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最強勇者が生まれ変わり今世も最強だが何よりも家族との時間が大切なので落ちこぼれのフリをしています

作者: どじょっち

息抜きで書きました。楽な気持ちで見てください。

「これで……俺も終わりか」

 

 俺は血まみれのまま地面に横たわっていた。目の前には動かなくなった魔王の死体がある。

 勇者である俺は一人で魔王に戦いを挑み、数日にも及ぶ戦いの末勝利した。

 だが勝利の間際、魔王の呪いを受けてしまい動けなくなってしまったのだ。もう長くはもたないだろう。 

 今思えば、ただ戦い続けた人生だった。勇者として選ばれ魔族達と戦うだけの日々を過ごし、家族を顧みることもできず、愛する者さえ見つけられなかった。

 父上、母上、親不孝な息子をお許しください。


「――もし生まれ変われたら、今度は家族と平和に暮らしたいな……」

 

 その言葉を最後に、俺は意識を失った。


 ――――――

 ――――

 ――


  

「おはようございます父上、母上。愛しています」

「おはようアレックス。その挨拶はやめてくれ。恥ずかしいぞ」

「優しい子なのよ、仕方ないわ」


 目覚めた俺は顔を洗いに洗面所へ向かい、鏡を見る。そこにはもう見慣れた黒髪の子供の顔があった。

洗顔を終えると、すぐに両親近くの椅子に座る。

 髭を整えた男らしい父上に、童顔のかわいらしい母上。二人とも大好きだから、なるべく離れたくない。

俺は甘えるように母上に体を寄せた。


「ふふふ、アレックスは甘えん坊さんね」


 母上に撫でられ、うれしさの余り笑みがこぼれる。父上が嫉妬するようにこちらを見ていたが、気づかなかったことにしよう。


 あの後、俺は生まれ変わった。元いた世界とよく似ているが、勇者だった俺の名前も残っていないし、剣と魔法が支配する別世界なのだろう。

 今世での俺の名はアレックス。十歳で両親と妹との四人暮らしだ。

 生まれ変わったと気づいた時には半狂乱したものだ。家族と生活する。そんな夢に見たようなことができるのだから。

 前世の家族への愛も当然残っている。だからこそ、今の家族を前世以上に愛したいと思えた。

 少し落ち着いてからはなるべく自嘲しているが、あふれ出る愛が自然に言葉として漏れてしまっているのは仕方ないことだな、うん。


「うぅん」


 二歳年下の愛しい妹アイが目をこすりながら部屋から出て来た。金髪をツインテールにし、ピンクのパジャマを着ている。プリティ、とてもかわいい、お嫁に行かせられない。

 アイは俺の横に座り、ぺこりと頭を軽く下げる。



「おはよう、にいたん」

「おはようアイ。愛しているよ」

「アイも」


 素直に返答してくれる妹の可愛さに鼻血が出てしまったが仕方ないな、うん。


「アレックス、顔を洗ってきなさい」

「わかりました」


 生まれ変わり、俺はかけがえのない物を手に入れた。


 この幸せは――絶対に守って見せる。



「さて……」


 朝食後、俺は一人で山奥の僅かに開けた場所にいた。

 倉庫に置いてあった錆び付いた剣を両手に持ち、軽く剣を振るう。すると目の前にあった大木が一瞬で細切れになり、薪に代わった。


「うん、今日も絶好調だ」


 この場所で、俺は度々剣の修行を行っていた。

 生まれ変わっても俺の実力は変わらず、むしろ前世より研ぎ澄まされている感覚があった。

 そのことに気づいた俺は自分をどこまで伸ばせるか気になり、父上に頼んで剣を買ってもらった。子供だからとぼろぼろで錆び付いた、何も切れないような剣を買ってもらったが、練習にはこれで十分だった。

 いくら実力があるとはいえ、幼い体で無理な特訓をすれば体を壊してしまう。少しずつ素振りをこなし、身体を鍛えてから本格的な訓練に入る。そう考えていた。


「にいたん、今日も修行?」


 愛しのアイが母さんの作ったおにぎりを持ってきてくれた。

 アイも甘えたがりで、このように俺の修行を見に来ることが多かった。てちてちと歩いてくる姿がたまらなく愛おしい、抱き着きたい。体が勝手に動いた。


「うおおおおアイいいいい!」

「にいたん、苦しい」


 精一杯抱きしめた後、近くの木を切り倒して椅子にぴったりの切株を作る。アイにそこで座って待つよう伝えた。


「さてと、えい!」


 妹の見ている手前、格好つけたくなるのが男の性。俺は張り切って剣を振るう。

 その斬撃は衝撃波となって木を瞬く間に切り裂いて行き、やがて――


 ドカーン


 山頂に直撃してしまった。そびえ立つように高かった山頂はもう見る影もない。


 俺はやってしまったと頭を抱える。


「にいたんすごい、とても強い」


アイが手を上げて喜んでくれているのは嬉しい。だが父上と母上に迷惑をかけてしまうことになったのは悲しい。


「アイ、おにぎり上げるから父上と母上には内緒にしてくれないかい?」

「いいの? わかった。アイ約束守る!」


 アイは決意するように目を輝かせていた。

 すまないアイ、嘘つきなお兄ちゃんを許してくれ……。


 その後、山崩れの恐れがあるとあの場所にはいけなくなった。

 そして俺は修行もほどほどにしようと誓った。


――――――

――――

――



「兄さん早く! 学校に遅れてしまいますよ!」

「すぐ行く」


 あれから七年の月日が流れた。

 俺は今、アイと一緒に学校に通っている。

 十五歳になったアイは、学校で一番と言われるほど美しい美少女に成長しており、学年主席。もう感無量です。立派に育ってくれたなあ……。

 対して俺は落ちこぼれのぼっちになっていた。周りからも妹のお荷物だの、無能と馬鹿にされる毎日だ。まあ俺への罵倒はいくらでも構わないのだが、アイは納得していないらしく、頬を膨らませていた。


「兄さんが実力を隠しているからです。本当なら誰よりも強いはずなのに――」

「俺は目立ちたくないんだ。目立ってしまえば――家族といられる時間が減るじゃないか!」

「もう、兄さんったら」


 アイは嬉しそうに頬を赤く染める。

 俺の家族愛は変わらないどころか強くなっていた。家族さえいれば友達がいなくても寂しくないと思うほどにだ。決して前世で友達いなかったから話し方がわからないとかではない。

 その後遅刻することはなかったが、授業時間ぎりぎりだったので先生からは白い目で見られた。


 俺たちの通っている学校は基礎教養だけでなく、剣術や魔法についても充実した教育体制が整っているため、貴族も通っている。このような立派な学校に通わせてもらい、両親には頭が上がらない。卒業して就職したらお金をいっぱい稼いで楽をさせてあげる。それが今の俺の目標だった。

 この夢にアイも賛同してくれ、一緒の職場に就職すると約束している。今のところは冒険者ギルドが候補の一つだ。仕事もきついらしいが、給金は多く出るらしい。家族のためならきつい仕事など朝飯前だ。


 朝の授業はあっという間に終わって昼休みになり、一緒に昼食を取ろうとアイの元へ向かったのだが――


「すみませんが、昼食は兄と食べますので……」

「いいじゃないか、彼より僕と一緒の方がアイさんにはふさわしいよ」


 何やら愛しい妹がうざそうなイケメンに絡まれている。許せん。

 俺はアイを庇う様にイケメンの前に立ちふさがった。


「何をしている?」

「兄さん!」


 アイは嬉しそうに俺の背中に抱き着いてくる。愛しい奴め、後で撫でて上げよう。

 イケメンは一瞬目を細めるが、すぐにこちらを嘲笑するかのように鼻で笑った。


「これはこれは、落ちこぼれのアレックス先輩ではないですか。僕はアイさんと話しているので引っ込んでいてもらえませんか?」

「アイが嫌がっている。お前が引っ込んでいろ」

 

 イケメンがやれやれと自分の前髪を掻き上げる。一つの動作がたまらなくうざい。


「僕が誰だかわかって発言していますか?」

「いや全く知らない」

「やれやれ仕方ない、教えてあげましょう。僕は大貴族ブラック家の三男リチャード。貴方のような落ちこぼれとは格が違うのですよ」

「ようするに自慢できるのが家柄しかないのか、どっちが落ちこぼれなのやら」


 リチャードの額に青筋が走る。


「落ちこぼれの分際でエリートの僕を侮辱したな!」


 リチャードは先ほどの授業で使ったと思われる模擬刀を手に取り襲い掛かって来た。余りにもお粗末な剣筋なので、手で受け止めようとしたのだが――


「兄さん、危ない!」


 アイが庇う様に俺の体を押した。そのため模擬刀はアイの肩に直撃する。


「アイ!」


 俺は急いで倒れたアイを抱きかかえる。アイは肩で息をしながら痛みに耐えていた。

 それを見ながらリチャードが高笑いを上げる。

 

「アハハハハ! その落ちこぼれがそんなに大事かい? 僕に相応しい人だと思っていたけど、とんだ期待外れだよ。兄妹そろって無様なものだ」

 

 リチャードは悪びれもなくそう言い放ったが、そんなことはもうどうでもいい。俺は近くにいた生徒にアイを預け、保健室へ連れて行くように頼む。そして全員教室から出るよう指示した。

 皆がいなくなったことを確認してから俺はリチャードに顔を向ける。


「お前」

「何だい落ちこぼ――⁉」


 喋り切る前にリチャードの身体が吹き飛ぶ。俺が目にも止まらぬ速さでこいつの顔面をなぐったからだ。


「よくも俺の家族を傷つけたな」

「ひいい!」


 後ずさるリチャードの顎は大きく歪み、歯は何本も折れて血が出ていた。


「覚悟はできているんだろうな?」

「ぼ……僕は貴族らぞ! あとでろうなるかわかって――」

「知るか」


 俺はとどめの一撃を叩き込んだ。衝撃で地面が揺れる。


「んぎゃああああああ! あへえ……」


 リチャードは泡を吹きながら失神した。体を痙攣させ、失禁までしている。

 俺は拳をリチャードの顔に当たらないよう床にぶつけたのだ。ここまでビビらせればこいつも大人しくなるだろう、殺す価値もない。

 だが床にはひびが入り、教室がぼろぼろになってしまった。先生には爆弾を落としたと言い訳しよう。


「何の騒ぎですか――こ……これは!」


 その後、教室に戻って来た先生に事情を説明し、こっぴどく叱られることになった。

 幸い学校は全面的にリチャードが悪いと判断し、リチャードは退学処分。俺は教室を破壊したということで、一か月の謹慎が言い渡された。


「兄さん、ごめんなさい。私のせいで」

「気にするな、全部あいつが悪い。むしろケガの調子はどうだ」

「はい、早急な治療だったので大事には至りませんでした。激しい運動はしばらくできませんけどね」


 謹慎処分のため早退した俺の部屋に、学校から戻ったアイは真っ先に謝りに来た。

 俺は健気な妹への愛が抑えられず正面から抱き締める。


「あ……」

「ごめんな、俺がいながら怖い目にあわせてしまって。そして守ってくれてありがとう。愛してるよ」

「…………きゅう」

「アイ? アイ⁉」


 アイは顔を真っ赤にして気絶してしまった。後ほど、そのことで両親から怒られることになったが、その時間さえ俺には愛おしかった。



 謹慎が解けて数日たったある日、特別授業が行われることになった。この国の騎士団長を迎えて行う合同訓練だ。

 俺たちは校庭で整列するよう指示され、用意された壇上に騎士団長と思われる人物が立っている。烈火のような赤い長髪の深紅鎧を纏った女性だ。

 女性はこちらを一通り見渡すと話し始めた。


「私はこの国で騎士団長を務めるフェリシアというものだ。諸君も知っての通り、この国は魔族の脅威に脅かされ続けており、抵抗するため戦う術を身に付ける必要がある。そのため本日は戦闘訓練を行う。この訓練の中で、一つでも多くのことを学んでほしい。では位置についてくれ!」


 フェリシアの号令で俺たちは二人一組になり交替しながら戦闘訓練を始めることになった。

 用意された模擬刀や、殺傷性能を抑えた魔法が校庭を飛び交う。

 俺はわざと痛みがないように攻撃を受け、負けたフリを続けていた。このレベル相手なら目を瞑っていてもできることだ。生徒たちは、リチャードとの一件から俺がやばい奴だと最初は警戒していたが、俺が負け続けているのを知ると再び見下すようになってきた。幾らでも嘲笑してくれ、家族との時間を思えば安いものだ。

 訓練中何度かアイを見ていたが、全戦全勝のようだ。俺が鍛えているから、よっぽどのことがないと負けないだろう。愛してる。


「そこのお前」


 やられたフリで地面にうつ伏せに倒れていると、フェリシアが話しかけてきた。こんな落ちこぼれに何用だろうか。


「お前の戦いを見させてもらった。全ての戦いでお前は攻撃を最小限のダメージになるよう受けている。何故本気で戦わない?」


 まずい、手を抜いていたのがばれている。何とかごまかしたいが俺は口下手だ。うまくいけばいいが。


「……気のせいですよ。俺は落ちこぼれですから、そんな器用なことはできません」

「あくまでしらを切るつもりか。ならば――」


 フェリシアは腰に添えていた鞘から剣を抜き、俺に向けて構える。


「私と戦え。お前の実力を見定める」


 学校生徒に騎士団長が戦い挑むという異例の事態に先生たちが飛び出してくる。

 フェリシアと先生が話し始めたため訓練は中止になった。それに乗じて俺はそそくさと逃げ出そうとしたのだが、


「お、おい何だあれ⁉」


 一人の生徒が声を上げると、次々と悲鳴が上がる。突然、上空におびただしい数の魔物が姿を見せたのだ。

 強力な魔物が単体で町を襲ったことはあったが、この数が一斉に出現したのは初めてだ。

 前例のない事態に生徒たちはパニックに陥り、我先にと逃げ始めた。


「馬鹿な、これだけの魔物がどうやって? ……今は生徒の安全が大事だ! ここは私が食い止めるから生徒たちの避難誘導を‼」


 先生たちが生徒に指示を出し、その間にフェリシアは襲い掛かる魔物を次々と切り伏せていくがあまりにも数が多すぎた。

 さばききれない魔物が生徒たちに襲い掛かる。


「ふん」


 俺は素早くそんな魔物達を切り伏せて行った。

 生徒たちからすれば、目の前で勝手に魔物が真っ二つになっていくので訳が分からないだろう。


「兄さん!」

「アイ、無事だったか‼」


 魔物を切り伏せて続けているとアイと合流できた。

 アイにけがはなかったが、他の生徒を避難させるため疲れ切っている。

 アイは俺の手を取り、涙を流しながらこう言った。


「兄さん、皆を助けて」


 愛しい妹を泣かせてしまった。悲しい。


 --本気を出すか。


 俺は持っていた剣を両手に持ち、目を瞑って集中する。

 魔物の数はざっと数百――だが、狙えない数ではない。


「ふん!」


 音を置き去りにするほど速さで剣を振り切る。すると魔物達の声が止み、その動きを止めた。


「え?」


 フェリシアが声を上げると、凄まじい風圧が発生し、全ての魔物たちが両断され消滅した。

 辺りを一瞬静寂が包む。

 だがそれはすぐ歓声に変わった。


「た、助かった?」

「うおおおお生きてるぞ俺ええええ!」


 生徒たちは生き残った喜びを分かち合っていたが、先生たちは訳が分からず呆然としていた。


「兄さん、ありがとうございます!」


 アイがこちらに抱き着いてきた。優しく頭を撫でてやると嬉しそうに頬ずりしてくる。

 その笑顔を見れただけで俺の疲れは消え去った。


「貴方」


 フェリシアがこちらにゆっくりと近づいてくる。アイは抱き着くのを止め、こちらの背中に隠れた。


 何をされるのかと思っていたが、突然騎士団長はこちらの両手を笑顔で掴んできた。


「皆を守っていただき感謝する。そして貴方に惚れた。是非騎士団に来てほしい‼」


 さっきの動きを見れたとすれば、やはりこの騎士団長ただものではない。

 だが俺の返答は決まっていた。


「断る。俺は家族との時間が大切なんだ」


 フェリシアは一瞬悲しそうな顔をしたが、それはすぐ何かを決意したような表情に変わる。


「ならば私と家族になってくれ! 結婚しよう!」

「な……いきなり何を言っているのですか! 兄さんは渡しません‼」


 後ろにいたアイが飛び出し、フェリシアと言い争いを始めてしまった。ただでさえさっきの告白で目立っているのに、これは非常にまずい。


 俺がアイを連れて逃走を決断するのに時間はかからなかった。



「ただいま」

「おかえり、早かったのね」

「ちょっとあってね。愛してるよ母上」

「私もよ」


 家に着いた俺たちを母上が迎えてくれる。何年たってもその若さが衰えない美しい人だ。愛してる。


「さあさあ荷物を置いて、手を洗ってきなさい。今日はドーナツを作ったのよ」

「やったー! 母上のドーナツ大好き!」

「ふふ、兄さん子供みたい」


 しばらくすると父上も帰ってきて、一家団欒となった。

 こんな穏やかな日がずっと続けばいいと思っていた。


――――――

――――

――


 後日、今回の件で国王に魔物退治の切り札、勇者として召集を受けたが断った。

 俺にとっては家族との時間の方が大切だ。


「アレックス準備はできたかい?」

「父上、今ちょうど終わりましたよ」


 部屋の荷物を纏め終えた俺はそれを持ち、父上と一緒に玄関に向かう。

 俺は勇者として選ばれた日に、前世が勇者だったことを家族に打ち明けた。最初は驚かれたが、みんなすぐに受け入れてくれた。

 だが王の命に背いたということで、この国では暮らしにくくなり、話し合った結果引っ越すことになった。何のお咎めもなかったのは、フェリシアが王に直談判してくれたおかげだ。「愛するもののためなら当然」と当たり前のように言ってくれたフェリシアには感謝してもしきれない。


「兄さんはこんな時でものんびりやさんですね」

「ようやくか、待ちわびたよアレックス」

「お待たせアイ、フェリシア」


 玄関を出た先でアイと私服姿のフェリシアが待っていた。

 何故ここにフェリシアがいるかと言うと、直談判の結果騎士団長をクビになってしまったので、俺たちが彼女を家族として迎え入れたのだ


「準備できたかしら? さあ乗って」


 家の前で母上が馬車に座って待っていた。意外にも母上は馬車を運転できるのだ。

 長く暮らしてきた家に別れを告げ、引っ越し先に向けて旅立つ。場所は隣国の田舎町だ。


 馬車の中で俺はあることを思い出し、フェリシアの方へ向く。


「そういえば、フェリシアには言い忘れてたな」

「何を?」

「愛してる」

「…………ふぇ?」


 フェリシアは目を点にし、その顔は段々ゆでだこのように赤くなった。


「…………むにゅ~」

「ああ、フェリシアさん!」

「あらあら」


 フェリシアは気絶していまい、俺が馬車の中でずっと看病することになった。目覚めた彼女がそれに気づき、さらに顔を赤くしたのは言うまでもない。父上と母上、アイもそれを見て笑っていた。


「こんな素晴らしい家族に会えて、俺は幸せだ」


 揺れる馬車の中で俺はそう思った。


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― 新着の感想 ―
[良い点] アレックスの台詞でも地の文でも率直に「愛してる」と言うところを微笑ましく思いながら読んでいました。 どうしても感覚的に馴染みがないので恥ずかしく感じてしまいますが、ここまで突き抜けていると…
[良い点] 一家全員いつまでもお幸せに
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