結婚式
マヨネーズやソースは、この街にも随分浸透してきて、私としても嬉しい限りだ。
「皆さん、お久しぶりです!」
「よお嬢ちゃん、母ちゃんに無事会えて良かったな」
「今日はどんな料理っすか?天使ちゃん」
わくわく顔の料理人達の前に、ミルクや卵などを並べていく。
「今日はアイスクリームっていう冷たいデザートです。この中に氷魔法を使える人は?」
「あ、俺行けるっす。弱い魔物ならどうにか倒せる程度っすけど」
「充分だよ。とにかく冷やしながら混ぜなきゃならないからちょっと大変だけど、暑い時に食べると最高に美味しいの!」
氷魔法でボウルを覆って風魔法で攪拌させるけど、ハンドミキサーが欲しい。
「出来上がり!これが基本のミルクアイスだけど、果汁を混ぜたり、あとはナッツを細かく砕いて入れても美味しいと思うんだ」
久しぶりのアイス、美味しい!料理長さんも感動して、色々実験してみるって言ってくれた。
ドアが開いて、父様が顔を出した。
「ルーナが来たと聞いたのだが…何だ?その白い物は」
「こっ…これは、旦那様」
「えっと…甘いのがたべたくて?」
後ろめたくて、視線が泳いでしまう。
「冷たい…甘くて美味しいな。ミーティアが喜びそうだ」
「だよね!姉様も喜ぶと思うんだ!」
「…と、いうことは、これはルーナが作ったのか?」
「うえっ?…そ、そんな事よりみんなでアイス食べようよ!」
「アイス…ふむ。ルーナはたまに調理場に出入りしていたな?」
「えへへ…私、美味しいのを食べるの大好きだから!」
「…。まあ、いいだろう」
父様は、ルーナ専用の踏み台を見て含みのある笑みを浮かべた。
「わ、私…姉様の所に行ってこようかな!髪を結んでもらうんだ!」
ルーナはさっさと逃げ出した。
「さて、料理長?」
「これはその…嬢ちゃんとの約束で、言えねえんです!」
「そ、そうっす!弟子入りしたくてもがまんっす」
「馬鹿おめぇ!卵味のドレッシングは、野菜どころかパンにも合う、今までにないアイディアだけど卵を加えるだけだから、目立たないし」
「何言ってるんすか料理長!揚げ物料理を引き立たせるソースが一番っす!」
「…まあ、今更いいでしょう。今は魔道具の話をしなくては」
前に作ったジューサーとフードプロセッサが、今は王都から注文が来るほど売れている事を聞いた。それで税金として受け取った一部を私に還元してくれるっていう話だけど、その資金を使って、別の魔道具を作って欲しい話をした。冷凍庫だ。
熱が通りにくいように二重構造にする事や、薄く伸ばしたゴムを使って密閉性を高める事。
発動媒体の図案と試作品用の魔石を渡したら、父様は目を丸くしていた。
ちょっと準備良すぎるかな?試作品が出来たら、私の亜空間に欲しい。
「なるほど、そこにアイスを入れて置くのか」
「うん!いろんな味のアイスも増やしたいから、大きく作りたいな!」
「その前に、どうやってそのアイスを作り出したか聞きたい所だな」
「!あ…父様ずるい!誘導尋問!」
「まあ、美味しい食べ物の発祥の地が我が領なのは喜ばしい事だ。新しき神が生まれる事に比べたら些事だな」
「ううう…まだ決まってないもん」
そして、春の穏やかな日差しの中、兄様とフロルさんの結婚式が行われた。
教会でルルティア様に愛を誓い、シスター長から祝福を受ける。
「おーい、大丈夫か?ちびっ子」
ぼんやりしていた私に、上から声がかかる。
「何が?全然大丈夫だけど!」
兄様が幸せなら、私はそれでいいもん!
〈そこのあなた、我が主に随分なれなれしいですね〉
「は?…あんた、人間じゃないな?」
〈ほう、魔眼ですか。これはまた珍しい〉
「ちょっとオニキス!こいつは放っておいていいの!今は兄様のお祝いをしなきゃ!」
〈放って置く…ですか。主様のご友人ですね?〉
「え…?そっか、少しは変わったかな?俺にとっては恩人で、親友の妹さ」
「とりあえず偶然の恩人?」
「じ…事実だな」
〈私は主様の従魔で黒竜のオニキスと申します〉
「黒っ…そうか、アンタが噂の。私はヒューバート。王よりレオニダスの名を頂いた公爵だ」
あ、何か偉そう。公爵だから偉いんだけど、バートだからな。
「独立おめでとうございまーす」
「欠片も心が感じられないな…まあ私にとってもただの通過儀礼だからな」
「それで?次の人は決まったの?」
「…私の周りには二種類の女性しかいないな。魔眼を恐れるか、公爵夫人の座を欲するか」
「いいじゃん?看破気にしない人がいるなら」
「…ルーナが冷たい」
ああもう、本当に面倒くさい。
「なら結婚しなきゃいいでしょ」
「うーん…まあいいか。兄上二人がしっかり血筋を残してくれれば。ん、何かすっきりした」
そこで開き直るとか、それでいいのかと思うけど、人間不信の塊みたいな奴だからな。




