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番外編 バートの決意

ヒューバートのお話です。

 王都へと戻る馬車の中、俺はずっと考えていた。

 今までずっと、迷惑にならないように、両親の言うことには素直に従ってきた。そうしなきゃ忌み子の俺は、捨てられると思っていたから。

 だから、誘拐されて殺されそうになって、騎士達に助けられた時も、迷惑をかけてごめんなさいしか言えなかった。今後このような事がないように、騎士達に混じって剣の腕も鍛えた。

 クレイン侯爵令嬢ローゼリアと婚約したのは、俺が5歳になって、ステータスボードを貰ってからすぐの事だった。

 それまではロゼは、三つ年上の次兄、ディートリヒの婚約者だったけど、初等学校で同じクラスになったリリアナ伯爵令嬢と結婚すると言い出した。

 この国では重婚は認められているけど、養えなきゃいけないから、富裕層以上。だから当然、初めはリーナが第二夫人になると思っていたけど、ディー兄上はロゼと婚約破棄した。

 一番上のランドルフ兄上には、父上の弟で公爵令嬢のメルベリンと既に婚約していて、この国唯一の侯爵の娘が、自分に回ってきたのは仕方ないと思っていた。

 何故か王家には一途な人が多くて、相手は一人きり。何とか血筋はつないでいるが、公爵は父上の弟と、ディー兄上。

 侯爵はクレイン侯爵しかいない。しかもクレイン侯爵には男子がいない。まあ、跡継ぎがいても伯爵になるんだけど。

 余計な貴族を増やさないため、この国の貴族制度はシビアだ。それなりのポストにつかないと、跡継ぎといえど位を継げない。

 だから無条件で伯爵位を継げる領地持ちの辺境伯は、同じ伯爵でも微妙に位が高い。

 だから伯母のミーティアが辺境伯に降家したのも、ある意味妥当な結果だ。

 ローゼリアは俺の5歳年上で、最初の頃は忌み子の俺を、目の端にも写したくない程嫌っていた。いくら頑張っても、ディー兄上が自分に振り向いてくれないため、仕方なく今の位置で我慢しているのだろう。

 俺の事は嫌いなくせに、ディー兄上の時で懲りたのか、束縛だけはしてくる。

 そのくせ自分は色々な男と浮名を流していて、噂ではお気に入りのアクセサリーを変える感覚で、男を変えるらしい。

 流石に俺の両親にも噂は届いて、注意を受けたけど、隠すのが上手くなっただけだった。

 ロゼの父親はというと、娘と似たり寄ったりな感じで、二人の正妻の他に愛妾が何人もいるとか。もう50近いはずだけど、まだ跡継ぎに拘っているのか。

 今までまともに親子らしい会話はしてこなかったから、話し合うのは正直怖い。

 だけど、もし少しでも大切に思ってくれているなら、意思を聞いてもらおう。

 気持ち悪いと思われている人と結婚するのは嫌だ。未だにそう思われているのを、俺は知っているから。


 七年来の親友と、そのちっちゃな妹は、俺を色眼鏡なしで見てくれる。魔眼の意味を分かっていないのかもしれないけど…アレックスは本当に分かっていないだろうけど。

 あのチートな妹は、理解出来ているはずだ。いくら多重加護持ちでも、年齢考えたら明らかにおかしい能力の高さ。まあ、嫌われてるけど。

 最初の鑑定もだけど、情けない所ばかり見せた気がする。いつもならもっと上手く取り繕うのに、アルの妹だし、素でもいいやって思った。


「父上、母上、お話があります」

「…。話を聞こう」

 二人を目の前にして、いつもは逸らす目を、今は見つめる。

「ローゼリア嬢との婚約を、破棄させて頂きたいのです」

「何故、今になって?相手はもう二十歳だ。婚期を逃してしまっている。それとも大切な者が出来たのか?」

「いいえ。私の至らなさが招いた結果です。けれど、例え一生結婚出来なかったとしても、私は、私を蔑む相手とは結婚したくありません」

「婚約を解消したとして、それからどうする?ローゼリアと結婚すれば、次期財務大臣としてクレイン侯爵もお前を現場で育ててくれるだろう。そうできなくなった時、どうする?」

「平からで構いません。どの職についても精一杯努力します。もしどうしても使えない、使いものにならないと言うなら、爵位を捨てて冒険者にでもなりましょう。忌み子がいなくなれば、王家に文句を言う者も減るかもしれません」

「ヒューバート!」

「シェイラ、…。いつ、我々がお前を忌み子だと言った?お前は馬鹿だ。自分しか見えていない。口さがない者達が多いのも事実だが、実際にそれで失う危険さえあったが、少なくとも我々家族は誰も、お前を忌み嫌ってなどいない。もう一度言う。お前は馬鹿だ。ローゼリア嬢と婚約させたのも、お前の地位を確実にしておきたかったからだ。だが、ローゼリア嬢があのような者で、お前がどちらを選ぶのか見たかった。心の平穏か、地位か。お前の事だ、今までは、ただ流されてきたのだろうが」

「…仰る通りです。全てから逃げ出したい気持ちは今でもあります」

「本当に馬鹿だな。その眼だけがお前の全てなのか?ログウェル様の祝福も受けていると言うのに、それはお前の自信に繋がらなかったのか?学校の成績は悪くなかったのに、考える事を放棄してきた結果だな」

「でもあなた、ぎりぎりでも間に合いましたわ。流石に結婚してからでは不味いですもの」

「お許し頂けるのですか?」

「ええ。あなた自身で決断するのを待っていたのよ。でも遅くてもいいから、結婚はして頂戴?可愛いお嫁さんと、孫の顔を見せてね?」

「職に関しては、暫くディートリヒの下につけて、様子を見る。次期宰相の下働きになるが、国の仕事の内容が分かるし、そこからやりたい事を見つけるのもいいだろう。それと、もう大人なんだから婚約破棄は自分で進めなさい。許可はするし、人手を頼るのもいいが、自分で判断して責任を持ってやりなさい」

「はい」

 まるで憑きものが落ちた表情を浮かべる息子を、親として嬉しく思った。



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