憧れの先輩に告白したら魔法薬で妹にされたんですけど
つい書きたくなってぶわっと……
「アリス先輩! じ、実は大事な話があります!」
「レン……君……?」
「僕は……先輩ともっと近づきたいです!」
夕暮れ時。ステラ魔法学園の魔法薬科教室。その日、レナードはずっと憧れていた一つ年上の、だけど小さくて可愛い先輩、アリスへと一世一代の覚悟で告白をした。
「僕は先輩と今よりもっと一緒にいたいんです!」
「ま、待って待って! 待って!!」
アリスがブンブンと首を振りながらレナードを制止する。
「レン君、あの……私ともっと一緒にいたいって……」
「はい、本気です。僕は先輩のためだったら何でもします。だから……!」
レナードが顔を真っ赤にしながら頷く。そんなレナードを見たアリスが少し考え込む。
「うん……私もレン君と過ごした半年間は楽しかったなって、素直にそう思う」
「じゃ、じゃあ……!」
微笑むアリスにレナードの胸の鼓動が高鳴る。しかし、そんなレナードの前にアリスが手のひらを突き出した。
「一日考えさせて!」
「え?」
「準備をさせてほしいの! 休養日明けのこの時間には結果を出すから!」
明日は学園の休養日。レナードは、アリスにも考える時間が必要なのだろうと思い、静かに頷いた。
「わかりました。そういうのって大事ですもんね。ではアリス先輩。またこの時間に」
「うん、必ず……」
そうして、考え込んでいるアリスを残し、レナードは魔法薬科教室を後にした。
この時のレナードには、この告白があんな結果になってしまうなど知るよしもなかった。
約束の日、レナードは、授業が終わると足早に魔法薬科教室へと向った。
「アリス先輩は……まだ来てないか……」
レナードは、部屋の隅にあるロッカーから自分の白衣を取りだし身に纏うと、冷蔵庫に置いてあった桃色のジュースらしき液体が注がれたガラスのコップを取りだしふぅと息を吐き椅子に座った。本来なら薬品を保存する場所なのだが、冷蔵庫の一角は、お菓子好きのアリスが買ってくる変な色合いのジュースがよく置かれており、自由に飲んでもいいと言われていた。
「先輩……」
レナードがゆっくりと目を閉じ、今までのことを思い返す。
始まりは半年前。親元を離れ、全寮制のステラ魔法学園に入学したレナードが課外研究という、授業とは別に行われる部活動のようなものをどれにするか迷っているときのことだった。
レナードのクラスメイト達は、飛行魔法や攻撃魔法、治癒魔法などの活躍の機会の多い華やかな魔法の研究を選択しているものが大半だった。
レナードも、そのうちのどれかを見学してから決めようと考えていた。そんなある時、治癒魔法科の教室を探していたレナードは、道を間違え、人気の少ない棟へとやって来てしまった。
「あっれー? 道を間違えたかな……この学園広すぎるよ……」
ステラ魔法学園は、千人をゆうに超える学生達が集う巨大な学校だ。そのため、校舎も広く、入学したての新入生が道に迷って授業に遅刻する、というようなことも度々発生するほどだ。
レナードがキョロキョロと周囲の様子を見ながら廊下を歩いていると、一つだけ明かりの点いている教室があるのを見つけた。
「ん? 誰かいるのかな?」
教室の中にいる人に治癒魔法科の教室の場所を教えて貰おうと、レナードが窓から室内を覗き込む。そして、息を呑んだ。
「ふふ、なるほど、こんな反応になるんだ!」
そこには、楽しそうにフラスコを振り、魔法薬を作製している女の子がいた。さらさらの金髪と、ころころと笑うその無邪気な表情。愛らしいその姿にレナードは心を奪われていた。所謂一目惚れというやつだった。
レナードが教室の扉をノックすると、中にいた金髪の女の子は、驚いたのかビクリと体を震わせた。
「し、失礼します。あの……ここは、何を研究している教室ですか?」
「え……っと。ここでは……魔法薬の……研究をしてるの……メンバーは私だけ……魔法薬の研究は地味でつまらないって不人気だから……」
女の子、アリスが突然現れたレナードを見ながらおどおどと返事を返す。
「あ、あの! 今年入学したレナードです! 僕を……魔法薬科に入れてください!」
それが、二人の出会いだった。それから半年の間。二人は少しずつ距離を縮め、打ち解けていった。レナードは、魔法薬の知識などほとんどなかったのだが、アリスが魔法薬のことを楽しそうに話すのを聞くうちに、気がつけば自身も魔法薬の研究を楽しんでいた。人見知りなアリスも、自分の話を楽しそうに聞いてくれるレナードが相手ならばいつからか、緊張せずに会話が出来るようになり、レナードの友人や家族がそうするように「レン君」と呼ぶようになっていた。
そして、レナードは知った。アリスは魔法薬に関して天才的な才能を持っており、独自の解釈や理論で様々な魔法薬を次々と作り出していたのだ。その発想力は独特で、日常においても斜め上の発想でレナードを驚かせることが多々あった。
「アリス先輩……まだかな……」
レナードがポツリと呟く。その直後、がらがらと教室の扉が開く音が響いた。
「レン君、遅くなってごめんね? 待たせちゃったかな……?」
「ぼ、僕も今来たところです!」
アリスの声が聞こえるだけで嬉しくなる。姿を見るだけで鼓動が早くなる。レナードは、アリスが今からするはずの告白の返事への期待と不安が混ざりあったなんとも言いがたい気持ちを胸に押し込める。
「レン君、実はあれから考えたんだけどね? ……あれ?」
レナードと同じように白衣を身に纏ったアリスが冷蔵庫へと向かい、首をかしげる。
「先輩、どうかしました?」
緊張でカラカラに口が渇いたレナードが、先程の桃色のジュースを一気に飲み干す。
「ねぇレン君。ここにあったガラスのコップ知らな……あっ!」
「あ、それなら飲んじゃいました……けど……」
レナードが空になったコップをアリスへと見せる。すると、アリスは指先をわなわなと震わせコップを指差す。
「それ……私がレン君に作った……あぁぁぁ!」
「え……?」
ドクン、と心臓が跳ねた。
「せ、先輩! ごめんなさい! 僕……知らなくて……」
ドクドクと心臓が大きな音をたてて加速していく。どうやら自分は先輩を困らせてしまったようだと全身に嫌な汗をかくレナード。
「レン君! それ……ジュースじゃなくて……」
そこでレナードが自分の身体の異常に気が付く。どうしてか、身体が異様に熱く、寒気もないのに震えが止まらないのだ。レナードがたまらず床へ座り込み、走り寄ったアリスがそれを支える。
「これ……何ですか……?」
「それは、レン君がもっと一緒にいられる時間を増やすために作ってみた物で……本当はレン君に聞いてから飲んでもらうつもりだったんだけど……」
「僕は……どうなって……」
危機的状況だと言っても差し支えない状況だった。しかし、何故かレナードに不安はなかった。今までアリスの作った薬をいくつも試してきたが、どれもが使用する人のことを考えられた素晴らしいものばかりだったからだ。
「レン君が私ともっと一緒に居たいって、何でもしますって言ったから……」
力が入らなくなったレナードの身体から煙が昇る。
「これ……身体が縮んで……え?」
レナードの口から聞きなれない可愛らしい声が聞こえる。
「なら、女の子になっちゃえば女子寮で一緒に過ごせるかなって……」
「え……えぇぇぇぇぇぇ!?」
身体の変化が落ち着いたが、まだ力が入らないレナードがアリスに支えられたまま自分の体を見る。
「こ、これは……」
先程まで着ていた男子用の制服はぶかぶかになっており、白衣に至っては袖から手が出ないほどになってしまっている。どうやら髪も伸びているようで、ボサボサだった金髪も背中に届くほどの長さになっている。そして何より、レナードの身長は明らかに低くなっていた。身長が150㎝程のアリスに後ろからすっぽりと抱き抱えられているのもその証明だろう。
「あぁ……レン君……いや、レンちゃん……可愛い!」
「ふわっ!?」
アリスがレナードを後ろから抱き締める。背中に感じる柔らかな感触と、肩越しに見えるアリスの顔にレナードの頬が赤くなる。
「前からクラスメイトの女の子達に言われてたの。レン君のこと弟みたいだーとか。それでね、レン君が一緒にいたいって言ってくれたときに思い付いちゃったの! レン君が妹になったらもっとくっついたり出来るって!」
アリスに頬擦りされながら呆然とするレナード。そして振り返るのは自分の一世一代の告白のこと。
「あぁ……そういえば……」
"僕は……先輩ともっと近づきたいです!"
"僕は先輩と今よりもっと一緒にいたいんです!"
"はい、本気です。僕は先輩のためだったら何でもします。だから……!"
「レンちゃん! これからもっともっと仲良くなろうね!」
「彼女になってください、付き合ってくださいって……言ってなかったなぁ……ははは……」
それから身体を満足に動かせるようになるまでアリスに愛でられ続けたレナード。アリスに解放され、立ち上がると同時にサイズが合わなくなったズボンとパンツがずり落ち、何もなくなったつるつるのそこが見え混乱するという事態もあったが、なんとか白衣で身体を覆い隠したレナードが涙目でアリスを見上げ、アリスがその破壊力に「うっ!?」とよろめく。
「で、アリス先輩。元に戻る薬はどこなんですか?」
「え? もう一度同じ薬を飲めば戻れると思うけど……飲んだら死んじゃうかな……」
衝撃の事実にレナードが凍りつく。
「それ……どういう……」
「あのね? さっきのお薬なんだけど、身体から抜けるのにすごく時間がかかる成分が致死量すれすれで色々と入ってるから続けて飲んだら死んじゃうかも……」
「つまり……?」
「これから、私とずっと一緒にいようね! レンちゃん!」
今まで見たことがないようなアリスの笑顔。それを見たレナードは思わず。
「う、うん。よろしくお願いします」
と、頷いてしまうのだった。
それからアリスとレナードは学園の教師達の職員室へと向かった。事情の説明のためである。当然教師達は大騒ぎとなった。前代未聞の性転換薬と、それを飲んだ男子学生。それをどうするかで会議が行われることとなったが、明日また決定を伝える、とアリスとレナードは寮で待機することとなった。ただし、女の子になってしまった上に服すらないレナードを男子寮に帰すことは出来ないと、レナードは一時的にアリスの部屋に泊まることになってしまった。
「私の部屋に案内するね。二人部屋なんだけど、今一人で使ってたから丁度いいね!」
「は、はい」
ステラ魔法学園の敷地内には、校舎を挟んで東と西にそれぞれ大きな寮が立っている。レナードはアリスに手を引かれるようにして男子禁制の女子寮の中を歩いていた。女子寮を手を引かれながら歩くぶかぶか白衣の幼女となってしまったレナードは気が気でなかった。なにせ、白衣の下は全裸なのだから。
(み、見ないでぇぇぇぇ!)
白衣の下は全裸なのだから! そうしていると、アリスの知り合いらしき女の子がアリスへと近づいてきた。
「おかえりなさい。アリス、その子どうしたの?」
「ただいま。この子は同じ魔法薬科の」
「わぁぁぁぁぁぁ!!」
アリスがあっさりと正体をばらしそうになり、レナードが慌ててアリスの口を押さえにかかる。胸の前で白衣が落ちないよう握りしめていた手を使って。
アリスの口元にべちんと張り付く二つの小さな手。
もごもごと言いながら目を白黒させるアリス。
大慌てで正体を隠したいレナード。
レナードの身体から舞い落ちる白衣。
白衣の下から現れる一糸纏わぬ小柄な身体。
突然の事態に混乱する女子寮の生徒達。
控えめに言って事件だった。
「ア、アリスが幼女を拐ってきたあああああああああ!」
女子寮に大声が響く。
「ち、違うの! これは! もごむぐむむ……」
「助けてぇぇぇぇ!」
正体をばらされたくないとアリスの口を必死に押さえながら混乱するレナードが叫ぶ。だが、この状況では逆効果でしかなかった。この騒ぎは、事態を聞き付けた寮の管理人が学園の教師達に連絡を取り事態を把握し、アリスとレナードを部屋に送り届けるまで続くのだった。
「「ひ、酷い目に遭った……」」
なんとかアリスの部屋に辿り着いた二人が同時に項垂れる。なお、衆人環視の中、全裸を晒してしまったレナードに至っては目が完全に死んでいた。そんなレナードにアリスが告げたのは。
「じゃあお風呂に入ろっか?」
「……ふぇ?」
レナード再び固まる。
「お風呂って……いやいやいやいや先輩!? どうすればいいんですか!?」
「ふふ、色々わからないよね、一緒に入ろうか?」
アリスがぐいっとレナードに近づく。レナードが女の子になってからというもの、アリスはやたらとレナードに近づくようになっていた。
「アリスお姉ちゃんに任せて!」
完全に妹扱いだった。レナードの一世一代の告白。それは、レナードがアリスの妹にされるという結果になってしまったのだった。
「こんなはずじゃなかったんだけどなぁ……」
レナードの中で描かれていた、アリスと恋人同士になるという淡い想いがガラガラと音を立てて崩壊する。逆に、一人っ子だったアリスは、これから始まる可愛い妹との日々に心を踊らせる。
あれよあれよという間に部屋に備え付けのお風呂に入れられ、密着してきたアリスにレナードがのぼせかけたり、「準備しててよかった!」と、アリスが昔来ていた服と新品の下着を着せられたレナードが再び混乱するなど、大騒ぎを続けた末に寮の管理人に正座させられてお説教を受けたりと、密度の濃い時間を過ごしたレナードはすっかり疲れきっていた。
「つ……つかれたぁ……」
可愛らしいふりふりのパジャマを着せられたレナードがパタリとベッドに倒れる。
「……アリス先輩の匂いだ」
枕からほんのりと香るアリスの髪の匂いにドキリとするレナード。そして気がついた。
「あれ!? ベッドがひとつしかない!?」
「うん、そうなんだ。だから今私が一人で使ってたんだよ」
「僕はどこで寝ればいいですか?」
不安げにレナードがベッドから身体を起こす。
「えいっ!」
「わぷっ」
アリスがレナードをベッドに押し倒し、そのままレナードを抱き締める。
「一緒に寝ればいいよ!」
「あわわわわわわわわ……」
アリスがそのまま自分とレナードに布団をかけ、部屋の照明を落とし、レナードの耳元にそっと囁く。
「レンちゃん。これからよろしくね?」
「よ、よろしくお願いします……」
ある意味告白は上手くいったのかな。と、複雑な心境のレナードなのだった。
TSして妹にされちゃうのっていいと思うんです……
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