表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/7

転生と試練と

 白亜の空間。

 神々のみが行き交うことを許された、神域の一つ。

 現世と神域を繋ぐ回廊であり、過去、現在、そして未来、この回廊を開くことを許された存在は、神以外ではただ一人。

 その一人が創造神の属神となり、そして現在、創造神代行を務めるなど、一体誰が思ったであろう。

 その創造神代行である『管理神アーカム』は、頭を抱えて白亜の回廊をゴロゴロと転げ回っていた。


「ぬぁぁぁぁぁ。先代と同じ失敗したぁぁぁ。なんで転生先の時間軸調整しなかったぁぁぁぁ」


 元・不可思議だった存在の転生先。

 その時間軸を調整せずにホイホイと転生した結果、不可思議は過去の時間軸に転生してしまったらしい。


 現代で死亡した那由多と不可思議、その後に付喪神となるまで99年。

 その後、神威を使いきり白亜の回廊に来るまでさらに300年。

 そして転生の時間軸を調整しなかった結果、現在の時間軸からさらに200年過去の世界に転生させてしまったらしい。


「……また失敗?本当に管理神としての役割ちゃんと果たさないとダメでしょうが?」

「プークスクス。アーカムは駄目神」

 白い翼の女神パスティと、黒い翼の女魔人イェリネック。この二人の神に笑われて、さらにアーカムは回廊を転がる。

「だったら、時空神・天狼に行ってあの子の加護を盛り放題にしてきてよ。もう、あの創造神と同じにみられるのは真っ平ごめんだわよ……」

「そうしてごまかすのも駄目ですよ。さ、過去に向かったのなら、今、どうしているかわかるでしょ?早くお勤めを続けなさいな」

「うむ。貴殿をアクア、ニンニルに続く駄目神と認定してやろうぞ。それが嫌なら働くがよい」


 二人の女神に諭されて、アーカムはようやく起き上がった……。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 静かな風が頬を掠めて行く。

 柔らかい日差し、生い茂る草木。

 鼻をくすぐる優しい香りが、生きていることを証明している。

 目の前には青い空。

 何処までも続く空と、雲。


「転生……した」


 ゆっくりと体を起こす『不可思議』だったもの。

 そして周りをキョロキョロと見渡してから、自分の体を確認する。

 右手を目の前にあげて、グーパーと握る。

 不可思議だった時代には感じられなかった、体の感触。

 それに、不可思議は思わず笑ってしまう。


「これが肉体ですか。不思議な感触ですねぇ……と」


 慌てて周囲を見渡す。

 どこか広い草原かと思ったら、どうやらどこかの街の中。

 市街地の緑化区画、俗に言う公園の真ん中のような雰囲気。周りには木陰でのんびりとしている親子連れや、楽しそうに走り回っている子供達。

 『不可思議』だったものの記憶と違う点は、走っている子供達に獣人が混ざっていること、風景は中世ヨーロッパのような街並みであったこと、この二つである。


「ええっと、那由多がいつもやっていた事をおさらいして……ステータス・オープン」

右手を前にかざしコマンドを実行する。

──ブゥン

 すると、不可思議だったものの目の前に、半透明のモニター状のものが浮かび上がる。

 それをゆっくりと観察していくと、不可思議だったものはコクコクと頷いていた。


「あのゲームと同じ。ないのはログアウトボタンのみ。ステータスは……ふむふむ、那由多のキャラクターと同じかな? 神さま、中々分かって……違う?」


 表情一つ変える事なく、不可思議だったものはモニターを眺めて、自身のステータスや初期スキル、アイテムの確認を始める。

 この辺りは那由多のサポートとして一緒に冒険をしていたので、慣れたものである。



──────────────

名前 :未設定

年齢 :99

性別 :女性

種族 :スチームガール


体力 :9999

瞬発力:9999

感覚力:9999

魔力 :9999

心力 :9999


スペシャルアビリティ:融合、解析、鑑定眼、自己進化

          吸収、統計学

          鋼の肉体、深淵の書庫アーカイブ

アビリティリンク :不可

習得スキル     :生活面全般LV10、武具全般LV5、基礎魔術LV10


習得魔術      :第一聖典ファーストLv10、第二聖典セカンドLv10、

           第三聖典ザ・サードLv10、第四聖典ザ・フォースLv5


・初期装備

 空間収納チェスト

 バックパック (空間拡張)

 ラージザック (大袋・空間拡張)

 スモールザック(小袋・空間拡張)

 着替え×3

 肌着 ×6

 松明 ×2

 火口箱×1

 保存食(ビーフジャーキーのような干し肉とカンパンのような硬いパン)×21食分

 革の水筒

 麻の小袋(金貨20枚、銀貨150枚、銅貨50枚)

──────────────


 そっとモニターを閉じる。


「ん、やっぱりチート。『Fantasy World LIFE』のキャラよりも一桁強い。装備はそうでもないけれど……武器と防具がない?」


 もう一度、そーっとステータスウィンドゥを開いて確認する。

 たしかに初期装備の欄には、武器や防具の類は一切ない。


「それじゃあ買うしかないのか。ん? 種族スチームガール?」


 ふと目に付いた種族欄。そこに記されているのは人間、ヒューマンではなく知らない種族。


「スチームガールってなんだろ?深淵の書庫アーカイブは使える……なら、深淵の書庫アーカイブ起動!」


──ブゥゥゥン

 不可思議だったものを中心に、半径1m程の立体球形魔法陣が起動する。

 その表面には不可思議な文字が大量に浮かび上がり、チカチカと点滅を始めている。


「ん、私の知っている深淵の書庫アーカイブとは違う。けど、効果は同じみたい。検索、スチームガール……」


──ピッ

『スチームガール:魔導王国スタイファー』の技術によって作られた人工生命体。人間と同じような肉体構成は持つが、脳や心臓といった内臓器官は存在せず、心臓と脳の役割を果たす『魔導核』という臓器が存在する。

 食べ物は特に必要ないが、生命を維持するために最低限の水分を定期的に補充する必要はある。

寿命という概念はないが、肉体や魔導核を構成する魔法金属の経年劣化により、死亡する事もある。

また、肉体を構成する魔法金属の種類によっては、人間の使う回復魔法などで怪我などは回復する事ができる』

──ピッピッ


「いきなりハード。私は人間ではなかった……」

 そう呟きつつ、胸元にそっと手を当てる。

 ドクン、ドクンと心臓の鼓動音が手のひらを通じて伝わってくるのが感じられる。

「これが魔導核。これ以外は人間と同じ……なら、問題はない」

 淡々と呟く不可思議だったもの。

 だが、周囲の人々が不可思議を見ている視線に、ようやく彼女は気がついた。


「あ、深淵の書庫アーカイブだ……」

「先代女王にしか使えなかった、王家に伝わる魔術……」

「あの子は、何者なの……」


 周囲の喧騒が大きくなる。

 噂が噂を呼んで、あちこちから人が集まり始めた時。その人混みを掻き分けながら、全身鎧の騎士たちがやって来た。


「すまないが道を開けてくれ……と、君か、通報のあった禁忌魔術の使い手は?」

 金髪の女性騎士が、不可思議だったものにそう問いかけてくる。

 そこでようやく、不可思議だったものは、自分の使った魔術がこの世界では危険なものであることを理解した。


深淵の書庫アーカイブは禁忌?」


 思わず頭を傾げて問いかける不可思議だったもの。

 すると、目の前の女騎士はやれやれと困った顔をする。


「まあ、禁忌と言うよりは、王族と認められたものしか『使えない』魔術と言うところ。あ、君が王族だなんてこれっぽっちも思ってないからね、先代女王も今の女王も、子供はいないから。さて、私は女王の近衛騎士団所属のゼクスと言います。詳しい話を聞かせてもらいたいんだけれど、名前を教えてもらっていいかな?」


 易しく説明してくれる騎士。解説ありがとうと心の中で思いつつ、不可思議だったものは名前がないことに気がついた。


『名前を設定する……那由多、は、ダメって言われたから……』


 なら、適当な、それでいて那由多や不可思議のような、意味のある名前を……。

 それで思いついた名前を、不可思議だったものはつぶやいた。


「セツナ、私の名前はセツナ・サミヤ。漢字では三三矢・刹那って書く」


 ニイッと笑おうとするセツナ。だが、少しだけ笑顔になったものの、破顔するような笑みを浮かべることはできなかった。

 そして目の前にいたゼクスと名乗った騎士は、頬をひくひくと引きつけながら二、三歩後ずさりする。

「さ、サミヤ?それってまさか……」

 必死に頭の中を整理するゼクス。

 そして辿り着いた結論は一言。


「そ、それでは、貴方の魂の護符(ソウルプレートを確認させてもらっていいかしら?」

魂の護符(ソウルプレート?」

 そんなものは知らない。

 なら検索しようと再び深淵の書庫アーカイブを起動しようとして。

「待った待った、貴方、魂の護符(ソウルプレートも知らないの?まるで転生した勇者みた……え?」


 ゼクスはそう呟いて、サーッと顔色が真っ青になる。

 そして慌ててセツナの手を掴むと、取り敢えず公園から出て行った。


誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ