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花と魔王シリーズ

君がいなくなってから

作者: 大きな鯨

 もう、どれくらいが経ったのだろうか?

 突然いなくなってしまった君の事を……私はまだ、忘れられないでいる。


 もう何年も、私の中に居座り続ける君との思い出。

 いつだって君は、優しい笑顔で接してくれていたね。

 嬉しい時も、怒った時も、悲しい時も、ちょっとした事で泣いてしまう君。

 ほんの冗談で意地悪したら、すごく怒られたっけ。


 普段通りに過ごしていても、時折、君との楽しかった思い出の数々が、ポツリ、ポツリと鮮明に浮かび上がっては、私を苦しめる。


 私は、君を忘れるために、何をすれば良いのだろう?

 私の中に居座る君は、いつになったら私を解放してくれるのだろうか?


 君が絡めてくれた腕も

 握った手の平も

 交わした唇さえも

 まだ、記憶の中に残っている。


 私は、君のことが大好きだった。

 君を愛していた。

 私の心には、君が沢山詰まっている。


 ……でも、私は酷い人間だ。


 君が私を解放してくれないんじゃない。

 私が、君との思い出を忘れられないだけなんだね。

 ……でも、それも違うかもしれない。

 忘れられないんじゃない、忘れたくないんだよ。

 君がいないことを……受け止められないんだ。


 だってそうでしょ?


 一緒に行った旅行だって

 家で過ごした時間だって

 離れていた時だって

 いつだって大好きな君がいたから、とても幸せだった。


 忘れる?


 ……無理だよ。

 食べることを忘れるわけないでしょ?

 寝ることだって忘れることはないでしょ?

 だから、君を忘れる事なんて出来ない。

 心配してくれる周りの人達には、とても感謝しているんだけど、君のことを忘れなさいって言うんだよ?


 ……わかっている。


 そんなことは、わかってるよ。

 もういない君のことばかり考えてたんじゃ、周りに迷惑を掛けてしまう。


 実は、最近、ポストに新聞が溜まってたからって、隣の人が訪ねて来てくれたんだよね。

 でも、どうしても外に出る気になれなくて、申し訳なかったけど、居留守をしてたんだ。

 そしたら、警察と一緒に、お隣のおばさんが訪ねて来ちゃって……。

 まあ、そうだよね。お隣さんが死んでるかもしれないなんて嫌だもんね。


 その後も、お隣のおばさんは心配だからって、ちょくちょく訪ねて来てくれたんだよね。

 最初は鬱陶しかったんだけど、毎日、毎日、あんまりにもしつこく訪ねて来るもんだから、おばさんに、君がいなくなって落ち込んでるんだって、正直に話したらさ……おばさん、元気出してって励ましてくれたんだ。

 まったく、お節介なお隣さんだよね。

 その時に何を話したかなんて、もう覚えてはいないけど、おばさんと話し終わった後に、ふと気づいたら、泣いてたんだよね。

 もしかしたら、泣きながらおばさんと話してたかもしれないなーと思うと。


 笑っちゃうよね?


 その後もさ、止まらないんだよ。

 おばさんに、君がいなくなっちゃったって話しただけなのに、ずっと涙が止まらなかったんだよ。

 わかんないけど、どうしても、止められなかったんだ。

 君がいなくなったのは、もうずっと前なのに。

 今までにだって、散々泣いて、悲しんで、落ち込んで……でも、まだ足りないみたいなんだ。


 何が足りないんだろう?


 もし、この足りない何かが埋まれば、君を忘れる事が出来るのかな?

 君のいない世界で、幸せに暮らせるかな?

 そんな事が、本当に出来るのかな?


 なんで……何も言わずにどこかへ行ってしまったの?

 なんで……何も連絡してくれないの?

 なんで……。


 私は、いなくなってしまった君のことを、生涯忘れることは出来ないかもしれない。


 だから……悲しい時は泣いても良いよね?

 いつか戻って来てくれるって、信じて生きていても良いよね?

 こんな私でも……君の帰ってくる場所として……。


 いつまでも。


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