ロングソード+4
生贄としてダークエルフにさらわれた巫女姫は『風の騎士』率いる救出部隊によって救われた。
ダークエルフは討伐され、妖魔の部族によって奪われた品々は持ち主が証明出来るものは長い時間を掛けて持ち主の元へと戻り、持ち主が定かではない、あるいは証明が困難なものは競売に掛けられた。
競売によって得られた資金は街の代官が預かる公金となり、一部が被害者の救済に当てられる。
ロングソード+3の持ち主は妖魔と闘った隊商の護衛の一人である魔術師、この地域を支配する公爵の三男だと証明されたものの、彼は己の愛した女を奪った妖魔、その指導者たるダークエルフによって手を加えられたロングソード+3を激しく嫌ったため、この名剣は公爵の三男への少々複雑な配慮を経たのちに一般には非公開の競売に掛けられる事になった。
ロングソード+3はその鋭い切れ味以上に刀身に刻まれた魔紋が奇貨であると判断されて商業および学術機関の上層部からひそかに注目を帯び、鍛冶ギルドと魔術師ギルドによる壮絶な競り合いの末に落札を果たしたのは魔術師ギルドであった。
この街で魔術を学ぶには王族にして大賢者たる『魔眼破り』が創設した学院に通うか、魔術師ギルドに徒弟として加入するかである。
魔術師ギルドの若き天才『煮える黄金』はこのロングソード+3が落札されたと知るや己の持てる権力をなりふり構わず駆使して三か月間の専有的な研究期間を誰よりも早く得る事に成功した、しかし『煮える黄金』は三か月間では全く満足していなかった。
彼女はギルドにも秘匿している工学魔術を駆使してロングソード+3の偽物を作りだし、意図的に破壊して実験に失敗したと報告をする。
激怒したギルド上層部から無期限の謹慎を言い渡された『煮える黄金』は意気揚々と自宅にてロングソード+3に刻まれた魔紋技術の解析を行う。
さしもの『煮える黄金』も今回の研究には時間が掛かり、在宅での作業に限界を覚えるや否や謹慎中の身の上も気にせずに冒険者として活動を始め、熟練した冒険者も避ける上級妖魔が関わる依頼をも積極的に引き受け、日々の活路に研究の突破口を探す事にした。
孤独を好む『煮える黄金』は己ひとりでの戦いに生きる中で魔術だけでは我が身を守り切れぬと悟り、自ら剣を振るうようになる。
六年の歳月の果てに『煮える黄金』はロングソード+3を扱う戦士としての激戦の渦中に真実を見出した。
ダークエルフの魔紋とは剣の切れ味を鋭くするだけの魔化技術では無く、剣を扱う動作やその精神、周囲の精霊力との感応など複合的な要因が絡み合ってこそ真価を発揮する、戦士のための秘儀であったのだ。
長年の探求が報われ、溢れるほどの歓喜が『煮える黄金』の全身にたぎったが、同時に全てを解き明かすには時間が足りない事に若干の不満を抱く。
目の前に居る敵はドラゴン、しかも千年以上を生きる古龍種と思われる強大な個体。
魔紋の真実を解き明かす為に踏み込んだのは完全なる死地であった。
『煮える黄金』は戦士、そして魔術師としての己の全ての戦闘技術を載せた剣戟の一閃をドラゴンに向かって放ち、彼女はそのあだ名の由来でもある輝くような髪の一房を残してドラゴンが噴き出した灼熱のブレスの中に姿を消した。
ドラゴンは瞬く間に終わった戦いにフンと鼻を鳴らしたが、同時にか細い人間の女が単独で、自分の身に数百年ぶりの傷を残した事に内心で驚きを覚えた。
ドラゴンは自分の身を刺し貫いた剣を引き抜き、真新しい血に塗れたロングソード+3をしげしげと眺めたが、己のコレクションにするにはまだ剣が刻んだ歴史が若いと判断した。
だがしかし、健闘は称えねばなるまいと、ドラゴンは龍言語による魔術を行使して我が身を傷付けた強き戦士と名剣にドラゴンの祝福を与えようと決める。
この戦士は死力を尽くして戦った、『復活』の魔法では違うなと感じたドラゴンは『輪廻転生』の魔術を死んだばかりの『煮える黄金』の魂へと唱えた。
剣に対しては、ドラゴンの血と灼熱のブレスで刀身に帯びた古龍の魔力を恒久的なものとして付与する。
ドラゴンの祝福によってロングソード+3はロングソード+4となった、この名剣はドラゴンが最古の古龍種で無ければドラゴンキラーと呼ばれていたかもしれない。




