スキルと平均と
『電脳端末は異世界探訪を夢見る(略称・電脳異世探)』の更新は、不定期に心の赴くままに更新します。
冒険者ギルドを後にして、セツナはのんびりと町の中を散策する。
途中で空腹に耐えられなかったので、近くにあった『馴染み亭』という看板の酒場に飛び込むと、真っすぐベランダの空いている席に座ってまずは一息入れることにした。
店内は広く、あとこちに商人や冒険者らしい人々が座って食事をしたり酒を飲んで楽しんでいる。
すると、セツナが席に座ったのを見て、クラッシックメイド服を来た女性店員が刹那のもとにやってきた。
「いらっしゃいませ。食事ですか?宿泊ですか?」
「あ、宿泊できるんだ。一泊って、幾らです?」
「一泊素泊まりで1500クルーラーだよ。食事付きだと、朝晩込みで3000クルーラだね」
すぐさま空間収納から、ジャラッと手持ちのお金を取り出す。
うん、銀貨何枚とから分かるけれど、クルーラって言われるとちんぷんかんぷんだね。
なので、困った顔で店員を見ると、どうやらセツナのようなパターンはよくあるらしく、丁寧に説明を始めてくれた。
「ん、この、国に来たばかりで、クルーラって分からない」
「あら、観光でしたか。クルーラはこの世界の通貨単位でして。地球との交換レートも一緒に説明すると、100クルーラが100円で1ドルになりますよ。この銀貨が1000クルーラ銀貨、この銅貨が100クルーラ銅貨ですね。硬貨は地球でいう十進法になっているといえばわかるりますか?」
うわぁ、分かりやすい。
思わずコクコクと頷いてしまうレベルだ。
この店員さんは親切に色々と教えてくれる。
さらに世界での法、神々の存在、生きるための知恵。街の中は安全だけど、外は凶暴なモンスターやら魔獣、そして犯罪者や盗賊なども徘徊している事があるので、出ないほうがいいなどなど、色々と教えてくれた。
「この世界の人は、外には出ないのですか?」
「そんなことも無いですわ。冒険者や商人は外に出ますし、狩人や採集者も近くの森に向かうこともありますよ。街の外は危険と隣り合わせと言うだけでしで、決して出てはいけないった言うことはありませんから。詳しくは、異世界ギルドの小冊子にも書かれていますので、そちらを参照してみるとよいかもしれませんね」
「そっか。私は冒険者だから、外に出ないとならないんだね?」
「タウンミッションもありますから、それを受けていれば安全ですよ。さて、泊まりはどうしますか?」
なら、暫くはここの街で暮らそう。
ジャラッと金貨を三枚取り出して、素泊まりで20日分を支払う。
「とりあえず20日。これで足りますか?」
確認のために問いかけると、店員さんは枚数を確認してにっこりとほほ笑む。
「それでは鍵と宿帳を持ってきますので、少々お待ちください」
スッとお辞儀をして席から離れると、すぐに奥のカウンターから部屋の鍵と宿帳を持ってきてくれる。それに名前を記入すると、カギを貸してくれた。
「こちらが部屋の鍵です。二階の205号室ですので、ご自由にお使いください。ベットメイクとリネンは料金に含まれていますが、当店には風呂はありませんので」
「あ、お風呂はどうすれば?」
「500クルーラで桶一杯のお湯をお持ちします。もしくは、サウスカナンに銭湯がありますので、そちらに向かうとよろしいかと」
サウスカナン?
思わず頭を捻ってみると、異世界ギルドの近くだと説明してくれた。
少し遠いけれと、都市部のあちこちには定期巡回馬車もあるので、それで向かえばいいと教えてくれた。
ならば、とりあえず部屋に向かって荷物を置いて‥‥。
「あ、荷物、全部空間収納だ」
「あら、お客様は神々の祝福をお持ちでしたか。まさかとは思いますが、お客様はユニーククラスですか?」
セツナは冒険者ギルドで聞いた話を思い出した。
ユニーククラスは隠しておくように。
そのため、店員に頭をぶんぶんと振って一言。
「そ、双剣士‥‥。さっきのは空間魔法、これしか使えない」
とだけ説明した。
それを聞いてヘェ、とやや驚いた顔をしているが、それ以上問いかけることはしない。
「双剣士さんでしたか。では、頑張ってくださいね」
それだけを告げて、店員はカウンターへと戻っていく。
これ以上、ここにいる色々とばれる。
まず、小冊子で勉強しないと‥‥。
「何か頼んで、ここで勉強‥‥なにを頼むの?」
ふと周りを見ても、メニューらしきものはない。
『統計学‥‥異世界系酒場の定番メニュー、腸詰、干した魚の炙りなど‥‥32%、塩味しかしないスープ‥‥28%、エール‥‥30%、その他‥‥10%』
脳裏に浮かぶデータベース。
ならば、ここから頼むしかない。
「あ、あの、腸詰のあぶったやつと果実を絞ったジュースをください」
「ブルストですね。ジュースはアプルとオランジどちらに?」
「アプル? あ、アプルください」
「かしこまりました、少々お待ちください」
にこやかに厨房な向かう店員。
それを見送ってのち、セツナは小冊子を調べ始める。
この世界の仕組み、ギルドの登録方法、冒険の手引書、王都カナン近辺のモンスターの生息域と採取可能な植物の一覧。
さらにお勧めの宿屋食事についても事細かに書かれている。
それも、丁寧に印刷されているだけでなく、写真までしっかりと添付されている。
この世界には印刷技術があるのかと、セツナは思わず動揺するが。
「あ、奥付に『大日本印刷』って書いてある。住所も東京だ」
というオチがついていた。
そしてセツナは、この世界の人間のステータスやスキルについての説明を読む。
これは魂の護符の裏に書き記されているものの、基本、他人には見ることができないらしい。意図的に見せようとしない限りは、横から覗いても他人のものは見えない。
そして信じられない事実。
この世界の人間の平均ステータスは、おおよそ60前後。
ベテラン冒険者で大体100から150、英雄や勇者クラスともなると300ぐらいまであがると記されている。
魔法を使うには魔力が、コンバットアーツという戦闘技術を使うには心力が必要であるが、どちらも平均は60から100、それも、どちらかが高ければどちらかが低くなる。
さらに、コモンと呼ばれているこの世界の人は、魔力と心力、どちらかしかもって生まれないらしい。
どちらも保有しているのは勇者クラスの異世界人のみ。
解説には、1000年周期に世界的危機が訪れ、その都度異世界から勇者がやってくきるらしい。
ちなみに最後の勇者は300年前にやってきたらしいので、今暫くは世界的危機はないという。
「ま、人に見せられなければ問題ない」
ウンウンと自分に言い聞かせつつ、ふと周囲を見渡す。
すると、あちこちの席でゼツナをチラッチラッとみている人たちがいる。
風体でその人たちが冒険者や商人であろうと思えるのだが、あえで気が付かないふりをして続きを読むことにした。
スキルについて。
この世界にはスキルという概念がある。
魂の護符の裏に書いてあるもので、おおよそスキルには1~10というレベルがついている。
最低は1、最高は10。これも小冊子によると、とんでもないことが書き記されていた。
【1~2】一般知識。大半の人間はここにあてはまる。
【3~4】冒険者や専門職の大多数
【5~6】ベテラン冒険者や特出した専門家の技術や知識
【7~8】グランドマスター、達人クラス、世界にはほんの一握りのレベル
【9~】超人分野、殆ど存在しない筈
【10】 時代の勇者、神代の存在。現代では存在してはいけない
──ゴクッ
思わず息を呑むセツナ。
え? どういうこと? あの神様馬鹿なの?
神様、どうしてこんなステータスとスキルをくれたの? 小説の世界のチートキャラクターじゃない。
何度も何度も小冊子を眺め、自分の魂の護符の裏と見比べる。
うむ。
これも人に見せてはいけない。
そして魔法についての説明でも、セツナは頭を抱えそうになる。
この世界、正式名称カリス・マレスにはいくつもの魔法属性がある。
例えば一般魔術、生活魔術、地水火風光闇の6大精霊魔術、神の奇跡である神術。
これらはそれぞれ別系統の魔術として存在するため、スキルも『精霊魔術・地』とか『一般魔術』というように分類されている。
神術についてはさらに信仰する神々によって変化し、『クルーラー神術』や『パスティ神術』というように神々の系統に分かれる。
では、セツナの魔術はというと。
古くはこれら魔術は一つであった。魔術の難易度により、『第一聖典』『第二聖典』というように分類されており、最高は神々にしか使えない『第十聖典』が存在する。
これが細分化されたのが現代の魔術であり、それはすべて第一、第二、第三聖典に網羅されている。
つまりどういうことかというと。
「あ‥‥わたし終った」
セツナは現在伝えられているすべての魔術を行使できるだけでなく、禁呪クラスである第四聖典まで使用できるのである。
これのレベルもスキルと同じということで‥‥。
神様、やっちまった系である。
──カチャッ
「お待たせしました、ブルストとアプルジュースです、800クルーラお願いします」
会計は商品と引き換え。
それがこっちの世界の常識。
ということで、セツナは空間収納から堂々と銅貨8枚を取り出して支払うと。
「もういい、今日は食べて寝る」
ということで、セツナはこののち、やけ食いモードに突入した。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。