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港街エレイン 

 港街エレインは、漁業と貿易の大きな街だ。広い港には、大型の航海船と、小型の漁船が停泊している。

「ふわあ…おっきい!」

 地球の船のようにスクリューはなく、風魔法で進むようだ。材質も、FRPでなく木造…って、当然か。

「ちょいと、どいとくれ!」

 紅い髪の少女の後ろを、機材を持った屈強な男達が走ってゆく。見ると船首がボロボロで、今にも沈みそうな漁船が、入港してきた。

 船員達は、港から迎えに行った小舟に乗り込むつもりのようだが、僅かに間に合いそうもない。

 ルーナは、船の周りを凍らせた。

「おおっ?!助かった!」

「早いとこロープを結ぶんだ!お嬢ちゃん!もう少しもたせられるかい?」

 ルーナは、軽く頷く。

「得物と積荷を降ろして軽くするんだ!さっさとしな!」

 姉様と同じ位の歳なのに、現場を仕切る姿は勇ましかった。

「ちっ…エチゴヤクラゲが大量にかかっているじゃないか。さっさと捨てちまいな!」

 悪代官とつるんでいそうな名前だな。

「お姉さん!それ一つもらっていいですか?」

「はあ?エチゴヤクラゲをかい?まあ…船を助けてくれたんだ。こんなのでよけりゃ、持っていきな」

 ルーナは氷の橋を桟橋まで延長して、食べる所だけを魔法で切断して頂いた。

「助けてくれてありがとう、可愛いお嬢ちゃん。あたしはリリアーナ エレインだ。もっとちゃんとした礼をしたいんだけど」

「気にしなくていいですよ?このクラゲを美味しく頂くんで」

「うえ″。あの気持ち悪いのを食べる気?ていうか駄目だ!麻痺しちまうよ!」

「麻痺する部位は取ったから平気。ネギ玉と一緒にポン酢あえにして食べるの」

 本当は中華味がいいけど、材料が揃わない。

「ちょいと親父さん、この子正気?」

〈ルミナリア様は娘ではありません。我が主です〉

 あー、言っちゃった。苗字からして領主の娘なのに。貴族系は面倒だから避けたいのに。

「ルミナリアって、もしかして聖女の?ルミナリア ボルドー?」

「はい。でも今は、冒険者として来ているだけなので」

「やっぱり!噂通りの可愛い子!あたしの事はリリーって呼んで!あたしにとっては、赤竜を倒したフレイド様とマリー様の娘っていう方がポイント高いけど。英雄の娘がこんなに可愛いなんて、素敵!その魔法の才能はマリー様から受け継がれたのね!」

「お嬢!落ち着かねぇと、戸惑ってますぜ」

「あっ、ごめんなさい。ね、良かったら家に来ない?」

 聖女と知ってもまっすぐに好意を向けてくれる姿には好感が持てたし、何より不思議な魅力を持ったこの子と友達になれるかも知れないと思った。

「リリーって何歳なの?」

「10歳だよ。身長高いから年上にみられがちだけど」

「姉様と同じ位。12、3位かなと思った」

「そんなに上に見える?」

「しっかりしているからかな?ね、その船はどうしてそんなにボロボロになったの?」

「ああ、ソードフィッシュだよ。丁度群れに当たったんだろう」

 へえ。怖い魚もいるんだ。

「そうだ、ダンジョンてどこにあるの?」

「あっちに崖が見えるだろう?その下だよ。ちなみにあたしんちはその上辺りかな」

「ダンジョンのすぐ側なんて、危なくない?スタンピードが起きたら」

「ははっ、心配ないよ。海の男達は強いからね。あたしもたまに潜るんだ。ルーナは冒険者って言ってたけど、ダンジョン目当て?」

「うん。従魔達もいるし」

「へえ?大人しそうな外見なのに、やるね。ならさ、この街に滞在する間は、家に滞在しなよ。ね?」

「勝手に決めちゃっていいの?」

「全然平気。ルーナはドガ達の恩人だし」

「恩人て程じゃ」

「いや、あの船には魔石が積んであるんだ。風魔法が使えない奴の船は魔石に魔力を通して進んでいるから、沈んだら大赤字さ。船は直せても、魔石を手に入れるのは大変だからね。あんな小型の漁船でも、Aランクの魔物が持つ魔石位は必要なのさ」

「じゃあ、あの大きな船は?」

「風魔法使い必須だけど、魔石もたくさん積んである。南のオーラス国や、他の国にも行くからね」

「外国かぁ…行ってみたいな」

「お隣のユグル共和国にも行った事ないのかい?ボルドーからならすぐじゃないか」

「まず国内から冒険してみようかなと思って」

「そうだな。金も両替しなきゃ使えないし、面倒だよな。ああ、着いたよ」

 リリーは屋敷の扉を勢いよく開く。

「親父ー!ドガの船がやられちまったよ!」

「何!ドガ達は無事なのか?魔石は?」

「どっちも無事さ。ルーナのおかげでね。聞いて驚けよ!なんとたまたま居合わせた聖女様が海を凍らせて船が沈むのを防いでくれたんだ」

「何!…確かに銀の髪に紫の瞳。しかし輝きもないし、羽根もない?」

 ルーナは、マントを脱いだ。

「初めまして。ルミナリア ボルドーです」

「わあっ!可愛い!ね、羽根触ってもいい?」

「強く掴まないでね?…ひゃう!」

「あれ?痛かった?」

「うー、くすぐったい」

「こらリリー。済まない、娘は可愛いのが大好きでね。アルフ フォン エレインだ。助けてくれて感謝する。できれば娘とも仲良くしてくれると嬉しい」

「こちらこそ。リリーとお友達になれて嬉しいです」

「息子一人と三人娘の一番下だから、妹感覚なんだろう」

「親父、ルーナは冒険者なんだって。あたしも一緒にダンジョンに潜ってもいいだろう?」

「そりゃ構わんが、ルミナリアさんは一人でこの街に?」

「従魔達がいますから」

「ああ、その頭の上の小鳥と、わんちゃんと猫ちゃんかい?…まさか、後ろの彼は」

〈黒竜のオニキスと申します。どうぞお見知りおきを〉

「あ…ああ。こちらこそ。どうぞ遠慮なく我が家に滞在なさって下さい」

「びびってんの?親父」

「あ、当たり前だろう!竜は災害級の魔物だぞ?彼を怒らせたら、街はおろか国さえ危うい」

「オニキスはそんな事しないよ?」

〈ええ。主に危害が加えられれば別ですが〉

「脅しちゃだめだよ、オニキス」

〈ですが、事実です。私にとって主が一番なので〉

「えっと…お世話になります」

 あとで隙を見て、お泊まりする事伝えなきゃ。


 リリーの部屋は、豪胆な性格と違って、ファンシーな物で溢れていた。

「よくあたしには似合わないって言われるんだけどさ。服はさすがに似合わないし、動きずらいからこんなの着てるけど」

「意外性があっていいと思うけどな。リリーは学校行かないの?」

「初等学校は行ったよ?あたしは船乗り目指しているから、それ以上は行かないだけ。ね、ルーナのワンピースって可愛いけど、冒険者向きじゃなくない?」

「私の場合、羽根が邪魔だから他に着られる服がないんだよ」

「なるほど。そういう苦労もあるんだね」

 その日は遅くまで喋って一緒のベッドに寝た。ダンジョンは明日からだ!





 


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