転生神とソース
ダンジョンで拾ったミスリルを含んだ小石は、最初に余計な部分を錬金術で分離したら、豆粒位の大きさになった。それを複製して、錬金術で結合させる。意外と魔力を使うので、毎日少しずつやって、インゴットになった時にはひと月経っていた。何の指にしたらいいか分からないけど、剣を握っても邪魔にならない小指用の指輪を作る事にした。炉などないので、魔力で代用してこねこねする。デザインはなんとなく神様っぽい羽根模様。散々お世話になっているし、可愛いかなと思ったから。うん。初めてにしては上出来。
『スキル 金属細工を習得しました。芸術に統合されます』
付与は、バートの指輪にも付いていた魔法威力増大と術式制御、魔力操作補助、サイズ自動調節
あれ?まだ付きそう。なら、結界を付けよう。魔力流すだけだから簡単に使えるし。あとは…魔法使いは後衛だけど、私は魔法だけに頼るつもりはないから、奇襲かけられたらいいかな?うん。気配隠匿も付けて、あとはクリーンかな。
(やだ、ちょっとルーナちゃん、あなた何作っているのよ)
(魔法の発動媒体だよ?)
(いいからちゃんと見てみなさいよ)
看破 神銀の指輪 ミスリルがルミナリアの魔力で変質した。 付与 魔法威力増大 術式制御 魔力操作補助 結界 気配隠匿 サイズ自動調節 鑑定阻害
(最近隠すの癖になっているからなー。やり過ぎたかな?)
(はあ…守護する方の身にもなってよ)
(そういえば、お散歩はもういいの?)
(そうだったわ。すぐに教会に行くわよ。呼ばれたのよ)
(早く言ってよ)
透明化したコハクに乗って、窓からひらりと飛び降りた。
怪我人もいたけど、気配隠匿のスキルで神様の像の前まで行く。
浮遊感のあと、目を開けたらいつもの6柱の神々の他に、この世界には不似合いなスーツ姿の男性がいた。
「ああ、良かった。久しぶりですね、舞月さん。ああいえ、ルミナリアさん。とはいえ、私の事は流石に覚えていないでしょうね。あなたは魂の状態でしたから」
ガルド様がどこからか取り出したハリセンで、男性を叩く。マシンガントークは止まったけど、神様も突っ込みするんだ。
「ヤマダ殿、少々落ち着かんか」
「そうでした。
自己紹介もせずに失礼しました。
私は山田太郎と申します。あ、本名ですよ?私は昔、日本人でしたので。今は転生神やってます。はい。
いやー、転生神の仕事は黙々と魂の選別作業をするだけなので、たまにこうして他の神に会うと嬉しくて、ついしゃべり過ぎてしまうんですよ。
あの世界、人の魂が半端なく多いじゃないですか?それなのに転生神の数が少ないので、界渡りをしてあちこちのそのまま流せない魂の処理をしているんですよ。
お陰で異界の神々とも仲良くなれますけど」
ぱこん、とハリセンが頭にヒットする。ずれた眼鏡を直して頭をかく。
「こりゃまた失礼しました」
「あの、転生神様、ありがとうございました」
「いえいえ。魂の記憶を読んだ時に、あなたの夢が、魔法使いになりたいとのことでしたので」
いやそれ、幼稚園の頃の夢だから。その年頃の子は大概見る夢だと思う。
「ま、それはそうなんですけどね?」
心の言葉は筒抜け。気をつけよう。
「そういえば、前のお母さんと弟はどうしてますか?」
「あなたが亡くなった事をニュースで知って、深く落ち込んでいましたね。あの時点で助けられていたらこうして異世界に来る事もなかったでしょうが。その後は残念ながら長生きはできませんでしたね。15年後に病死しました。弟さんは…今60過ぎですが、元気ですね」
「私が死んでから、五年って訳じゃないんですか?」
「時間の流れも違いますし、こっちに持って来る前に魂を強化したりしてたので。精神的な物は勿論、痛みにも長年耐えて、痛みで眠れない事もあったでしょう?病気に罹っても耐えるしか無かった。本人が意識せずともそれが魂を強くしたので、私からもこの世界で苦労しないように、加護を贈りました」
スキル習得難易度低下は、転生神様の加護なんだよね。記憶もそうなのかな?
「迷ったのですが、ステータスのある世界なので、多少なりとも覚えていないと不味いかなと。せっかくなので、あちらの世界の本で流行ってるメニューも付けてみました」
そっか。だからみんなにはメニューが見えなかったのか。
「面白そうなのでこちらの世界でも使えるようにするかどうか、検討中じゃ」
そしたらステータスボードはどうなるんだろう?
「その問題もあるんじゃよ。5歳でステータス登録するのは乳幼児の死亡率が高いせいもあるが、本来自分のための物なのに、他人にスキルがバレてしまうのは問題だから、自分で消す事も出来るようにもしたんじゃよ。」
「それにしても、まだ幼いうちに神格を得てしまうとは。こちらの世界に連れてきて良かったです。神になったら、転生神なんて如何です?余りお勧めはしませんが、作業は簡単、この世界だけなら昼寝付きで仕事出来ますよ?ガルド殿だって、6柱しか神がいないのは、色々と大変なのでは?」
「まあ、儂が今まで魂の方もやっておったから、専門にいてくれるなら有難いが」
「でしょう?今までは、破棄するしか無かった魂も、ゆるーいザルで流しておいてもすぐに溜まってしまう魂も、私を待つ事なく処理できますし」
「いや、ルミナリアは動物に好かれるから、そっちの神になって貰いたい。我だけで生き物全般を見るのは、負担なのだ」
「それ言うなら私だってそうよ。他人の恋路に友愛、親愛、思い、願いまで全部なのよ!それも人ばかりじゃないし」
「それなら私も言わせて貰いたい。魔法全般と言うがどれ程の数になるか分かっているのか?人気のある加護だから加護を願う人々も多い」
「それを言うなら俺も同じだ。武器の種類も多い上に系統の違う武器を編み出されたらそれも研究せねばならん」
「質問ー!実り多くするために天気までお願いされているんですけど、それって本来私の仕事じゃないですよね?」
「おやおや。いつの間にか不満をぶちまける会になってますね」
「全く、やれやれじゃな。ほっといてすまんの、ルミナリア」
「…いえ」
ちょっと驚いたけど。
「ふむ…聖女の称号を得たのか。もういっそ、神にならんか?」
「いえあの…お母さんを見つけないと」
「なら神気をコントロール出来るようにならんとな」
「え?」
「ふむ、気付かれそうじゃな。ではまたの」
「あら、ルーナ様、いらしたのですね。お願いしてよろしいですか?今日は多くて」
シスターが困った顔をする。
「聖女さま!実は古傷が痛んで」
「腰が痛くてたまらんのじゃ」
「聖女様!昨日から歯が痛くて」
ああもう、面倒くさい。エリアキュア!
「おお…あっという間に痛みが」
「順番が来ていないのに」
「ありがたや、ありがたや」
今回はちゃんと範囲を教会に絞ったので、魔力にも余裕がある。シスター達まですっきりした顔をしてるのは何故だろう?
今日の夕食は何かな?魔法使うと、お腹が空くんだよね。魔力自体は超速回復であっという間に回復しちゃうんだけど。
やった!とんかつだ!肉は魔物の肉だけど。
ただ残念ながら、この世界にはソースがない。ウスターソースとか中濃ソースとか、そういうの。
この間お好み焼きを作ったんだけど、マヨだけじゃ物足りなくて。作らなきゃ!美味しい食生活の為に!
レコードで調べて見たら、結構色々な野菜を使っていた。
「忙しい時にごめんなさい。お邪魔していいですか?」
「おう、何か手伝える事はあるかい?」
料理長が手を止めて来てくれる。他の料理人達は、うらやましそうにこちらをちらちらと見ている。
「じゃあ、野菜を刻むのを、手伝って下さい。私はフルーツの方をやるので」
調理場の隅に置いてあるルーナ専用の踏み台を、すかさず持って来てくれた人に礼を言い、ルーナ専用の小さな包丁で皮をむく。
材料が煮詰まる頃には、他の料理人達がスプーンを持って待っていた。
「今日みたいなお肉の揚げ物料理とか、この前作ったお好み焼きに合うソースです」
足りない材料もあったけど、ほぼ満足いく味に仕上がった。
「おお!こりゃ確かに合うな。まったりとしてコクがあって、トマトの酸味がいいアクセントになっている。で?これも?」
「はい、お父様には内緒で」
「そうか。残念だが約束だからな。折角だからこの前のお好み焼きも、ちと見栄えは悪いが、料理の一品として出してみるか」
「なら、その上にマヨネーズも少し散らして下さい。合うと思うので」
「分かったよ。もう夜も遅いから、早く寝るんだぞ」
「はーい」
「料理長ー!俺たちにも早く味見させて下さいよー!」
「ああ、少ししかねぇからケンカすんじゃねーぞ」
調理場は騒然となった。たくさんの野菜に果物まで使ったソースの出来栄えが、想像を絶していたから。
「はぁ。俺たちの天使ちゃんマジ最高っす。弟子入りして、その才能の一端でも手にしたいっす。伯爵令嬢じゃなきゃ立派な料理人になれたのに!」
「馬鹿な事言ってないですぐに研究だ!約束通り明日には最高のお好み焼きを出すんだ!」
言って、鍋の底にこびり付いていたソースをひと舐めする。この深い味わいは、他に例を見ないな。
「ああっ!料理長ずるいっす!」




