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統計学と冒険者と

『電脳端末は異世界探訪を夢見る(略称・電脳異世探)』の更新は、不定期に心の赴くままに更新します。

この回、『異世界ライフの楽しみ方』を呼んでいただいている方には聞きなれた名前が出てきますのであしからず。

 異世界ギルドを後にして。


 セツナはのんびりと第二城壁を散策する。

 どことなく知っている世界、那由多のプレイしていたMMORPGと、何処と無く似ている世界。

 人族、エルフ、ドワーフ、人鬼族……様々な種族の人々が、普通に生活している。


「あの、冒険者ギルドって、何処ですか?」

 まずセツナは、行商人らしい人に声を掛けてみた。するとその男性はセツナを見て軽く笑うと。

「この先の大きな建物だよ。アーチ状の入り口があるから分かると思うし、厳つい人たちが出入りしているからすぐにわかると思うよ」

 そう通りの先を指差しながら教えてくれたので。

──ペコリ

「ありがとうございました」

 軽く一礼して、セツナは教えてもらった建物へと歩き始める。


 やがて大きな石造りの建物が見えてくる。

 人の通りが多くなり、それに伴い、見え始めた人々のタイプに変化が訪れた。

 チュニック姿の一般の人々とは一線を超えた、板金鎧やレザーアーマー、ロープ姿の人々が多く見え始める。


「これが冒険者ギルドかぁ」

 アーチ状の入り口の上に堂々と掲げられた『冒険者ギルド』の文字に、セツナは思わずクスッと笑ってしまう。

 入り口の両側にはフルプレートの騎士が二人。どうやら警備の騎士のようである。

 ここまで来たなら行くしかない。

 セツナは堂々と入り口に足を入れる事にした。


──ガヤガヤガヤガヤ

 冒険者ギルドの中は活気に満ち溢れていた。

 入ってすぐの広いホール、壁際にずらりと並んだいくつもの依頼掲示板。

 大勢の冒険者たちがその前で、大量に貼り付けてある依頼を吟味している。

 入って正面にはギルドの受付カウンター、右にはどうやら酒場が併設してあるらしく、ホールよりもさらに喧騒感が溢れている。


「お、なんだなんだ?お嬢ちゃん、依頼かな?」

 一人の冒険者らしい男性が、セツナに声を掛ける。

「い、いえ、冒険者になりに来ました……」

「ふぅん……なら、そっちのカウンターだよ」

 クイッと親指でカウンターの方を指し示すので、セツナは急ぎカウンターに向かった。

 ちょうど空いているカウンターかあったので、そこの前に立つ。すると、受付の老ドワーフが、セツナを見て一言。

「依頼の申し込みかな?」

「いえ、冒険者登録に来ました」

 スッと魂の護符(ソウルプレートを取り出して差し出すと、老ドワーフはそれを受け取ってフムフムと頷いている。

 だが。


「おいおい、いつからカナンの冒険者ギルドは託児所になったんだぁ?」

「お嬢ちゃんよ、悪いことは言わないからとっとと帰りな。冒険者ってのは、命懸けなんだよ。お嬢ちゃん みたいなやわな女に務まるもんじゃねーんだよ」

「ほらほら、分かったらそこを開けな。こっちは報告しないとならない依頼があるんだからなぁ」


 いかにも『俺たち不良冒険者です』という風体の三人組の男達が、セツナの腕を掴むとズルッと横に押しのけた。

 すると、セツナはむっとした表情で男たちを睨みつけると。


──ピッ

『統計スキルを起動します‥‥異世界転生物のラノベ等において、異世界転生したばかりの主人公が冒険者ギルド登録時に不良冒険視野に絡まれる確率‥‥68%』


((ふぁ? なんだこれ?)


 突然セツナの視界の右端に浮かび上がる文字列。それは音声とともにセツナの脳裏に見えてきた。

(なら、この後の展開を統計からサーチ)


──ピッ

『この後の展開‥‥主人公がチート能力で切り抜ける・55%、他の冒険者が助けてくれる・28%、ギルド関係者が助けてくれる・18%、その他・4%です』


 ほほう。

 それがわかったのはいいけれど。現時点での対抗策は何も見えていない。

(うひゃあ、わかったところで何も解決できていない‥‥)

 

「なんだこのガキ、まだ俺たちに文句でもあるのか?」

「確か冒険者登録と言っていたよなぁ、どれ、俺たちがテストしてやるよ‥‥そんな目で俺たちを見たことを後悔させてやるよ。スミス!!」

 スミスと呼ばれた男が素早くセツナの肩を掴む。

──ミシッ

 そのまま力を入れたため、セツナの肩がみしみしと音を立てた。

 スチームガールという種族故痛覚はないかもと思っていたセツナであったが、ようは人造人間の延長、感覚器官がしっかりとしている分、人間と同じように痛覚も味覚も存在する。

 それゆえ、肩に激痛が走り、一瞬で苦悶の表情になった。

「ほらほらどうしたよ。この程度の攻撃、冒険者になるんなら躱さないとダメじゃないかぁ」

「スミス、適当にしておけ。俺はこっちの老ドワーフに話があるんだ。なあ、あんた、俺たちのこと知らねぇのか?」

カウンターにいた男が老ドワーフに問いかける。

 どっかりとカウンターに腰かけて、さも偉そうに書類を取り出した。

「知らんなぁ、どこのチンピラ冒険者じゃ?」

「はっ。ワグナルド共和国のトップチーム『死神旅団』を知らねぇとはな。あの伝説の『幻影騎士団』の流れを組む、大陸最強の冒険者チームだぜ? おれは そこのサブリーダーのバルカス、こっちは前衛担当のレナウン、そっちのお嬢ちゃんに勉強を教えているのはスミスだ。わかったか? 最強の俺たちがわざわざゃって来たんだ、それなりの待遇をしてもらわないとなぁ‥‥」

 

 周囲で見ていたあちこちの冒険者がひそひそと話を始めている。

 そしてセツナもやられてばかりではと、ついに反撃を開始する。


「か、鑑定開始‥‥」

──ピッピッ

『鑑定‥‥スミス、平均能力値68、戦士、ランクC。戦闘スキルの平均レベル3.8、最高位スキル剣技4、コマンドアーツ『スマッシュ』、その他なし』


「へっへっ。何かぶつぶつ言っているようだけれど、よく見たらかわいいじゃないかぁ。ベンジャミン、この子も連れて帰ろうぜ」

 スミスは傍らで周囲を威圧している仲間・ベンジャミンに問いかける。するとベンジャミンも下衆い顔で口元をニイッと吊り上げる。


「そうだなぁ。この国の冒険者は腰抜けばかりらしいからなぁ‥‥どら、あんたも旅団専属の娼婦にしてやるよ」

「だそうだ‥‥よかったなぁ」

──グイッ

 そう問いかけるや否や、セツナはスミスの腕を握り締める。

「お、なんだやるのか? その細腕でどこまでできるのかやってみろよ」

 挑発してくるスミス。

 するとセツナは、静かに言葉を発する。

「えぇっと‥‥コマンドワード『解析』起動‥‥」

──ピッ

 すると、つかんでいる腕を伝って、スミスの持っているスキルが次々と脳裏に流れてくる。

『‥‥ピッ、解析完了』

「続いて自己進化、吸収開始」

──ピッ

 ゆっくりと解析したスキルが体内に浸透する。

 スミスのスキル『剣技』の使い方、タイミングなどがすべて体内にしみとおっていく。

 セツナの能力の一つ『自己進化』により、相手のスキルで解析したものは、すべてセツナの中にも新しいスキルとして設定される。

 この場合、今使った吸収は使えないのだが、まだセツナは吸収の使い方をよくわかっていなかったので仕方ないだろう。


「へっへっへっ。さて、そんじゃあ宿にでも行きま‥‥」

──ゴキッ

 そう呟いたスミスの手首が、音を立てて砕ける。

 掴んでいたセツナが、力いっぱい握りつぶしたのである。

「いってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ、てめぇ、何てことしやがったぁぁぁ」

 折れた手首を抑えつつ、スミスが絶叫をあげる。

 そして残った左手でナイフを取り出すと、セツナに向かって切りかかったのだが。

──ヒュンッ

 セツナには、スミスの攻撃の軌跡か目に見えた。

 解析によってスミスの能力はすべて把握、そして自己進化でそれに対する能力を身に着けている。

 次々と繰り出されるスミスの攻撃を躱しつつ、セツナも反撃に出ようと思ったのだが。


「あ、武器がない」

 腰に手を伸ばすしぐさをしてから、セツナは自分が武器を持っていないことに気が付いた。

──シュルルルッ

 すると、セツナの足元に一振りのショートソードが突き刺さる。

「これを使いなっ!!」

 誰かがセツナに武器を投げてよこしたらしい。

「ん、感謝します」

 そう呟いて素早くショートソードを引き抜くと、ガシッとスミスに向かって構えた。 

「けつ。そんなへっぴり腰で、まともに武器を扱えるのかよっ!!」

 ナイフ片手にとびかかってくるスミスだが、セツナはスッと躱すと、カウンターぎみにスミスの首元にショートソードを振り落として。


──ガギィィィィン

「そこまで。それ以上すると首を落としてしまう。そうなると犯罪者になってしまうぞ」

 飛び込んできた警備騎士が、盾でセツナの攻撃を受け止める。

 それと同時にスミスに向かって膝蹴りを叩き込んでいたため、スミスはその一撃でノックダウン。

  

「こ、この野郎、俺たちはあの死神旅団だぞ? 俺たちに逆らったらどうなるのかわかっているのか、俺たちのリーダーはなぁ」

 騎士とセツナに向かって叫ぶベンジャミン。だが、その瞬間、一人の女性冒険者が走ってきて、ベンジャミンの顔面に向かって飛び蹴りを浴びせた。

「スラッシュキーーックっぽい」

──ドッゴォォォォォォォッ

 その一撃でベンジャミンもカウンターまで吹き飛ばされ、意識を失った。

 こうなると、カウンターで偉そうなことをしゃべっていたバルカスも真っ赤な顔になる。

「て、てめえらふざけるな。俺たちに逆らったらどうなるかわかっているのか? こんな辺境の小国の冒険者ギルドなんて」

──ガシッ‥‥ドッゴォォォォォッ

 そう叫ぶバルカスだが、老ドワーフが立ち上がってバルカスの胸元をつかむといきなりその顔面をカウンターにたたきつけた。

 その一撃で何本かの歯が砕け、鼻血が噴き出す。

「全く。幻影騎士団が死神旅団なんてちっさい冒険者チームとつるむことなんかあるわけないじゃろうが。馬鹿も休み休みいえ。ほら、この報告書だけ受け取っておくから、とっとと倒れているやつらをつれて出ていけ。カナンの冒険者ギルドはな、建物の中での喧嘩はご法度じゃ」

 ギロッとバルカスをにらみつける老ドワーフ。

 するとバルカスは慌てて建物の外に飛び出していった。

 そして残った二人も警備騎士たちが捕まえて外に放り出すと、集まっていた冒険者たちはいっせいに散っていった。


──ポカーン

 その様子を、セツナは驚いた表情で見ている。

「ここのギルドマスター、強い」

「いえいえ、あの人はただの臨時雇いの冒険者さんですよ‥‥と、ショートソードいいかな?」

 エルフの剣士らしい女性がセツナに近寄るとそう話しかける。なので慌ててショートソードを返すと、セツナはペコペコと頭を告げた。

「助かりました、ありがとうございます」

「いいのいいの。それよりも肩、大丈夫?」

 そう言われてから、突然痛みが戻ってくる。

 骨にひびも入ったかもしれないと思ったら。

「怪我なら私が‥‥癒しの女神ハースニールよ、かのもののけがを癒したまえ。中治癒‥‥」

──ブゥゥゥゥン

 年にして16歳ほどの男の子。ローブを着た少年がセツナの肩に手をかざして魔法を唱えた。

 淡い光が肩口に集まると、痛みをすべて打ち消していったのである。

「本当なら助けたかったのですけれど‥‥動けなくてごめんなさい」

「いいですよ。事情は人それぞれ、あの冒険者だってかなりの腕だったらしいですから‥‥」

 セツナも頭を下げてからそう話して、ゆっくりと立ち上がる。

「そういえば、私を助けてくれた金髪の‥‥いない」

 ベンジャミンを一撃でノックダウンした金髪の冒険者を探す。だが、その姿はどこにもなかった。


「では私たちはこれで。登録、頑張って下さいね」

「それでは、失礼します」

 少年と女性剣士は酒場へと戻っていく。

「ふぅ。読んでいるときは楽しいのに、自分で体験するとこんなに怖いとは思いませんでしたよ‥‥」

 そう呟いていると、老ドワーフがコイコイとセツナを呼んでいる。

「ほら、とっとと登録するから来るのじゃ」

「あ、はい、それでは‥‥」

 すぐさまセツナは老ドワーフのもとに駆け寄っていくと、さっそく登録をお願いすることにした。



 〇 〇 〇 〇 〇



 カウンター上には、直径30cm程の巨大な水晶球が設置されている。

「ほら、ここに手をのせて‥‥」

「これは?」

鑑定球(アナライズオーブ)と言ってな、各種冒険者の登録や鑑定を行う魔道具じゃよ」

──ブゥゥゥゥン

 セツナが手を当てると、鑑定球(アナライズオーブ)が淡く輝く。

 すると、セツナの目の前に赤銅色のプレートが浮かび上がった。

「ふむふむ、初期登録でカッパープレートか。そこそこの実力はあるようじゃ」

 うんうんとうなずいている老ドワーフ。するとセツナはプレートを手に取る。

「これが冒険者カードというものですか?」

「うむ。ギルドプレートとか、冒険者カードとか呼ばれるものじゃ。それで、説明は必要かな?」

 ヒゲをなでながら問いかける老ドワーフ。ならばと、セツナは刻刻と頭を縦に振る。


 各種ギルドの登録は、鑑定球(アナライズオーブ)によって魂の資質を調べる。

 これは様々なタイプが存在し、異世界ギルドのような旧式のものもあれば、こちらの冒険者ギルドのような最新式も存在する。

 基本的には、登録希望者の魂の護符(ソウルプレート)から、一枚の金属プレートが生み出される。これには名前や年齢、性別以外に冒険者ランクと職業クラスが記されている。

 ランクとは、冒険者ギルドの場合、SからA、B、C、D、Eと6段階ランクが存在し、それぞれゴールド、エレクトラム(ライトゴールド)、シルバー、カパー、ブロンズ、アイアンと6色にわけられているそうだ。

 登録したばかりの冒険者は大抵はEランク、そののち冒険者訓練所での訓練課程を受けることでDランクに上がれることもあるらしい。

 とにかく依頼を受けてクリアしていくことで、そのものの魂の護符(ソウルプレート)が鍛え上げられ、それに伴いプレートの色は変化していく。 

 過去にはSランクの上に虹色のSS、そして最高位であるミスリルのSSSランクという冒険者も存在したらしい。

 そしてクラス。これはその者の魂や身体能力などから、どの職業が適正であるかを表記している。

 あくまでも適正であるが、たいていの冒険者はその職業に就くのが慣例であり、クラス=本当の職業として表記されているのが一般的であるらしい。


「クラスが『探索者(サーチャー)』って書いてあるけど」

「ああ、そいつはユニーククラスだな」

「ユニーククラス?」

「ああ。ごくまれに、神の啓示を受けた冒険者っていうのがいるんだ。セツナちゃんはそれに該当する。世界に一つだけのクラス、それがユニーククラスだ。まあ、あんまり人に自慢していいクラスじゃないがな」

 そう説明してから、老ドワーフはセツナにこっそりと耳打ちする。

「ここの国以外では、あんまりユニーククラスであることは言わないほうがいい。他国や一部の貴族は、ユニーククラスを自分たちの勢力に引き込もうと必死だからな‥‥」

──ゴクッ

 思わず息を呑むセツナ。

「でも、プレートを見せるとばれる」

「まあ、普段はあまり見せないでいい。ギルドは個人情報については秘密義務があるので他人には告げない。それに、そのクラスが何かわからないんだから、囲ってみてもどうしていいかわからないだろうさ。あとは何かあるかい?」

 そう問いかける老ドワーフ。

 すると、セツナは軽く会釈して一言。

「受付のドワーフさんの名前を教えてください」

「おお、これは失礼。カナン冒険者ギルド臨時食感のワイルドターキーという。もともとの冒険者ランクはS、今は引退して後進の育成をしている」

 ニイッと笑うワイルドターキー。

 そしてセツナももう一度頭を下げると、受付を後にした。



誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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