5―雑貨屋に住まう者たち
「危なかった……頭上から氷柱を連放しやがるとは」
まさか雇い主が俺ごと消そうとするとは……逃げ出すのが少しでも遅れていたら巻き込まれていただろうぜ。雇い主の蛮行も大概だが、それ以上にアイツの冷たい眼、続けていたら確実に俺を斬り殺す眼だった。
「ははっ。膝が笑って走れねえぜ」
逃げるのに必死で丘から転げ落ちてしまうとはな。
それにしても何者なんだあの男は。俺の剣を紙一重で躱したと思えば次の瞬間には剣刃が宙を舞っていた。
刃元から先の無い柄だけになってしまった剣を見ると、あの男の持つ剣の切れ味がどれほどのモノだったのか容易に想像がつく。
いや、斬れ味だけじゃねえよな。まったく……自信を失くしちまいそうだぜ。
「転げ落ちたのが草原側で助かった。荒野側なら岩に頭でもぶつけちまうとこだ。それにしても、奴らはどうなったんだ?」
転げた先から丘の上を覗き見上げたが、丘の中腹からじゃ丘の上はよく見えない。あの男と奴隷の子供は死んだのか?
頭上に魔法陣が見えて逃げ出した直後、放たれた氷柱があの男の繰り出した結界に直撃するのが見えたが、舞い上がった土煙で確認しようがないな。
「ようやく晴れてきたぜ」
立ち込めた土煙が徐々に薄れ、視界がはっきりとしてきた。
生きてるじゃねぇか! エミーラと言葉を交わしているようだが、この距離じゃ聞き取れそうにないか。ん? 雇い主を残して帰る気か? どうやらエミーラはここを離れる気らしい。あいつの事だ、移動障壁にでも乗ってのんびり街に帰るんだろう。羨ましいぜまったく。
まあ当然だよな、あんな化け物と殺り合うなんていくら報酬を積まれようがこちらから願い下げだ。奴隷にした魔族の子供を探すだけのちょろい依頼だと思っていたが、あんな男が一緒とは……俺も帰りてえ。
ここなら大丈夫だろう。少し離れた場所だが、ここからならよく見えるな。なるべく音を発てないように忍び足で移動しようとしたが、震える膝のせいでふくらはぎを攣りそうだ。まったく……ようやくあの男の後方まで移動し、安全な距離を確保しつつ丘から顔を覗かせていた。
「魔術師も帰ったようだが、まだ殺るのか?」
物騒な会話が聞こえるな。それにエミーラは魔法使いだ。魔術師とは何の事だ? 身形も珍しい格好をしているし、ここいらの人間じゃなさそうだな。
「殺るのか……だと? 当たり前だ。私の玩具を還してもらおう」
「もう奴隷紋は消えている。ロロアはお前の玩具ではない」
「それに大金を払ったのは私だ。元をとるまでは私の玩具だよ。だが気が変わった。お前を殺した後、さらに重い呪いを掛け傀儡として一生を過ごし惨めに死んでいくといい」
雇い主のやつ、まだあの男と戦うつもりなのか。エミーラもいなくなったと言うのに、どうして貴族様ってのは、ああも自信に満ちているんだか……
「そうか。お前が刻んだ奴隷紋に今だけは感謝するよ。発動した隷属魔法でロロアは気を失ったようだ。優しいこの子のことだ、お前みたいな下衆でも意識があれば許してやると言い出すだろう……。お前にはロロアが受けた苦しみ以上の苦痛を与えてやる」
あの男は抱きかかえていた奴隷の子を傍らにそっと置くと、掌を眠る子供に向けて何かの魔法や能力の類を発動させていた。どうやらあの子が巻き込まれないよう新しい結界をかけたようだ。何層にも展開された結界なんて初めて見たぜ。ありゃあ能力と呼ぶには高度過ぎるな。
魔法だとしても何なんだあの魔法は、今の結界もそうだったが雇い主の魔法を防いだときも詠唱をしていなかった。無詠唱で魔法を扱える奴なんか聞いたことがないぜ。
「魔導具を使っている様子もねえし、どうも腑に落ちないぜ」
前触れも無く突然始まった戦い。それは瞬きする間の出来事だった。
雇い主が詠唱を唱え始めたと同時に、あの男は剣を鞘から滑らせながら地面を蹴り上げた。互いに十分な距離を取っていたはずなのに、杖がカタンと音を発て地面に落下すると、杖を握っていた雇い主の肘から先がべしゃりと嫌な音を発てて地面を叩いた。
流れ出た血で血溜りが出来上がっていく。
速すぎて見えなかった。
瞬きをする間もなかったぜ。いつ斬ったんだ……
「ふぁ?」
雇い主にも何が起きたのか理解できてねぇようだ。ただ斬り落とされた肘から先を見てようやく理解したのか、切り口を止血するように握り絞めながら悶絶し始めた。
無理もない。誰だって腕を落とされれば身悶えるだろうぜ。
発狂して悶える雇い主を見ても、顔色ひとつ変えずに顔面を鷲掴みにし勢いよく地面に叩き付けた。その背中は狂気を纏っているようだった。
「狂ってやがる」
奴が始めた闘いとは一方的な暴力。平然と揮われ始めるその暴力に終わりを感じなかった。この時、俺は観戦しようと覗き観ていた事を後悔した。これは闘いと呼べるものではない。
あの男は残ったもう片腕に剣を突き刺し地面に固定し抗えなくすると、馬乗りになったまま無抵抗な雇い主に拳を何度も振り下ろし始めた。
「ただ殴るだけか! ぶはっ! 殴るしか能の無い無能が! ごぶぁっ」
「……」
拳の一発や二発のうちは、雇い主も威勢よくあの男を愚弄するような言葉を吐き捨てていたが、無言で振り下ろされ続ける拳に、雇い主の声が徐々に薄れていくのがわかった。
「その、てい……どか。 びゅばっ」
「……」
ついに月明かりに照らされている丘の上で、雇い主はピクリとも動かなくなった。どうやら気を失ったようだ。ここからでは距離があって聞き取りにくいが、気を失った雇い主に拳を振り翳したまま男が何か言っている。何を言われようが黙って殴り続けていた男が。
「腕を斬られ、突き刺された程度でなぜ気を失っているんだ?」
俺でもあそこまでされれば気を失ってしまうだろうよ。あの男は振り上げていた拳を無防備な雇い主に振り下ろすと、べちりと肉が潰れる嫌な音がした。
気を失っている事を知りながら続行される暴力。その拳は雇い主が意識を取り戻すまで振り下ろされ続けた。
「ごえいじょ……やべっ、やべお。 じ……ずぞ」
無理やり覚醒させられた雇い主が何を言っているのか見当がついた。たぶん「これ以上は止めろ。死ぬぞ」と言いたかったはずだ。
本当なら俺がそう言って止めに入るんだろうが……行きたくねえッ!
あんな狂った奴に背後から近寄ったら絶対斬られちまう。
「……」
雇い主の言葉が耳に届いているんだろうが、黙ったまま聞く耳を持たず拳を振り下ろした。するとようやくあの男が口を開いた。
「誰に命令している。お前の命は俺の気分次第だ」
あれだけ傲慢な態度を執っていた雇い主も、男の言葉でようやく自身の立場を理解したらしい。
「ずびばっ、がはっ。やべっ、ぶぅあ」
すいません。止めて下さい。そう言おうとしたのだろうが遅すぎる。落とし処の無いこの状況では、本当に死ぬまで続けられそうだ。
「意識がある間は「わん」と鳴いていろ。鳴かなくなったら次は目を覚ますまで刺し続けてやる」
ハッキリとは聞き取れなかったが、あの男が何か呟いてからは拳を振り下ろす度に犬のように「わんっ」と聞こえてくる。
それは数分にも満たないことだったが、すぐに雇い主の声が消えた。雇い主はまた気を失ったみたいだ。だが、あの男はまだ何かする気でいる。
その時はすぐに訪れた。
「もう言葉も口にできないのか。それとも死んだか? どうだ? 甚振られる感想は?」
あの男は立ち上がると、雇い主の腕に突き刺さっていた黒い剣を引き抜いた。
「これも甚振る側の責任だ。死んだかどうか確かめないといけないだろう」
そう言うとあの男は、肉に串を通すように、なんの躊躇いもなく気絶している雇い主の太股に剣を突き刺した。
「非情すぎるぜ……」雇い主は本当に気絶していたのだろう。腕に刺さった剣を抜かれて声を荒げない者なんていないだろうからな。
そして刺された激痛に目を見開いて口をパクパクさせた。突然全身を駆け巡るような痛みで覚醒したのだと見て取れた。声は掠れ、もう言葉を話せないほどに変わり果ててしまっている。
「続けるか」
あの男に……人の心はないのか。
また暗闇にベチリとイヤな音が響き、俺はその音に耐えられなくなり、両手で耳を塞いだ。そのまま丘から覗かせていた顔を引っ込めるように、俺は蹲って時間が過ぎるのを待った。
終わったのか? 少しして何も音がしなくなった。見るとあの男は、拳から血を滴らせながら立ち上がっていた。
「そこにいるんだろ?」
は? 俺のことか?
男は振り返らずにいっていた。どうやら俺の存在に気づいていたようだ。俺はあの男に敵意はないことを示すために、両手を軽く上げながら丘から姿を見せた。
「【探知察知】で確認できていた」
探知察知? なにを言っているんだ。魔法か能力の事か? そんな事よりも今は戦う意志が無い事ハッキリ伝えよう。痛いのはイヤだからな!
「俺はこれ以上あんたと戦う気なんかねぇよ。それよりも、その奴隷の子は生きているのか?」
「聞こえてたんだろ? 気を失っているだけだ」
ははっ。この男にはなんでもお見通しってか。
「俺の雇い主は生きているのか?」
「あぁ、心配ない。見た目は酷いが命に別状はないだろう」
先ほどまでの激昂していた様子とは違い、落ち着いた雰囲気をしている。その姿に俺も自然と安堵しながら、倒れている雇い主に視線がいった。
これで命に別状ないとは言い切れないだろうぜ……
「そうか。ところであんたの使っていた魔法は無詠唱だったが、もしかして固有能力ってやつかい?」
魔法でも能力でも無いなら、あと考えられるのは先天的に生まれ持っているユニークスキルぐらいしか思い至らなかった。
「お前には関係のないことだ。それよりもコイツに回復系のアイテムや魔法は使うな。自力で回復させろ」
他人の固有能力を詮索するのは野暮ってもんだよな。
「なぜダメなんだ? もう片はついたんだろ。回復ぐら――」
俺の言葉を遮るように鋭い眼光が向けられた。全身に寒気がして鳥肌が立つ。気圧されるとはこういう事なんだろうぜ……
「わ、わかった。言うとおりにしよう」
おっかねぇ男だ。睨まれただけで怯んじまった。
「ひとつ尋ねたい。この国では他人の奴隷を勝手に連れて行くとどうなるんだ?」
「奴隷は主の所有物として扱われているからな。盗みとかわらないんじゃねぇか」
そう口にすると、男は肩から提げた鞄の中に徐に手を入れて、短く細い白の鞘に収まった鍔の無い一本の短剣を取り出した。握る短剣に別れを告げるような目を向けた後、視線を俺の方へ戻しその短剣を差し出してくる。受け取っていいんだろうか? 俺はそう思いながらも両掌を前に差し出しその短剣を受け取ってしまった。
久しぶりに緊張した。無意識に両手が出て腰が低くなってちまったぜ。それにしてもこれは驚いた。複数の魔法が付与された武器とはめずらしい。
【鎧刺し】【首切り】【腹切り】か。俺の知らない魔法ばかりだ。魔法って感じでもないような気がするが、三つも付与されているんだ。変な魔法であろうと価値はあるだろうぜ。
「持ち合わせがないんだ。ヤツが奴隷商に払った代金の代わりとして現物支給でもいいのだろうか」
この男はわかっているのか? 複数の【魔法付与】が施された武器は貴重なんだがな。使用された素材ランクによって付与できる数は限られる。ひとつの魔法付与さえ使用される素材はCランク以上。つまり、これは少なくともAランク以上の素材で打たれた短剣という事になる。
こんな上等な剣を奴隷一人の値段と天秤にかけるとは……金持ちか!
「これなら問題ねぇはずだ。十分すぎる値がつくだろうよ」
十分過ぎる。間違っていない。この剣、国宝級にも匹敵する代物だぜ? 本当にいいのかよ……王様に差し出せば爵位に領地付きだろうぜ?
「そうか。ならヤツが目覚めたら奴隷商に支払った代金として、代わりに渡しといてくれ」
男はそういうと、気を失っている少女を抱きかかえ暗闇の中へと消えてしまった。男の姿が見えなくなり、俺は雇い主のもとに近寄り止血を施そうとしたが、どうやらあの男が手心を加えたらしく、止血だけは施されていた。
「こんな状態でもまだ生きているんだ。あんたも大したものだよ」
◇◇◇
「店先の掃除は済んだかい?」
ここは街から離れた森の中にある、小さな雑貨屋。
古の遺物から日用品、冒険者御用達のポーションや魔道具まで、ありとあらゆる品々が店内には置かれている。
「おわったよ、まどもふきふきしたよ。きょうはおきゃくさんくるかなー」
「どうだろうね。店も開けたしお茶にしようか」
開店したばかりで店の奥へと姿を消す二人。どうやら主達は冗談ではなく、ほんとうにティータイムをとっているようだ。
いつものことだが。
「先日美味しいお茶が手に入ったんだ。今日はそれにしよう」
店の奥からはマスターの声が外まで漏れ聞こえている。私のマスターは一人でこの雑貨屋を営んでいた。今は幼い少年を迎え入れ、日々楽しそうに暮らしている。
これはある日の事。普段はあまり出掛ける事ないマスターだが、その日は外出したい気分だったのか、私に店の留守を任せてどこかへと出掛けてしまった。陽も暮れてしまい帰りの遅かったマスターは左側に黒い羊の角を一本だけ生やした、みすぼらしい姿の子供を連れ帰ってきた。
その子供は胸に奴隷紋を施されていたようで、マスターは店の中に入るなり子供との奴隷契約の破棄を行なった。隷属魔法のような愚法を平気で行使する人間共とは違い、連れられてきた子供は三百年程前に人族と争った魔族だった。それに気づいた私はマスターに奴隷契約の破棄をしては危険だと忠告したが、マスターは「心配はいらないよ」の一点張りだったのを思い出す。
「今日はいつもより帰りが遅かったけど、何かあったのかい?」
「ただいまマスター。森の入り口に兵士が集まってた。確認出来ただけでも八人は居た」
「また来てたのかい。断っているのに、しつこい人たちだね」
魔族の子供がきてから三月ほど経つが、どうやら私の杞憂だったようだ……むふー。
そこそこ、お腹は自分じゃどうしようもなくて。
「おかえりらっく。あさごはんたべる? おなかなでなでつづける?」
お腹はやめろ! 今はこの様な小犬の姿だが、これでも大賢者の使い魔なんだ。
「もう少しだけ」
はふー。誘惑に負けてしまった。帰るなり私を床に転げさせると、手馴れた手つきで私の整った綺麗な毛並みを撫で回してくる。
「でもごはんは、ちゃんとたべなきゃ」
やめるなら聞くな! 私がお腹を撫でてくれと、床に転がっておねだりしたようじゃないか。
「はい、らっく。きょうのあさごはんはたまごがいっぱいだよ」
なぜ私だけゆで卵オンリーなんだ。散歩の前に見たのだ。厚切りの燻製肉にたまごを落とすマスターの姿を!
何食わぬ顔で帰宅したが、朝食は厚切りのベーコンエッグだと心躍らせていたというのに。
「マスター! 私の厚切りベーコンは何処へ!」
「ごめんねラック、うっかり胡椒を振りかけてしまってね。以前に犬は香辛料を加えた物を食べさせると体調を崩すと聞いて、それを思い出したんだ。でも無駄にはできないから僕がかわりに美味しくいただいておいたよ」
ガーン!!!
なにから突っ込めばいいんだ。そもそも使い魔になってから三百年は経つと言うのに、今まで共にした食事はなんだったんだ。
いや、それよりも私は犬ではない! 私は灰色狼だ。狼の祖と言われている古代狼に次ぐ誇り高き狼なのだ。まあそんな事は今はどうでもよいか。まずはマスターの誤解を解かなければ今後の食事は素材の味しかしない茹でた何か――になってしまう危険がある!
「マスター、以前に聞いた話とはいつのことですか?」
「どうだったかな。数十年ほど前だったような」
「昨日は何を食べましたか?」
「昨晩のスープは絶品だったね。甘い玉葱に口の中でほろほろとほどけるお肉はとても美味しかったよ」
「犬は玉葱も香辛料もダメですが、私は誇り高き灰色狼です。それにこの三百年、変わらずにマスターと衣食住を共にしているのですよ。なにを今さらな事を言っているのですか」
「んー。言われてみるとそうだね。そうだ、蛇尾の鶏のお肉がまだ余ってたはずだよ。
今日の晩御飯はラックの大好きなバジリスクのから揚げにするから許してくれるかい?」
「そこまでして頂けるのなら仕方ないですね」
ほんと、私のマスターはどこか抜けている。落ち着いた様子と言えば聞こえはいいが、物事に無頓着過ぎる傾向があるのだ。
「らっく、しっぽぶんぶんよろこんでる」
おっと、誇り高きこの私が、から揚げにつられ尻尾を振ってしまうとは。
「きょうはまちにいってみていい?」
トトは街に向かいたいと店にきてからずっと言っている。親はすでにおらず、唯一の肉親は居所がわからなくなった双子の姉しかいないらしい。心配して当然だろう。
「僕が探しているからもう少し時間をくれないかい?」
「でも……ぼくもさがしにいったらダメ?」
マスターと二人、お茶を啜りながら毎日のようにこの会話をしている。時間が経つほどに焦る気持ちが増していっているかのようだ。
「必ず探し出してみせるから、僕を信じてくれないかい?」
「……わかったよ」
トトはお茶を一飲みして、店の方に姿を消した。
いったいトトの姉はどこに消えたのか。町に居るのなら魔族が居ると噂が立つのはマスターでも理解しているはず。それでも噂のひとつも無いと言う事は、どこか遠くに連れて行かれたか、はたまた……
マスターが何を考えているのかわからないが、何か考えがあって動かないでいるのかもしれない。ずっと何かを待っている。私の目にはそんな風に見えてならないのだ。マスターの顔を覗き見ながら、私は積まれたゆで卵にかぶりつく。
「マスターならすぐに見つけられるのでは?」
「僕にもできる事とできない事があるよ。今は何の情報もないんだ、待つしかないよ」
「やはり何か考えが?」
「考えというほどの事じゃないよ。道に迷ったときはそこで待つのがいいと言うからね。今は待つ時なんだよ……きっと」
いつまで待つつもりなのか、もうトトがきて三月。人が立ち寄る気配もないこの店で、いったい何を待っているんだろうか。