旅の始まりとお買い物
旅に出る事を聞いて、屋敷のみんなに引き留められてしまった。リカバリーを使えるモモが居なくなるのが辛いのだろう。
(モモ大人気だね)
(違うー。るーなの)
(僕もそう思うな)
(聖魔法使えるのはモモだけだと思っているんだよ)
(るーはかわいーの)
(みんな可愛いよ?サファイアは手触り最高だし、ヒスイはちっちゃくて可愛い。モモもぷにぷにだし。お屋敷の皆さん癒しを連れて行っちゃってごめんなさい)
ふかふかお布団ともしばらくはお別れかぁ。宿屋に泊まった時に使えそうだから、複製しておこう。布団セットで200。初めての頃と比べると、使用魔力が随分減った。
次の日の朝。起きた時には、お父さんは居なかった。先に出たようだ。まあ、ギルドを通して定期的に手紙をくれるって言ってたし、実はこっそり付与魔法を付けておいた。
お父さんがいつも付けているチェーンネックレスに、微弱な魔力を定期的に発するようにしてある。大丈夫だとは思うけど、もう後悔したくなかったから。お母さんにこの付与魔法を使えていたらと思うけど、今言っても仕方ない。
私達も早く出たかったけど、お兄ちゃんがなかなか起きて来なかった。どうやら夕べ、よく眠れなかったらしい。これがアイツなら、置いてくのに、朝から無駄に元気だ。
馬車が街道から外れると、衝撃の度に体が跳ねる。隣に座っていたアル兄様が、抱っこしてくれた。
「兄様、この道は」
どことなく見覚えのある森を横手に、迂回するように走る。
「何度も調べたけど、見落としがあっても困るからね。それに一度は立ち寄っているはずだから」
馬車から降りて、途中で仕留めたホーンラビットの肉を焼く。ルーナは、ミーシャに解体からしっかり教わっている。スキルは持っていても、慣れてないから手際が悪い。お兄ちゃんも、最初は見ていたけど、飽きて兄様の槍を相手に剣の訓練を始めてしまった。
ヒスイは森が嬉しいのか、遊びに行ってしまった。
「クルーバードだっけ?あの小鳥。緑もいるんだな」
「魔物の色違いは、普通にある事だよ。モモもピンクだしね」
「ていうかそのスライム、形が少し変だよな?」
「いいじゃん別に。可愛いんだから。見えないから気になるの?手癖の悪い人がいるから、対策とっているんだよ」
レベルは私の方が上だった。加護を貰っているから、精神も私の方が高いのに、名前だけとはいえ、覗かれたのだ。気は抜けない。加護も無さそうなのに。
「獣魔まで秘密?意地悪だな」
「ていうかその、なんでもかんでも鑑定する癖、直してよ」
「ルーナは気にならない?」
「ならない。魔物の素材はチェックするけど」
「は?逆に何でそんなの気になるの?」
「冒険者としては必須でしょ」
「今は伯爵令嬢だろ?」
「身分とかどうでもいい。私の為って言うからそうしたけど、冒険者として生きていくし」
ていうか邪魔。サファイアをもふって楽しんでいたのに。
ヒスイが戻って来た。
(るー、増やしてなのー)
白いりんごの実?ピンポン球サイズでやけに小さいけど。
手のひらに落とされたそれを、言われたとおり複製したら、1000も魔力を持っていかれた。すぐに複製した物をアイテムボックスにしまって、鑑定する。
鑑定 世界樹の実 万能薬 栄養満点で、死んでも生きかえる。
興味深く覗き込んでくる奴の視線から隠す為に、さっさと食べてしまう。
とろっと甘くて、中には種がない。即座に魔力が回復した。
(ありがとうヒスイ、緊急用に隙を見て複製しておくね)
「やけに小さいりんごの実だったな」
「ヒスイが小さいんだから、大きいの持って来られなくて当然でしょ」
「そろそろ出発しましょう」
タイミング良くミーシャさんが呼びに来てくれた。
夜になる前に何とか着いたのは、メリダの町。ドワーフ達が多く住む、工業の町だ。
「今日はもう遅いから、ゆっくり休んで」
チートなリンゴのお陰か、疲れてはいない。宿の部屋に入ってから、お母さんの魔力を思い出して魔力感知を使ってみる。
やっぱり、そう簡単には見つからないよね。
次の日は、兄様は奴を連れて町の入出管理記録を調べるらしい。
他領主の町だから、父様の委任状がなければ普通は調べられないけど、そこは第三王子の権力を利用するのだろう。
当然、今までも何度も調べただろうけど、見落としがないか調べるのか、兄様に別の考えがあるのかもしれない。
役に立てない私とお兄ちゃんは、魔道具屋に来ていた。
熱天板…おお!これはホットプレートだね。それと、魔力で高速回転するコマを見つけた。お兄ちゃんも、欲しそうに眺めている。値段は大銀貨一枚。
「気に入ったか?」
「面白そうだけど、おもちゃにしては高くないですか?」
「一応魔道具だからな。お嬢ちゃん可愛いから、銀貨40枚にしてやるよ。どうだ?」
「んー、銀貨10枚なら買ってもいいかな?」
「おいおい、開発にはそれなりに時間かかってるし、中の魔石も、いいもの使ってるんだ。銀貨30枚」
「飽きたら終わりのおもちゃにそんな大金払えない。銀貨20枚」
「くっ…ちっちゃいのに交渉上手だな。銀貨25枚。これが限度だ」
「ん、それで買うよ。おじさんありがとう」
「毎度あり!」
多分だけど、この魔道具を使えばもっといい物が作れると思うんだよね。
「ルーナ、後で僕にも貸して?」
「うん、後でね」
次に寄ったのが、お兄ちゃんのリクエストで武器屋。男の子ってこういうの好きだよね。
ふと、ホコリを被った二振りの短剣を見つけた。
鑑定 アダマンタイトの短剣
なんの付与も付いていないけど、素材がいいから付けられるだろう。
試しに手に取って、ライトの魔法を使ってみる。綺麗に光るけど、アダマンタイトだからか、一本でもかなり重い。
軽さならミスリル、切れ味ならオリハルコンだけど、片刃の短剣は、持ち手を覆うようにナックルガードが付いている。
ツノウシの短剣は、予備はあるけど最近刃の部分が欠けてきた。これなら形も似てるし、同じように使えそうだし、持ち手はガードだけじゃなくて、殴っても使えそう。
「気に入ったかい?けど、嬢ちゃんには重いかもな。双剣として作ったものだから、出来ればセットで買ってくれ。二本で金貨5枚でどうだ?」
「振ってみていいですか?」
「店の裏手に共同の広場があるぞ」
長さが、今の私にはちょっと長い。ツノウシの短剣が肘位の長さだから、10センチ位長い。試しに振ってみると、重さで体が引っ張られる。
『重力魔法 慣性制御を覚えました』
確かにこの魔法があれば使えるけど、ギルドカードのお金を使っても足りないし、今の私には少し大きいし、どうしようかな?
「どうだい?買ってくれるか?」
「今の私には大きいので迷ってます。あと、お金が足りません。2年位待ってくれますか?」
「いや…確かに売れ残りだが、アダマンタイトだからな」
「でも、この大きさなら女性用だし、だったらミスリルの方が売れるんじゃないですか?」
「あー。ちっちゃいのに良く分かっているじゃねえか。でもそれなら長く使えるぜ?先行投資ってことで金貨4枚で」
「金貨3枚しかないです」
「おい、材料代にしかならないぞ?」
「でも何の付与も付いてないし、ホコリ被ってるよりいいんじゃないですか?金貨3枚と大銀貨1枚で」
「鑑定持ちか。いいぜ。確かに言うとおりだし、お嬢ちゃん可愛いから、サービスだ」
「おじさん、ありがとう」
ギルドカードで支払って、にっこり笑ったら、ちょっと照れていた。
「お兄ちゃん、ギルド行ってきていい?」
「いいけど、仕事は出来ないよ?」
「前に倒したフォレストバイパーの皮を売りに行きたいの」
「あれ?あの時全部売ってなかった?」
「倒した後、お兄ちゃんがぼーっとしている間に、皮を剥いでいたんだよ。お金使い過ぎちゃったから、売ってこようかと思って」
「ここで待っているよ」
よし、なら魔石も売ってもばれないね。
魔石が銀貨25枚と、皮一枚が銀貨45枚になった。若干高いのは、需要と供給の関係だろうか?これでカード残高が大銀貨1枚になった。懐具合が寂しいけど、いい物が手に入ったから、私的には満足。




