聖女になっちゃった?
ダンジョンから出ようと思ったけど、逆にたくさんの人が入り口に押し寄せて来た。
押し流されそうになる私を片手で抱え、そのまま肩に乗せられた。兄様かと思ったけど、バートだった。もう片方の手で、しっかりとお兄ちゃんを支えている。
「ルーナ、フードは掴まないでくれ」
私は慌ててバートのフードを下げて、不安定な体を支える為に首に腕を廻す。
周囲の人達の話を聞いていたら、騒ぎの原因が分かった。
昨日私達がダンジョンに潜っていた時に、つがいのワイバーンが山に降りるのが目撃されたらしい。普通だったら大規模な討伐隊が組まれる所を、どこかの無謀な冒険者が少数で山に登り、討伐しようとしたが、逆に怒らせてしまった。
俺達が倒してやる、と息巻いていたのを、同じ酒場にいた人達が目撃していた。
「この状況を、アイツが座視しているはずもないから、状況を確認に行ったんだろう」
「バート、家がたくさん燃えてるよ?」
振り返れば、倒してもリポップしてくるソルジャーラビットに、一般人がやられている。
(ルーナちゃんはここで待ってて、アタシがあのトカゲ野郎を倒してあげるわ)
「降ろして」
「ダメだ。アルは必ず戻ってくる。待つんだ」
「ならせめて、怪我人の治療だけさせて」
(ヒスイ、魔物を縛って)
(るーは、大人しくしてるのー)
(大丈夫。危ない事はしないから)
隙を狙ってバートから飛び降り、怪我人にヒール、ハイヒールを掛けて回る。レベルアップコールが来たことで、ワイバーンが倒されたと知る。
(ヒスイはバートとお兄ちゃんをお願い。サファイアは一緒に来て!)
人々の足の間をすり抜けてダンジョンを出たら、ワイバーンが目の前を通り過ぎた。
落としてやる!
加重を思い切りかけたワイバーンが、地面に落ちる。そのまま加重をかけたら、ワイバーンが逝った。
サファイアに水魔法で火を消すのをお願いして、魔力感知を使う。兄様の魔力を見つけて、そのまま走る。
兄様!無事でいて!頭の中でコールが流れるけど、無視して走った。町長の屋敷の手前にある教会には、怪我人が溢れていた。兄様も心配だけど、重傷を負った人を前にすると、そのまま走り抜けるなんて出来なかった。
エリアハイヒール!エリアキュア!
ルーナを中心として、光が広がる。光が怪我人に触れると、瞬く間に傷が塞がる。
「おお…!奇跡だ!」
「聖女様だ!」
「聖女様がいるぞ!」
砂に水が染み込むように魔力が流れていく。あれ…これどうやって止めたらいいのかな…。
ルーナの望むままに、光が広がっていく。
(ダメよ!ルーナちゃん!)
コハクの声が遠い。
「ルーナ!」
大好きな兄様に抱き上げられて、ルーナは意識を手放した。
そこから先は、覚えていない。小さく切られたチートなリンゴが、少しずつ口に押しこまれて、甘い汁が体に吸収されていく。
「コハク?これでいいのかな?」
暖かい…兄様に抱っこされているんだ。
「コハクは私の言葉が分かるんだね。もうルーナは大丈夫?…そうか。ありがとう」
「にゃーん」
「お礼を言っているのかな?はは、撫でろって?可愛いな」
「にゃ!」
「え?何?…ああ、リンゴね。うん。ちゃんと口の中からなくなっているね」
再び、リンゴの欠片がそっと押し込まれる。
「小さいし、種もない。ちょっと変わったリンゴだけど、リンゴは栄養があるからね」
「バート達は無事かな。上手く町の外へ出られれば良いけど」
口の中を見て、なくなっている事を確認した兄様が、またリンゴを少しずつ入れてくる。
「甘い…ここまで甘いリンゴも、初めて見たな」
指についた汁を舐めて、驚いている。
「にゃー!」
馬車の扉を器用に開けて、コハクが出ていく。
ミーシャと一緒にアレックスと手をつなぎ、戻ってくる姿が見えた時は、安堵して、少し笑ってしまった。頭の上に、小鳥が止まっていた。ヒスイだ。足元にサファイアの姿も見える。追いついたコハクとじゃれ合っている。
「くたばってなかったか」
「お前もな。…町の聖女様騒ぎって…」
「お察しの通り魔力切れを起こしている。本当はちゃんと寝かせてあげたいんだけどな」
馬車に乗り込んで、最後の欠片を口に入れる。
「うん?なんだそれ」
「ヒスイがルーナに食べさせてくれって、どこからから小さなリンゴを持って来たんだよ。主人第一の獸魔が害になるものを渡すはずないから、食べさせた」
「おい…せめて私の帰りを待てばよかったのに」
「大丈夫だ。お陰で随分顔色が良くなったんだ」
「へえ?…うわ甘!」
皿に残った汁を指で舐めたバートが驚く。
「行儀悪いぞ、バート。アレックス、だめな大人の真似をしたら駄目だぞ?」
「ルーナ、大丈夫?」
「体温も戻ったし、頬に赤みもさしている。心配ないよ」
馬車は暫く進んでやっと止まった。小さな林の陰になるようにテントを張る。
翌朝早くにルーナは目を覚ました。口の中が甘ったるい。やけに暖かかったなと思ったら、獸魔と兄弟に囲まれていたらしい。
(ルーナちゃん、大丈夫?)
(コハク…何があったの?)
(魔力枯渇で倒れたのよ。もう、大変だったんだから。でも無事で良かったわ)
(ねえコハク…もしかして私、あのリンゴ食べた?)
(教会で神に頂いたのよ。神々もあせっていたわ。小さいうちの魔力枯渇は命を落とす危険もあるのよ。
なのにルーナちゃんてば、町の怪我人全員を治すなんて無謀極まりないことをして!ワタシ達がどれだけ心配したと思ってるのよ!あなたのお兄様だって、冷静じゃいられなかったんだから。
猫のお姉さんに馬車まで連れて行かれて、とりあえず町外れまで行ってからワタシも神の実を持って行ったのよ。お兄様はいいオトコね。ワタシの言いたい事ちゃんと理解してくれたわ)
(ありがとう、コハク)
(大丈夫だと思うけど、一応調べてみたら?)
(ん。ステータスオープン)
ルミナリア ボルドー(5)
神人 伯爵家養女
レベル 59 HP 4611 MP 13873
力 3007 精神 10001 敏捷 2961
幸運 712
特殊スキル
経験値獲得10倍 アイテムボックスEX スキル習得難易度低下EX レコード 神速自動回復
創造魔法EX 経験値シェアMAX 従属EX
鬼神化 祝福 守護 言語習得率向上 精霊視
アクティブスキル
属性魔法 暗黒魔法 聖魔法 結界魔法 付与魔法 補助魔法 時空魔法 精密魔力操作 身体強化 複製 投擲 看破 錬金術 解体 忍び足 索敵
パッシブスキル
状態異常無効 苦痛無効 記憶力向上 算術
家事 直感 命中 テイム 念話 魔眼
マップ 隠匿 気配隠蔽 回避 瞬脚 芸術
並列思考 短剣 双剣 棒術 体術
サファイアの主 ヒスイの主 モモの主
コハクの主
主神ガルドの加護 愛の女神ルルティアの加護
魔法神ログウェルの加護 獸神ハザードの加護
戦神ゴードンの加護 豊穣神レレイの加護
転生神の加護
神使の虎の守護
神獸フェンリルの祝福 世界樹の精霊の祝福
称号 転生者 神に愛されし者 神に至る者
聖女
…見なかった事にしようかな…
他のみんなはスキルは変わらず、レベルが上がった。
コハクが313、サファイアが81、ヒスイが47、モモが58になった。
聖女が意味不明だったので、ボードを見ていたら、信仰を受ける者と出た。何の事かな?




