6 [皆で料理・異世界の生活水準は?]
「このレシピで食べたい物はあるか?」
出来上がりの絵が描かれている手書きの料理本を、ロロアとトトに見せてみると、どれも食べたいのか「これもたべてみたい」「こっちのも美味しいそうだよ」と、二人はどれにするか迷っている様子で、なかなか決まらないようだ
二人が悩んでいる間に、フォールは作れなかった料理について問いかけてきた
「僕は肉や馬鈴薯を使った煮込み料理を作ってみたいんだけど、あれはどうすれば作れるんだい?」
「肉と馬鈴薯を煮込む・・・肉じゃがの事か」
「カザミの文字は読めなくて、よくわからないんだよ」
「そうか、たぶん肉じゃがの事だと思う
あれは醤油という調味料が必要なんだが、俺は持ち合わせていないんだ」
「しょうゆ? 町には置いていないのかな」
「あぁ、調味料を見て回ったが置いていなかった」
「それは残念だね、カザミはその醤油を作れないのかい」
「俺も作れるなら作りたいが、生憎、醗酵調味料の類には疎くてな」
「そっか・・・残念だけど諦めるしかないね」
「すまないな」
俺も醤油や味噌がこいしいよ、刺身も醤油なしで食う事になるんだろうな
「目玉焼きと言う呼び方は私達と同じだから、探せばどこかの国にあるかもしれない」
話を聞いていたラックが、妙に的確な指摘をしてきた
「そういえば、呼び方が一緒なんだな
でも肉じゃがは知らないんだろう?」
「しらない、ベーコンエッグはわかる」
「え? ベーコンエッグわかるのか」
「うん」
「パスタは?」
「しってる」
「らーめんは?」
「しらない」
「ステーキは?」
「しってる」
「焼肉は?」
「しらない」
「ピラッ」
「しつこい」
ピラフって聞こうとしたが、ついにラックに怒られてしまった
なんとなくだが、わかってきた気がする
洋食は同じなんだ、そして肉じゃがみたいな和食や、ラーメンのような日本でリメイクされた料理は知らないという事だ
そうか!だからギルドの酒場でもオムライスはなかったのか、あれは洋食だが発祥は日本・・・つまり、和食や和製洋食は存在せず、洋食文化一択と言う事だ
なんとなくだが、こっちの食文化は理解できた
でもそれなら固いパンは腑に落ちないな・・・
中世の頃にはふわふわのパンだったはずだ、フランスのような固いバケットは、中はそこまで固くない
まだ醗酵という概念がないのだろうか
いや、それならブドウ酒があるわけない
単にパンは固いと定着してしまったと考えるのが妥当・・・考えても仕方ない、いずれ分かってくるだろう
「これにする」
「ぼくもこれ」
二人は、ようやくどの料理にするか決まったようで、食べたい料理のページを開いて見せてきた
それに伴い、俺の思考は食文化から昼食の準備へと回帰した
「二人ともハンバーグがいいのか」
双子「うん!」
「ラック、ハンバーグは?」
「怒っていいのか」
さすがにイライラしているようで、尻尾の毛が逆立っている
「・・・冗談だ」
双子の二人が知っているぐらいだから、一般的な料理なんだろう
「フォールはどうする」
「私はから揚げ」
「ラックのもちゃんと作るから」
忘れられてはいないかと、再度リクエストをしてきた
「僕の知らない料理が食べてみたいんだけど、できるかな?」
「さすがに和食は無理だな」
「やっぱり醤油なんだね・・・」
「あ、あぁ・・・」
そんな気を落とすなよ、ラックの言うように、どこかの国にあるかも知れないんだから
俺だって醤油が見つかるまでは、すき焼きとか食えないんだ・・・
「それなら僕も二人と同じ物でいいかな」
「ハンバーグでいいのか」
「そうだね」
「私は」
「から揚げだな」
「ふむ」
しつこい小犬だ・・・
「よし、大きめのテーブルを用意するか」
俺はいつもの鞄からお決まりのテーブルを取り出し、キッチンに置き、冷蔵庫を開けて中を確認した
「へー、意外に食料を買い溜めているんだな」
「この箱、便利だよね」
「どんな構造をしているんだろうな」
「え? カザミが作ったんじゃないのかい」
「これ、家具オブジェクトだったからな」
「おぶじぇくと?」
「いや、まぁ買い取った物って事だ
店にある箱、これと一緒で冷蔵庫なんだが、そっちは俺が自作したやつだ」
「そうだったのかい
この凍らせてしまう冷蔵庫というのは、まるで氷の国の氷壁を見ている気分だよ」
隣に置かれた冷凍庫の中を覗きながら、口にするフォールの言葉に、マンモスが氷壁の中で凍っているやつだろうか・・・と考えてしまった
ほんと、そういうとこはファンタジーだよ
「そっちは冷凍庫だな、食材を長期保存するために凍らせているんだ
さぁ、チャチャッと作ってしまおう」
テーブルに材料を並べ、ロロアには、そろそろ簡単に作れるお手軽デミグラスソースを一人で作ってもらおうと考えていたのだが、トマトケチャップやとんかつソースなど、そういった加工品はないんだった・・・
こっちの調味料は塩や砂糖に胡椒など、加工されていない物ばかりで、俺の鞄の中にも加工された調味料の類は入っていない
VRでは実装されていたのだが、単にきらしていただけだ、一生分でも買い込んどけばよかった・・・
「皆ハンバーグは何をかけて食っているんだ?」
「なにもかけないよ」
いつもの様に、椅子の上にのって皮むきの準備をしていたロロアが応えてくれた
「そうなのか・・・とんかつソースは俺の知っている作り方なら醤油が必要なんだよな
トマトケチャップなら作れるが、作ってみるか?」
「とまと? とまとおいしいの」
「ならロロアにはトマトケチャップを作ってもらおうか」
「がんばる」
むふーっと鼻息を漏らし、やる気は十分のようだ
「ならトトには、ハンバーグに添えるポテトサラダに使うマヨネーズを頼もうか」
「マヨネーズ?」
「そうだ、簡単に作れるから、二人ともフォールの言うとおりに作ってくれ」
双子「わかった」
ほんと二人は時々、息ぴったりだな
さすがは双子だと、感心してしまう
「僕はトマトケチャップもマヨネーズという物も知らないだけどね」
「それなら大丈夫だ
ここに書いてあるから、これを統一文字だったか?
俺が言う通りに翻訳してくれればいいだけだ」
「なるほど! それなら僕でもできるね」
さっそくフォールは一枚の紙と、小さな小瓶に入った黒いインク、それに鳥の羽を引き出しから取り出し、トマトケチャップとマヨネーズの作り方の翻訳に入った
俺は料理本を見ながらフォールに口頭でレシピを伝え、フォールはスラスラと書き写していく
「トマトや卵をこんな使い方するなんて、よく思いついたね」
「俺が考えたんじゃないんだがな」
一応、一言付け加えておいた
「さっそく二人と作ってみるよ」
大賢者と名乗っていた人物が、尽きない探究心に目を輝かせソワソワしている姿に、思わず笑いそうになった




