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失恋

 本当はもう一カ所町を廻るはずだったけど、私の大事を取ってゆっくりと帰還する事になった。

 大丈夫だと言ったけど、魔力枯渇すると、今は持ち直しても、後で熱が出ることもあるし、体温が逆に急に下がる事もあるからと言われて、何か少しでも体の調子が悪くなったら言うように言われた。

 過保護に感じたけど、兄様が思い切り甘やかしてくれたので、そこは嬉しかった。

 帰り旅の間は、私は一切魔法を使わせて貰えなかった。せめて料理に使うハーブの採取はやらせてもらいたいと頼んだら、兄様がお子様抱っこで連れて行ってくれた。


 やっとボルドーの街に帰って来たら、姉様と、姉様よりちょっと大人っぽい雰囲気の、綺麗な女の人がいた。

「来てたのかい?フロル。もうお祖母様は大丈夫?」

「ええ。用事があるとお手紙を頂いたけど、学校にアル様が戻られる前に、お会いしたくて」

「紹介しよう。新しい妹の、ルミナリアと、その兄のアレックスだ。こちらは私の婚約者のフローリア クルムロフだ」

 なんだろう…。胸が、苦しい。

「初めまして。聞いていた通りの可愛い子ね。あなたの良いお姉さんになれたらいいわね。フロルと呼んで頂戴、ルーナちゃん。ボルドーの英雄の息子さんに会えて光栄よ、アレックス君」

「ルーナ?」

「は…初めまして」

「おいルーナ?熱がでたか?」

 私に触らないでよ!思わず結界で弾いた。

「ルーナ?辛いなら、ベットに行きなさい。すぐに医師を呼ぶから」

 ルーナは、何も言わずに屋敷に入った。

「本当にどうしてしまったんだろう?ここ1週間大丈夫だったから、安心していたんだけど」

「疲れているんじゃないかしら?まだ小さいんだもの」

「そうだね」

「お前ってさ、たまに無自覚に罪作りだよな」

「は?」

「あら、ごめんなさい、ヒューバート様。お久しぶりです」

「ああ、悪かったな。クルムロフ伯爵令嬢。君のアルを連れ廻して」

「いえ、理由はボルドー伯爵に伺っておりますので」

(鈍いオトコは嫌ねぇ)

(でもさ、人間は兄妹だと番になれないって聞いたよ?)

(ボクちゃんは、まだ子供だから分からないのよ。ここは女同士、ワタシがルーナちゃんの側にいるから、ボクちゃん達は、お外で遊んでらっしゃい)

 ぴしり、と尻尾を振って、ルーナを追った。


 部屋に入ると、ルーナはベットに突っ伏して、泣いていた。

(ねーね、るーが泣いてるのー)

(ヒスイちゃんはにーにと遊んでらっしゃい)

(んー。分かったのー)

 窓からヒスイが飛び立つと、コハクはベットにひらりと飛び乗った。

(ルーナちゃんは、お兄様が大好き過ぎちゃったのね)

(大好きだけど、良く分からないの。フロルさんはいい人なのに、嫌なの。びっくりして私…だめな妹になっちゃったのかな?)

(ルーナちゃんは、いい子よ。そしていいオンナになるわ。アタシが保証する)

(だめなの。幸せそうな兄様を見たくないの。フロルさんは兄様の大切な人なのに、嫌いになっちゃう。どうして?)

(それは嫉妬よ。大好きなお兄様を、とられるのが嫌なのね?)

(嫉妬…なのかな?分からない)

(恋はオンナを綺麗にしてくれるのよ?お兄様みたいないいオトコはなかなかいないと思うけど、ルーナちゃんなりの好みのオトコを見つけてみなさい?応援するから)

 好きって、もっと違うものだと思ってた。兄様として好きなのか、それともちょっとでも違う好きが兄様にあったのか、分からない。

 でもこれだけは分かる。兄様は妹として私を可愛いがってくれてるだけなんだって。


 夕方、出かけていたメアリー姉様が会いに来てくれた。

「旅は、楽しかった?」

 赤くなっている目元には敢えて触れずにいてくれるようだ。ずっと頭を撫でてくれる。

「うん…お母さんは、見つけられなかったけど、海とかダンジョンとか、楽しかった」

「そう。新しい猫ちゃんも増えて、良かったわね」

「うん…姉様は、婚約者の人は大好きですか?」

「そうね。たまに喧嘩もするけど、大好きよ」

「なら…良かった」

 姉様には、素直に祝福出来るんだよな…。駄目だよね。兄様の事もちゃんと祝福出来ないと。

「姉様…私、大丈夫だよ?」

 ていうか、何で分かっちゃうの?

「ええ。ありがとう」


 月に一度のお父さんからの報告では、隣国の街で、闇組織を一つ潰したらしい。さすがに英雄って称号を持つだけあるんだな。  

 私は、地道に冒険者活動を再開した。兄様とフロルさんの中睦まじい姿を見るのはまだ少しだけ辛かったけど、大丈夫。ダンジョンがきっかけで冒険者登録したバートが、護衛と称して参加してくる。うん。暇なんだと思う。

 地道な努力で、私はFランクに、お兄ちゃんはGランクに上がった。


 聖女の意味が分かった。ワイバーンにやられたたくさんの人を、治したから。

 そして町長と会っていた兄様が私を連れ出した事から、ボルドー伯爵の娘だと知れたようだ。

 教会からも請われて父様も断り切れず、キュアまでは許可してもらった。

 元々教会は、ただ同然で怪我人を救助している。心付けで募金箱が置いてあるけど、貧乏な人は払わなくても大丈夫なのだ。

 ただし、病気はヒールでは治らないから、医師がいる。でも聖魔法のキュアならば、軽い状態異常も治せる。

 私があの時エリアキュアを使ったのも、火傷はヒールでは治らないから。

 聖女様なんて呼ばれるのは気恥ずかしいけど、今はモモにも協力して貰っている。

 勉強と、冒険者活動中はモモの出番だ。モモを一人にしても大丈夫になったのは、獸魔召喚のスキルを例によって考えただけで習得出来たから。

 念話こそ出来ないけど、考えてる事が分かるんだから、攫われそうになったら離れていても、呼べば私の側に戻ってくる。

 魔力がそれ程多くないので、モモの魔力枯渇を防ぐ事も出来るだろう。

 もうすぐ夏休みも終わる。兄様達は学校に戻ってしまう。

 フロルさんは学生じゃないけど、兄様が卒業したら結婚するって言ってたから、来年になったら家族が増えるだろう。

 バートとはこれきりだろうな。結婚は嫌がっていたからどうなるか分からないけど、卒業したら公爵として独立するんだろうし。

 男の人は、成人したら跡継ぎ以外は、独立しなきゃいけない。

 女の人は、相手が成人していれば、子供でも嫁ぐことになる。だからもし、姉様が高等学校に受からなければ、現在高等学校二年の婚約者と、一年後には結婚することになっている。

 前世からするとびっくりな話だけど、この世界の平均寿命は短い。魔物がいる世界で、医師がいると言ってもそこまで医療が発達している訳じゃない。人生60年、戦国時代みたいだ。

 

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