付与魔法 そしてダンジョンの町へ
次に行くモルドの町は、北西の方向に向かって二日程かかる。鉱山とダンジョンの町で、冒険者が多数集まる活気ある町らしい。目指す方向に高い山が見えてきた。
明日には着くだろうと話して、馬車を降りる。
「ウインドアロー」
バートの声に振り返ると、その先で、ホーンラビットが倒れていた。
「ここはカッターでしょ。毛皮がぼろぼろ」
「生憎と、私にはおチビちゃん程の精神力はないからね。全く、発動媒体を使わずに、よくあれだけポンポンと魔法を使えるのかと感心しているんだが」
「杖?バートだって使ってないよね?」
「魔法戦士系は、杖持てないだろ?私はこれだ。発動媒体は杖ばかりとは限らないんだぜ?」
指輪を外して見せてくれた。
看破 ミスリルの指輪 付与 魔法威力増大 術式制御 魔力操作補助 サイズ自動調整
「へえ。ちょっと貸して」
指輪をはめて、魔力操作してみる。
「成る程。適切な魔力量で、発動も早くなるんだね」
「普通は五歳では必要ないだろうけど、ルーナは大人顔負けの冒険者だからな」
うん。ちょっといいことを聞いた。折角鉱山の町に行くんだし、自分で作るのもいいかも。
付与といえば、鉄棒と双剣にもやらなきゃ。棒は…打撃強化と、魔法補助。魔法補助は、お父さんの大剣にも付いていた付与で、スキルの火炎纏を補助してくれるのだと思う。私の場合は、重量軽減や、慣性制御を補助してくれたら楽だろうなと思って付けてみた。
双剣は、さすがアダマンタイト製だからか、付与の容量が大きい。
斬撃強化と自動修復。打撃強化と魔法補助、クリーンを付けた。自動修復は、刃こぼれしても、魔力で回復してくれる。
お兄ちゃんの剣は普通の鉄製なので、斬撃強化しか付けられなかった。付与を付けたのを気がついているかどうかは分からないけど。
兄様の槍には刺突強化の付与が付いていた。少し迷ったけど、魔鉄製なので、あと一つしか付与が付けられなかったから、こっそり自動修復を付けた。
皮のベストには、自動温度調節とクリーンを、ブーツにも同じ付与を付けた。サイズ自動調整は、予め大きく作られていないと意味がない。本当は防御力増大も付けたかったけど、容量的に無理だった。
「ルーナって本当に器用だよな」
「え?」
「あれか、付与魔法って奴?それって職人の魔法だろう?」
「ふうん。本当にいい目をしているね」
嫌味を言ったら、落ち込んでしまった。
「ごめんなさい。言い過ぎた。生まれつきだからどうしようもない事なのに」
「まあ、悪い事ばかりでもないさ。この目のお陰で状態異常耐性がついた。光魔法と闇魔法も上手くなったし、まあ、暗黒魔法まで覚えた時は我ながら引いたけど」
闇魔法の上位スキルかな?
「普通、耐性付く前に死ぬと思うけど」
「これのお陰かな?」
ネックレスを外して見せてくれる。
看破 ミスリルのネックレス 付与 守護
これ、相当凄い品だと思う。少なくとも今の私じゃ、この付与は付けられない。ミスリルで出来ているのに、他の付与を付ける容量がない。
「バート、これって国宝級の品なんじゃ?」
「どうかな。忌み子とはいえ暗殺されたら外聞が悪いからじゃないかな」
「馬鹿じゃないの?本当に要らない子に、こんなの渡すはずないじゃない!」
「え…」
「大切にされてるの分からなくて勝手にいじけてるなんて、子供以下の馬鹿!」
イライラして、その場を離れた。
「変な勘違いされたら嫌だから今まで黙ってきたけど、私が初等学校から王都の学校に行って、お前とつるんでたのは、頼まれたからだ。その意味は分かるだろう?自分ばかりが不幸だと思うなよ?ルーナにまで気を遣わせて、それでも分からないようなら本気で友達の縁を切るからな」
アルフォンスの言葉が、ルミナリアの泣きそうな顔が、心にずっしりときた。
「なんだよ…俺、生まれちゃいけない子だったんじゃないのか?魔眼を持つ忌み子で、王家の名を貶める厄介者なのに…なんで」
やっとモルドの町に着いた。ギルドで素材を売って、町長に挨拶に行く。
泊めてくれるという申し出をやんわりと断り、高そうな宿に部屋を取った。バートはずっとフードを目深に被っている。別に落ち込んでいるとかそういう訳じゃないのは、町長に挨拶もしなかったし、奴隷の調査にも係わらないようにしてたから何か別の理由があるのだろう。
兄様に聞いたら、ここはレダノン伯爵領ではないからと言われた。
ゆっくりとお風呂に入って、サファイアとコハクをブラッシングしていたら、兄様に呼ばれた。そのまま兄様達の部屋に行ったら、ミーシャさんがカーディガンを掛けてくれた。
「まだ難しいかもしれないけど、そろそろレディーのたしなみを覚えた方がいいね」
「?」
「羞恥心を持てって事だよ。五歳のお子様には理解出来ないかもしれないけどさ」
「…アンタにだけは言われたくないんだけど」
「いや、言葉は同じだけど私のとは意味が違うからな?」
「判るもん!変態さんがいるから気をつけまーす!」
「おい!私に幼女趣味はないからな!」
「それで、だな。本当ならこの町は通り過ぎるだけの予定だったが、アレックスがダンジョンに挑戦したいと言っている。レベルアップも図れるし、それも悪くないと思った」
「ダンジョンだと、何が違うの?」
「ダンジョン内では誰が止めをさそうが、同一パーティー内では経験が、均一に入る。レベルの低いアレックスは勿論だが、ロリコン変態のレベルも上げておければいいと思った」
「おい!」
そういえばお兄ちゃんのレベルって、いくつなのかな?
看破 アレックス ボルトス レベル 7
スキル 水魔法 身体強化 忍び足 回避
片手剣
え?…うわ。無意識に看破使っちゃったよ。奴の事言えないじゃん。スキルまで見えたのは、精神力の差と、看破のスキルが強いからかな。お兄ちゃん、ごめんなさい。
「ルーナもそれでいいかな?」
「あっ…うん。私もダンジョン興味あるし。兄様はレベル高いんですか?」
「どうかな…20台後半は行ってると思うけど、暫くステータスボード取っていないからな」
「え?ステータスオープンでいいと思うんだけど?それにコール数を数えておけば」
「うん?ステータスオープンって何だい?コールって?」
「え…えっ?」
「ルーナ?」
「私にも良く分からないけど、ステータスが見えるの。…嘘じゃないよ?」
「聞いた事もない話だけど、私は信じるよ。ルーナは私の大切な妹だから」
「良く分かんないけど、僕も!色々負けてても、僕はルーナのお兄ちゃんだから!」
「バート」
「言っても誰も信じないだろ。魔眼のせいにされても厄介だし…ていうか、私が可愛いルーナを売るような真似、すると思ったか?」
「嫁にはやらんぞ?」
「そういう意味じゃない!」
「ミーシャも他言無用で。今の所父上にも」
「分かりました」
これって常識じゃ無かったの?加護の力か、神様がこの世界に馴染めるようにしたせい?
翌日、全員一緒にダンジョンに入った。パーティーの条件は、一緒にダンジョンに入る事らしい。




