年下の私に声かけなきゃだめ位の情けない奴で。悪い奴じゃないんだけど」
「ええ!絶対危ない奴だよ!」
「ある意味危ないけど、大丈夫だよ。私は一生結婚しないから」
「そうなんだ。あたしも結婚はしたくないな。男って奴は女だからって何もできないと思いやがる」
「船乗りは大変そうだよね」
「実際力仕事だから大変だけどさ、頭ごなしに否定はされたくないんだ」
分かるなぁ。私の場合、子供だから駄目。だけど。
「さてと、そろそろ戻る?ルーナが強いからサクサク来ちゃったけど、疲れて明日潜れないのも嫌だしね」
私は大丈夫だけど、リリーは私の加護でレベル上がったからきついかも?本当は私と従魔だけで潜った方がベストだろうけど。
13階層を少し覗いたら、頭の先が剣のように尖っている魚が飛び跳ねていた。
「あれがソードフィッシュ?」
「そう。食べれば身は柔らかいし、美味しいけど、嫌な奴さ!」
美味しいのか…。と思っていたら、モモが触手を糸のように伸ばして魚の頭をはねていた。
もしかして、新スキル?斬糸か…モモ、また頑張ったんだね!
「モモだっけ?凄いね、そのスライム」
「モモは頑張りやさんなの!」
ふふ、照れてる。私の役に立てたのが嬉しいんだろうな。
要らない素材をギルドで換金して、リリーと手を繋いで歩く。いつもオニキスがお子様抱っこしてしまうから、歩くのが新鮮だ。
代わりにオニキスが影の中で拗ねている。
(主が小さなうちはぶつかったり転んだりしないようにお守りするのが私の役目だと思っていましたのに)
(王都みたいに人がすごかったらちゃんとお願いするから。それに強敵がいてもオニキスがいてくれれば安心だし)
(でも私は、もふもふじゃありませんし)
(オニキスの鱗もひんやりして気持ちいいよ)
(…捨てないで下さいね?)
(大丈夫、従魔のみんな大好きなんだから)
(やはり主はお優しいですね)
(そうよ?アンタが気にする事じゃないのよ。ルーナちゃんはワタシ達の女神なんだから)
(ちょ、コハク!)
(うん。ルーナは僕達をとても大切にしてくれる。もちろん僕も、どんな時でも一緒にいたい)
(あたちもなのー)
(みなさんは従魔歴が長いですものね。私はたまにお心を読み違えて叱られてしまうのです)
(注意はするよ?でもそれは、私のわがままでもあるし)
(より正しい方に導いて下さるのですね?やはりコハクさんの言うとおり、我らの女神)
オーバーだな。街を出たら前と同じになるのに。
翌日は、13階層から始めた。さすがに大剣では取り回しの悪くなったリリーは、片手剣を使っている。ソードフィッシュは美味しいと聞いたルーナは、ジャンプする所を狙って狩っている。角の部分が殆どだが、開きで出た時はいい笑顔をする。
「ふふっ、あたしには憎い奴でも、ルーナには美味しい魚にしか見えないんだね」
「んー、ほら、たくさん倒せば船の敵討ちにもなるし」
「はいはい。分かったから次行こうか」
下に降りる前に、セーフティーエリアでソードフィッシュの開きを焼いてみた。淡白な身は柔らかく、塩を振ったら美味しかった。
次のエリアは毒ガエルで、ルーナのテンションは下がりまくっている。
「ルーナってば分かりやすすぎ」
「ちゃんと狩ってるじゃん」
触りたくないので、棒で突いて倒したり、魔法を使って倒した。毒の瓶はそんなに高く買い取ってくれないし、皮はたまにしか出ない。
20階層のボスは、バブルフィッシュで、吐き出した泡で自分を見えなくしてしまう。その泡が弾けるとダメージが来るので、水で泡を洗い流して倒した。宝箱には、切り口を凍らせる大剣が入っていた。
「これはリリーのだね」
「いいの?従魔含めると、私は二割も倒してないと思うよ?」
「私達は使わないし、折角の魔剣だから使ったら?私は食べ物優先でもらってるし」
「分かった。ありがとう。20階層位でこんなにいいのが出たの初めてだよ」
「じゃあ、今回はラッキーだったね」
また明日、21階層から頑張る事にした。




