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不思議な感覚で目が覚めた。
何か、匂いがする。
「おはよう優希!。」
「...。」
寝不足だったおかげか深く眠っていたらしく頭が回らない。
「気分はどう?、ご飯食べれる?。」
ご飯...ああ、この匂いは料理の匂いか。何年ぶりだろう目が覚めた時に食事が用意されているなんて。
「大丈夫?。」
心配そうな表情で、アンドロイドが私の額に手を当ててきた。
「なに、してるの?。」
「元気がないから、熱があるのかなって。」
「寝起きだから...。」
「あ、そっか!。」
アンドロイドがあどけない表情で笑ってみせた。少しアホっぽい。変なやつだと思った。
体を起こし寝室から出ると、リビングの机に朝食が用意されていた。
トーストにサラダ、オムレツやスープもある。出来立てなのかまだ料理からは湯気がたっている。
「...。」
「一緒に食べよう。」
アンドロイドに促され椅子に座る。コップに牛乳を注ぎ終えると、アンドロイドが向かいの椅子に座った。
「いただきまーす!。」
「いただきます...。」
恐る恐る食べてみると、美味しい...。
食事を、美味しいと感じるなんて久しぶりだ。
普段1人でいると、作ったり食べたりする事自体が面倒くさくて適当に済ましてしまいがちだったせいだろうか。
温かいご飯を作ってもらえたことが、少し嬉しく思えた。
向の席のアンドロイドに目を向けると、私はギョッとした。
「ちょっと!、何やってんの!?。」
「え?。」
アンドロイドが料理を食べていたのだ。私は慌てて持っていたフォークを取り上げる。
「あんた正気!?、こんなの機体の中に入れたら壊れるわよ!。」
「大丈夫だよ。」
「大丈夫な訳ないでしょ...。」
「俺、ご飯食べられるんだよ。」
当たり前の事のようにアンドロイドがケロッとした顔でそう言った。食事が取れるアンドロイド?、そんなの聞いたことがない。
「優希達みたいに、食べたものの栄養とか成分を吸収してエネルギーとかには変えられないけど、味覚センサーとかがあるから料理の味とか匂いとか、食べる事は楽しめるよ。」
「本当に、平気なの?。」
「うん。」
アンドロイドは笑顔を見せると、また食事を始めた。
普通なら有り得ない...けど、今目の前にいるアンドロイドは確かに食事をとっている。
何とも不思議な光景だ。
「貴方、本当にどうなってるの?。」
「んー?。」
正直、ここまで人間に近いアンドロイドは見たことがない。
アンドロイドは基本、マスターもしくは管理者に命じられた事を忠実に守り行動する。
確かに、タイムスケジュールの管理のため食事を作ったり人間の世話をするアンドロイドはいるがそれはあくまで命じられた範囲内で行動してるに過ぎない。
なのに、このアンドロイドは命じられていない調理や食事をとる行為を己から進んで行っている。
「やっぱり、何かおかしい...。」
「料理の味、おかしかった?。」
「いや、料理の事じゃなくて。」
少ししかめた顔で考え込んでいると、アンドロイドが食事の手を止めこちらを心配そうにうかがっている。
『ピンポーン♪』
思考を遮るように玄関のチャイムが部屋に響た。
こんな時間に誰だろうか。
リビングの、インターホンのモニターから外を確認する。
そこに居たのは薫子伯母さんだった。
玄関のロックを解除し伯母さんを部屋に招く。
「ちょっと伯母さん!。」
「久しぶりね優希〜。ちゃんとご飯食べてる?また少し痩せたんじゃないの貴女??。」
「そんな事より、いったいなんなのこのアンドロイド!。」
私は、不機嫌な顔で怒鳴りながらアンドロイドの方を指さした。
「あらご飯食べてたの?美味しそうね〜。」
「伯母さんも食べる?。」
「あら、いいの?。ありがとう〜いただくわ。」
伯母は私の話などいにもせず、椅子にに座り食事をとり始めた。
「んー、美味しい!。」
「そお?、良かった。優希なんにも言ってくれないから心配だったんだ。」
「すんごく美味しいわよー。ほら優希も食べなさいよ〜。」
「ちょっと...。」
「ほらほら、座って座って。」
伯母は食事に夢中でこちらの話など耳に入っていない様だ。
「はぁ...。」
私は呆れて、ため息が出た。
この人はいつもこうだ。
自由奔放でお節介、1度よそを向いたらなかなかこちらを振り向かない。
こうなってはことが済むまで話なんて聞きやしない。
私は諦め、食事の続きをとることにした。